地方創生にこそ必要な、あたらしい公教育
人口1万人、長野県佐久穂町の廃校を活用した日本初のイエナプランスクール「大日向小学校」が開校して1年ちょっと。子どもと家族はほとんど町外から移住し町の人口は微増!まちづくりとしても素晴らしい事例。
僕とイエナプランのご縁は、7年ほど前、オランダで教育評論家のリヒテルズ直子さんとお会いして日本イエナプラン教育協会の中川綾さんや長尾彰さんを紹介いただき、いつか日本でイエナを!と議論しだしたのがきっかけ。
1 大日向小学校
大日向小学校ができるまでは、拙ブログご参照↓
僕自身は、UDSで校舎のリノベーションと給食運営をやってましたが、いまは評議員の末席にまぜていただき、間接的に応援してます。
先日、評議員会がZOOMでひらかれましたが、評議員に、鈴木寛さんや岡田武史さんもいらっしゃり、それだけ、大日向小学校が、日本の教育シーンにおいて重要なフロントランナーになってるなと、ひしひしと感じました。
イエナプラン教育の20の原則を踏まえて、大日向小学校は建学の精神を「誰もが、豊かに、そして幸せに生きることのできる世界をつくる」として、「自立する」「共に生きる」「世界に目を向ける」児童生徒の育成を目指しています。
教育的には、イエナプランスクールの特徴である「マルチエイジ(異年齢学級)」「サークル対話」「ブロックアワー(自学自習)」「ワールドオリエンテーション」などに目がいきますし僕自身もとても共感してます。
ただ、大日向小学校を地方創生・まちづくり的に見ることも大事な視点だと思ってます。
「共に生きる」は、子どもたちどうしは当然のこととして、地域の人たちと共に生きることが体験できなければ、閉鎖的で特殊な環境下のみの学習になってしまいます。
そうならないよう、開校前から、中川綾さんや長尾彰さんは、開講準備をまちづくりとして取り組み、とにかく地域の人たちとの対話にエネルギーを費やしてました。楽しそうに(これが大事)。
子どもたちが入学した時に、地域の人たちにとってカタカナのよくわかんないあの学校ね、とヨソ者扱いされないよう、大日向小学校という名前そのものや、茂来学園という学校法人の名前(茂来山から)も地域の人たちと決めてました。けっしてその必要性は客観的にはないにもかかわらず。
大日向小学校はもともと大きなランチルームがあり、給食は全校生徒が一斉に取れる環境でした。
そこで、さらに地域の人たちともいっしょに食べられるよう、保健所の了解もえて、給食を「学校ごはん」と名づけ「大日向食堂」として運営してます。
普段はいない僕が行っても、子どもたちがフツーに話しかけてきてサッカーやろうよって誘われたりw、その子どものお母さんも、地域の人たちも、ごはんつくってるメンバーも、みんなで一緒に食べる風景がとても楽しく心地いいものです。
こうやって、地域の人たちにとっては、廃校になった小学校に、子どもたちが戻ってきて、にぎやかな声であふれるのは、一番の元気になるだろうし、これ以上の町の活性化はないんじゃないかな、ぐらいまで感じます。
もう一つびっくりしたこととして、子を持つ親として、教育を理由に移住する人が間近に出てきたのです。
僕が高校生のキャリア教育をやるためにつくったNPO法人LiKE WORK!を引き継いでくれてる内村広樹さんが、まったくの偶然に大日向小学校と出会い、なんと3人のお子さんを連れて移住することに!後日談もいいとこでw。
一番下のお子さんが中学校を卒業するまで、15ヶ年移住。すごい決断です。
でも、大日向小学校側の立場を外れて中立的に見ても、気持ちはわかります。まして、コロナショックで、東京で生活することのリスクや、オフィスにいかなくてもよくなってくると、内村さんご家族のような選択はそんなに珍しいことではなくなってくるかもしれません。そうなってほしい。
町側の立場で考えれば、千載一遇のチャンスです。
地方移住先として選んでもらうには、教育の充実が欠かせません。かつ、その基準は進学率や東京に負けない〇〇をどう満たすか、って感じではなく、その地域にしかない教育、その地域だからできる教育を、いかにその地域自身でつくろうとしているか、が大切になってきてほしいです。
2 常石小学校
もう一つ、僕が関わっている事例として広島県福山市の常石小学校を紹介します。(2022年4月開校予定)
同じイエナプラン教育を、今度は公立学校として初めて開校させようという日本初の試みです。NHK広島でも大々的に取り上げられていました。
常石は、広島県福山市の人口約12,000人の沼隈町の一地区、常石地区としては人口約2,500人で、大日向小学校のある佐久穂町よりさらに小さいです。
ここは古くから常石造船がある町で、小学校も常石造船の創業者が寄付して設立された経緯があります。
教室から造船工場が一望。
常石地区では、少子高齢化が進み、常石小学校も廃校の危機に。
常石造船さんの社内で、自分たちの町に小学校がなくなってしまうのはよくない、なんとか守れないか?という議論になり、町の外から子どもたちを招く魅力をもつイエナプランスクールをつくろうということに。大胆!
広島県ではメディア露出も増えている元リクルートの平川教育長が独自にリヒテルズ直子さんとの親交を深め、福山市の三好教育長とオランダ視察に行くなど、県として、日本で初めて公立でイエナプランスクールを開校する方針を打ち出していました。素晴らしい!!
三好教育長には、僕からもプレゼンテーションさせて頂きました。勝手に抱いていた、おかたい教育長イメージが気持ちよく吹き飛ばされました。
「子どもたちが楽しみながら、既成概念にとらわれない発想ができるような校舎、環境にして!色が大事だよ、任せた!」とニコニコしながらおっしゃっていたのが印象的。とても楽しく仕事させてもらってます。ありがとうございます!
少し、実務的な話をすると、イエナプランスクールにする場合、建物自体の改修、補修や、イエナプランならではの環境づくりも不可欠、黒板を無くしたり廊下と教室をボーダーレスに近づけたり、教室をリビングルームとして再設計が必要です。つまりお金がかかる、という課題が大きくございます。
常石小学校のすごいところは、もともと小学校の寄付者であった常石造船が再び校舎を一旦預かり、僕らに企画・設計を委託、施工をした上で、再度、常石地区に寄付するというスキーム!なんていい会社なんだろう。。
最初、聞いた時、びっくりしました。地域の企業とはこうあるべきだな、と。経営者として尊敬しかありません。神原一族、すごすぎ。。
常石小学校は2022年の開校を目指し、この4月からは2教室だけ段階的に改修しイエナプランのメソッドを導入し始めます。
が、コロナの影響でかなり予定も変更し、現場の先生たちのご苦労は大変なものだと思います。
僕自身も、一部教室の完成を直に見ることができておらず歯がゆい思いをしています。
大日向小学校と同じように、常石小学校においても地域の人たちとの対話を始めています。
町の規模が小さく、高齢化も進んでいるため、佐久穂町以上に、常石地区の人たちにとって小学校は、アイデンティティそのものです。
今でも、毎日学校に行っては、子どもたちと接していたり、その距離感の近さも、この規模の町ならではです。みんな子ども可愛くてしょうがない感じは伝わってきました。
定期的に、公民館に集まっていただいて、町として小学校に何を求めるか、地域の人たちが協力できることは何か、活発な議論が進んでます。
まだ開校まで時間はありますが、皆さん、ものすごく楽しみにしているし、子どもは未来の希望であるということを体感できます。
一つ、印象的だったコメントが、子育て中の若い女性が、常石地区に住んでいて目的地がない、ということをおっしゃってました。
学校は子どもたちのためではあるけど、それ以上に地域の人たちにとっての目的地でもあってほしいという言葉に、老若男女問わず皆さんうなづかれていたのが印象的でした。
これはまだ提案段階ですが、1Fの職員室部分を大きく開口にして町の縁側と目的地にもなるライブラリーカフェやダイニングキッチンを提案してます。(要コロナ調整ですが、、)
3 地方自治体に拡げていくために
大日向小学校、常石小学校の事例を紹介しましたが、イエナプランスクールについては、今後も全国各地で計画があるようです。楽しみです。
僕自身は、いま、佐久穂町と同じ規模の宮崎県都農町にいることもあり、より一層、公教育として、イエナプランのような新しい選択肢の学びの場が拡がっていくためにはどうすれば良いか、に日々、向き合っています。
どんな教育をするかの次に課題になるのが、校舎整備と先生たちの採用や教育研修など、結構な額の投資がいることです。
大日向小学校では、株式会社グローバルキッズCOMPANY代表の中正雄一さん個人が、常石小学校では常石造船さんが、投資家という立場でも支えてこられてます。それは本当に頭の下がる思いで、ひたすら尊敬です。
同じ長野県の軽井沢にできる風越学園や、高校ではN高校やゼロ高校など、最近できている新しい教育、学校は、ほぼ起業家・経営者個人の投資、寄付によって少しずつ増えてきています。それはそれで、とても良いことなのでこれからも増えていってほしいです。
ただ、地方創生やまちづくりの観点でいけば、本来の公教育自体がオルタナティブ教育を含めて、もっとたくさんの選択肢を提供したり、その地域ならではの教育メソッドに対して、学区を超えて人が集まり、教育メソッドによる地域間比較がされるのは、あってほしい健全な現象ではないかなと思ってます。
話は少し海外に飛びますが、電子政府で最先端をいくエストニアでも、初の女性大統領ケルスティ・カリユライドさんは教育を最重要視してます。
なぜエストニアの子どもたちはPISAで世界トップクラス(科学では3位)のスコアを取れたかというと、エストニアには、いわゆるよい学校や悪い学校がありませんし、教育を十分に受けてこなかった両親のための学校もありません。中学校までの教育というのは、まったくの平等だということです。その後も、いわゆるエリート大学もありませんし、皆が同じ大学に通って交流し合ってます。子どもたちがどの学校やどの大学に行くのかは重要ではありません。私たちは「分離」していない。エストニアの学校制度は、このように非常に平等なのです、そしてこれは「国の宝」であると認識しています。私たちは、一般的な国よりもGDPの高い割合を教育に費やしています。社会的地位の変化はいつでも起こり得ますので、この世の中で「セキュアー(安全)だ」と感じるためには、教育こそが最も重要であると断言できます。現在の教育がうまくいっているので、私は子どもたちの将来に希望を持っています。(引用:つまらなくない未来)
地方創生関連で、あるいは交付金も含めて、案外、使途のイメージなく予算が振られてくることあるんだな、と感じてます。極端な話、この枠で何する?的な、予算消化のための企画とか。財源あるんじゃないか疑惑を素人ながら感じてまして。。
もっと地方で公教育のための整備予算を明確にし、いつまでも一部の問題意識の高い投資家や起業家に依存せず、行政が主体的に新しい教育の選択肢をつくっていって欲しいです。
教育というと教育委員会任せで、独立(孤立)してた印象もありますが、教育を少し拡げて、関係人口の創出手段、と捉えれば、あるいは人口流出抑制手段と捉えれば、地域の自治体としては最優先事項に昇格されるのではないでしょうか?わかんないことは、いまどき、一声かければ海外からも英知は集められます。もっと産官学一体で公教育、変えていきましょう!
個人的に、都農町では中学校に注目。町に中学校は1校だけ。240人ぐらいの規模。島根県の海士町が島前高校にフォーカスして高校魅力化を実現させたように、中学魅力化を実現させたいです。1校だけだから思い切ったこともできるはず!中学がもっと素晴らしくなれば(今が悪いわけではない)、未来の全町民の可能性が拡がるということ。
なんだか、教育長に提出する企画書の内容になってきてしまったのでこの辺にしておきます、具体的に提案したあかつきには続編書かせて頂きます!
最後に関連書籍のご案内だけ。
中川綾さんが書いて、長尾彰さんが出版事業を立ち上げて出版したお二人らしい入魂の一冊。
公教育と言えば、の本。リヒテルズ直子さん×苫野一徳さんの豪華な本
こちらは、リヒテルズ直子さんが激推し、オランダのイエナプラン教育の第一人者による教職員向け手引き。これまで出版されてなかったのでマクアケでクラウドファンディング中。あと1,000,000円ほど!ご協力よろしくお願いします。
↑僕もオランダで教職員向け合宿になぜか参加しフレークさんとヒュバートさんから直接薫陶を頂きました!面白かったなぁ。
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