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もがくような自分が、どことなくリンクしていく感覚(『この町ではひとり』)

きっかけ

きっかけについては、前に『きょうも厄日です』を読んだときと同じ。

先んじて『きょうも厄日です』を購入したわけですが、一方こちらは少し考えてから購入しました。というのも作品の様子と評価を、見て・聴いていたからです。

作者の山本さほさん自身が、「申し訳ないくらい暗い話」と言われていて、

ラジオ『アフター6ジャンクション』でも、
・異常に寄る辺無い、何も頼るものがない
・人生で一番辛い1年
と話していたのを聴いていました。

少々恐る恐るという感じでしたが、山本さほ初心者の自分は、とにかく色々な作品を読んでみたい。ということで、『この町ではひとり』、購入しました。

最初は『きょうも厄日です』のような

『この町ではひとり』は、浪人生活の末に大学受験に失敗した山本さほさんが、人生のリセットのために知らない町で一人暮らしをする1年間の話。

なんとなく呼吸を整えてからページを繰っていくのですが、最初のうちはむしろ先に読んだ『きょうも厄日です』を彷彿させる体験の数々。冗談を言う先生や、暴れる人たちがいる病院の話は、身近なところで目まぐるしく様々なことが巻き起こる山本さほさんそのものでした。

そこからバイトを始め、そのバイト生活をめぐる内容がメインになっていきます。バイトが始まってもすぐには辛さを感じないのですが、次第に言いようのない、でも自分にもあったような、共感に似たものを覚える苦しさが押し寄せてきました。

苦しさしかない後半

ずっとひとりでいることの辛さ。頑張ってみても効果が出ず、むしろ裏目に出るときすらある。何かあっても誰も助けてくれない。周りで起きることも辛さに拍車をかける。極端に言うと(言い方がものすごく強いかもしれませんが)、真綿で首を絞めるような日々が続く。

周りと比較して自分の至らなさを感じ、大学生活を謳歌している友人も、どこか受け入れられない。岡崎さんにもちょっと勇気づけられながら、やり直しをもう少し頑張ってみようと続ける。でも、日々はそう簡単に変わらず、苦しさはじわじわと増してくる。

ついに我慢ができず泣いてしまったとき、ふさぎこんで眠れない日々が続いたとき、読みながらものすごく胸が痛くなりました。先のことを考えて憂鬱になり、精神的に追いつめられる山本さほさんの姿に、自分も重く、暗いものを感じて読み進めている感じがする。

辞めると宣言したとき、この町での経験が自分を強くしたと実感したとき、再度遊びに来て、友だちとの楽しい思い出を作ることができたとき。読んでいるこちらまで、何か救われたような気になりました。
それだけ後半に訪れる、山本さほさんを取り巻く状況は、苦しさしかなかった。

もがくような自分が、どことなくリンクしていく感覚

本人のした実体験をマンガにしたからというだけではない、それ以上に辛い部分が伝わってきたのは何故なのか。『アフター6ジャンクション』で宇多丸さんが、山本さほさんとの話の中で言っていたことを思い出しました。

「こういう経験を(何らかの形で)したことがある人はいる」

まさに自分がこれだったのだと思います。
高校2年の夏、引っ越して高校に転入した後。限られた人数の友だちはいたけれど、ほとんどは居場所という居場所もなく、時々批判の的になることや白い目を向けられることもあった。
とある会社に入ったとき、数日で会社の実態に気づいて絶望しながらも、「辞めなければ」の思いと「でもすぐには辞められない」が渦巻いて、辞めるまで数ヶ月かかった。

山本さほさんの実体験とは違っても、自分の経験が思い起こされるような、そんな気持ちも抱きながら読んでいました。

自分を取り巻く状況は、良いことばかりで埋め尽くされているわけじゃない。今も先のことを考えれば鬱々とすることがしばしばあり、このままでいいのかと思いながら生活している部分も多い。もがくような自分が、どことなくリンクしていく感覚すらありました。

「感動というのは”感情を動かす”と書くから、物語を読んで怒るのも悲しむのも、感情を動かされたら全て感動だ」

マンガのあとがきには、こう書かれています。とすると、自分は『この町ではひとり』を読んで、ものすごく感動したんです。胸をぐっと締めつける、チクチクと痛みすらともないそうな、そんな感動。
でも、読んで不思議と嫌な気持ち、不快にはなりませんでした。

誰かの痛みを読むマンガ、自分にもあったような・あるような痛みを読むマンガ。キャッチーなイラストからは想像もしない暗さが伝わり、最初や間に挟まれる笑いどころが、本当に救いになる。強烈に印象に残る、人生の1ページを記したマンガでした。

自分のことを振り返りつつ、自分のこれからを考えつつ、ちょっとだけ自分に寄り添ってもくれる気がします。
山本さほさんに、やっぱり引き込まれていく一冊です。

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