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混乱と葛藤が新たな知恵を生む:タックマンモデルとアンラーニングの実践

先週、ある会社さんの幹部と戦略合宿を行いました。

2日間の合宿では「現状に満足していてはダメだ、事業の角度を上にあげていこう」と話しあいました。成り行きのまま事業を進めていては、衰退してしまいます。そのためには、戦略はもちろんですが、私たちリーダーの意識や行動を変えていくことが何より大事だという話をしながら進めていきました。

通常であれば、部門ごとに分かれて進めるのですが、1日目は、部門関係なく5人一組になってディスカッションをしました。いつもと違う刺激を与えあうことはもちろん、事業の角度を変えていくには、部署の利害を越えたところでの協力や課題設定が必要だと考えたからです。また、部署の中でも十分にチームになれていませんが、部門を越えると、なおのことチームビルディングが必要だという課題認識もありました。

合宿での議論を進めるにあたって、参考にしたのがタックマンモデルという考えです。

出典:『今いるメンバーで「大金星」を挙げるチームの法則 『ジャイアントキリング』の流儀』

タックマンモデルによると、チームが形成されると、最初はパフォーマンスがあがるものの、どこかでパフォーマンスが落ちるとされています。それは、互いの考えが分かって、遠慮がなくなり、意見を言い合うことで混乱するからです。この時期をストーミング(混乱期)といいます。

ここで二つの分かれ道があります。一つはフォーミング(形成期)に戻る、というものです。何か新しいことを始めようとすると意見が対立し、葛藤・混乱するので「まあ、まあ、うまくやりましょうよ」のような形で丸く収めようとするのです。その結果、確かにパフォーマンスは戻るかもしれませんが、元に戻るだけです。なにも学びがないので、大きな変化にはつながりません。結果、やがて衰退してしまうでしょう。

もう一つは、そのままチャレンジを進めていくことです。葛藤を健全なものとして受け入れ、そこから学ぼうとします。このことはチームに限らず、個人の成長にもあてはまります。同じ道を歩んでいたのでは成長は止まってしまいます。目の前の結果だけに囚われず、自分自身を高めようと高い意識を持って他の道はないのだろうかと試行錯誤をするのです。

もちろん、フォーミングに進むのも組織のために良かれと思ってのことです。しかしながらここに落とし穴があります。長い目で見た場合、フォーミングという手段では、進歩がないということを認識すべきです。放っておくと保守的、官僚的になりがちなのが組織です。困難を受け入れて進もうとする勇気をリーダーが持たないと、できない理由だけが出てきて停滞し、やがて衰退していきます。

同社がこれから角度を変えられるかどうかは、いかに勇気をもってストーミングを受け入れられるかどうか、というのが私の見立てです。事業計画、特に数字面での結果にこだわり、リーダーがトップダウンの力を発揮しています。それ自体は悪くないのですが、100%戦略や指示が正しいことはあり得ません。「こういう手段もあるのではないか」「私は、リーダーとは違って、この状況をこう解釈している」のような建設的な対立意見があるからこそ、新たな知恵が生まれるのです。

部門を越えてディスカッションをした結果、現状維持にとどまらずに、幹部がリーダーとしてどのようなアクションをしていくか具体的な内容が発表されました。加えて、発表内容に対して、建設的な質疑応答もなされました。これは、お互いの仕事への考え方が共有できたことが大きかったと思います。

しかし、一方で保守的な方向へ陥りそうな言動もまだまだ出てきます。質疑応答の中で「もしかしたら、この後、お話しされる○○部長の意見とは異なるかもしれませんが…」という前置きをする発言が出てきました。

これを聞いて気にならない人もいるでしょう。しかし、ここには丸く収めようという意識が表れています。こういう発言に敏感にならないといけません。

「意見は違っていいはずですね。私たちはこの2日間、その大切さを考えてきたと思います。“自分はこう考える”という発言自体が組織を前向きにするはずです。だけど、どこか守りに入ってしまった。そのことの影響を考えててください」と私はフィードバックしました。こうした言動を逃さずにフィードバックするのが、コンサルタントとしての私の役割であり、責任です。

私たちは、習慣の生き物です。習慣によって自動的に行動が選択されることがあります。いちいち考えていては効率が悪いからです。加えて、変化することも得意ではありません。本能的に今までとちがうことに抵抗感を覚えます。

この習慣を私は「轍(わだち)」と表現します。轍に沿って走るから安定します。その一方で、いつもと違う方向へ行こうとするとなかなか方向転換ができません。轍が深いほどそうなります。

実は、Learnの語源は「轍」だとされています。学習(Learn)とは、行動として定着し、習慣化されることなのです。そして、この轍に気づいて地面を均し、別の轍を描き始めるアンラーニングも重要です。そうした繰り返しによって、風土が変わり、混乱や葛藤を糧にするカルチャーが生まれます。

率直な発言ができるかどうかという意味で心理的安全性という言葉が使われます。その安全をつくるのは、葛藤や混乱を受け入れる勇気と柔軟性です。リーダーに求められるのは、メンバーが発言しやすいような和気あいあいの空気をつくることではありません。進歩するための矛盾に素直に向き合って、前向きに自分の言葉を紡ぐ勇気です。

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