経営者に求められる「何のために、誰のために」を自問自答する習慣
経営理念がお題目で終わってしまっている状況を見かけることがあります。多くは理念の中身よりも立ち返るための対話ができていないことがその原因です。
経営理念の実践と実装
先日、ある経営者との打ち合わせで経営理念の「実装」という言葉に出会いました。理念を「具現化する」ということです。
「実装」というとシステム構築などで、コードを書いて作りこむフェーズのことを指したりします。そのため、最初は、ピンと来なかったのですが、よくよく反芻すると「なるほどな」と思えてきました。理念を唱えるだけでは、成果にはつながりません。実践を繰り返して、掲げた理念を具現化できるような組織を作りこんでいく、ということなのだと理解しました。
そして実装するためには、理念の浸透や実践が必要だとその方は言っていました。経営者やリーダーが自ら率先垂範で理念を実践しないかぎり、浸透しないし、実装に進むこともできないと言います。本当にその通りだと思いました。
長期ビジョンはホームページにあるけれど…
先日、若手社員の方に経営戦略の立案について、研修でお話しました。いつも大切にしてほしいと伝えるのは、戦略立案の前に「理念に立ち返る」ことです。
自社がどこに向かうのか、やること、やらないことを決めるのが戦略立案です。自社を取り巻く環境を分析して、どこに進んでいくのかを考えます。このとき、ただの損得で決めるのではありません。自社は、何者なのか、どういう存在でありたいのか、何によって世のため人のために役立ちたいのかに立ち返ることが大切です。
なぜなら、実践を繰り返すには原動力が必要だからです。
何のためにそれをやるのか、誰に喜んでもらいたいのかという思いが私たちを動かす一番の原動力です。
しかしながら、受講者の反応を見ていると経営理念や長期ビジョンがお題目になっていると感じました。
「皆さんの会社の経営理念は何のためにありますか?」
「会社が長期ビジョンを掲げる目的は何だと思いますか?」
そんな質問を投げかけると明確に答えられなかったり、当たり障りのない綺麗すぎる答えが返ってきたりします。
「もしかして…、普段、経営理念や長期ビジョンについて社内で話す機会がなかったりしませんかね…?」
そう聞くと、「ぶっちゃけ中期経営計画の資料、いま初めてネットで確認しました」という声が出てきました。
実にもったいない話です。
100年以上の歴史のある会社です。日本のものづくりを支えてきており、いま、大きく産業が転換する中でもその最先端にいます。そうした使命を表した理念とこれからの外部環境の変化を踏まえた長期ビジョンが策定されています。
受講している皆さんもスマートで、自社のSWOT分析をすると、これからの課題について筋道立てて説明することができていました。しかし、「では、その課題解決に自分がどのように貢献していくか」と問われるとパッとしません。結局のところ、どこか他人事なのです。
しかも研修の目的は「主体性をもって自社の戦略を理解し、自律的に行動する」といった「お題目」が掲げられています。つい苦笑いを浮かべてしまいました。
自社の理念に立ち返るような自問自答の習慣を作る
同社に限らずよくあるのは、理念はあるけど浸透していないことです。年度ごとに目標設定はしても、経営理念に立ち返ることがないのがその原因です。単に前年度の振返りを行って、数字のリカバリープランを立てるだけになっているのでしょう。そうやって「何のために、誰のために」が抜けて行ってしまうのです。
いかにして、自社の理念に立ち返るような自問自答ができるか。それを組織の習慣にできれば、自ずと理念が実装されます。だとするならば、経営者やリーダーが率先して「何のために、誰のために」と自問自答する必要があります。
社員に求めるのと同じように、自分も組織文化を作る一員なのだという自覚を持てているでしょうか。私たちは、期待通りに事が運ばないと、その原因を自分の外に求めてしまいがちです。まずは、自らを省みる習慣ができているかどうか、自分の時間を見直したいところです。