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インクルーシブコンサート〜多様性を敢えて謳わなくても良い社会を目指すために

チョコの友だちの誘いで、クラシックのインクルーシブコンサートに行ってきた。

このインクルーシブコンサートは、
・年齢制限なし
曲の途中でも入退場自由
・声を出したり立ち上がってもOK
・撮影OK
という肩肘張らないスタイル。

受付スタッフも何らかの障害と生きる方が多く、鑑賞者もスリングに入った0才児、バギーに乗った子、感覚刺激のグッズを持っている人、声が出てしまう人も。
私はチョコとチョコの友だち親子と鑑賞したのだが、「何をしても大丈夫」という安心感からか、とてもリラックスして楽しむことができた。

一方チョコはと言うと、仲良しの友だちがいるとはいえ、オーケストラに登場する楽器を生演奏で間近で聴くのは聴覚過敏的に辛い
開演前、奏者たちが音出しを始めると、徐々に緊張した面持ちになっていった。

私もピゴとチョコを育てて改めて実感したことであるが、ライブ演奏というのは、当たり前だが、目の前で奏者が演奏している様子が見られる。
倍音が重なり空間全体が鳴る。
そして、演奏者の息遣い、衣擦れ、譜めくり、弓が弦に接したときの摩擦音、ブレスやタンギングといった音程にならない音もたくさんある。
それこそがライブでしか味わえない醍醐味なのであるが、視覚的にも聴覚的にも情報量が多い
即ち、刺激過多なのだ。
ただでさえ刺激が入りやすいチョコには、容易にメルトダウンしてしまう状況である。


そんなチョコは、自らイヤーマフを装着し、自分の意思で友だちと離れて最後列の出入り口に近い席で聴くことにした。
自分で判断して予防策が取れるようになってきたのはとても頼もしい。

チョコの自衛に加えて、開演直前、私は以下の3枚のおはなしメモを急いで書いてチョコに渡した。

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チョコは恐怖を感じたり刺激過多に晒されたりするときほど、声を出せなくなる
「出たかったらママに声を掛けて。外に出るから。」
と言っていたとしても、いざその状況になると声を出すことができなくなってしまうこともある。
なので、この3枚のメモの内容を一緒に確認したあと、お守りのように握らせた。


結果的には、このおはなしメモたちが登場することは無かった。
途中「トイレに行きたい」ということがあったのだが、それはおはなしメモをチラ見したあと、チョコは音声言語で私にその旨を伝えてくれた。
音声言語で伝えられたのは、メモがあったからだと思う。
メモがコンサートの途中でもいつでも伝えていいことだと彼女に保証になっていたからだ。

演奏中、チョコは音楽に合わせて身体を揺らしたり歌ったりということはなく、目を見開き口をポカンと開けて釘付けになっていた。
チョコは集中するとこういう状態になる。
そして後で撮影した動画や写真などを見て振り返りながら、そのときの余韻を味わい、自分の中に落とし込んでいくのだ。
私は自身が音楽を趣味で演奏する人なので、聴者としてその場にいると、演奏者と一緒になってブレスをしたり拍子を取ったり頭の中で歌ったりしてしまう。
今回はリラックスした雰囲気だったこともあり、身体は揺れて少し口遊んでいたかもしれない。
親子で鑑賞スタイルがなんとも対照的で可笑しい。


ところで、このインクルーシブコンサートは、Kids Music Communityが主催している。
その活動理念がとても素晴らしく、読んだときに泣きそうになるほど共感した。

わざわざ「多様性」と言わなくても
「多様性」が当たり前になる社会へ


「Kids Music Community」という名前には、こどもたちが音楽を通して寛容な社会(コミュニティ)を作ってくれることへの願いが込められています。
障がいの有無に関わらず、すべてのこどもが同じ場で音楽を楽しむコンサートを提供すること。
体験の格差、機会の格差をなくすことを目的とし、このような取り組みが社会全体に普及することを大きな目標としています。

Kids Music Communityのパンフレットにある活動理念より

そうだよ!
わざわざ多様性だのインクルーシブだの言わなくてもよい社会。
障害の有無で体験や経験の機会が奪われることのない社会。

まだまだそんな社会は遠いけれど、こういう活動をしている人たちが身近にいるというのはなんと心強いことか。


帰宅後、チョコは撮影した写真や動画をパパと兄に見せて一生懸命説明していた。
それどころか、このコンサートのパンフレットを翌日放課後デイに持って行って、「昨日こんなコンサートに行ったよ」と報告したらしい。
そんなチョコの姿を見て、本質的には音楽好きなチョコにとって、このコンサートは良い体験となったのだろうと思えてホッとした。
また機会があれば行けるといいね。


補足:サムネイル画像はパンフレットの一部。イラストレーター小林大介さんの作品です。

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