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代替肉って本当に食べていくようになるの? 植物肉への変換の難しさ

最近の代替肉市場の低迷

最近、米国を中心に代替肉メーカーの成長に陰りが見えています。

米国で植物肉を販売しているビヨンド・ミートは2021年1月から最高値から92.4%の株価が下落して低迷しております。要因として、売上高の伸びが止まってしまい、1億ドル近い赤字が続いていることが上げられます。

同じく米国の植物肉メーカーであるインポッシブル・フーズはここ1年で3度目となる20%レイオフを行っています。

 畜産業、特に牛肉はメタンの排出による温室効果ガスの主要な供給元で、飼料生産による広大な土地や水資源の利用、糞尿による河川汚染も引き起こし、環境負荷に対する批判が広がっています。
 米国の食肉代替食品の普及を目指す団体であるグッドフードインスティテュートによると、牛肉1キログラムと比較して、エンドウ豆1キログラムを生産する際に使用する環境資源は土地利用は18分の1以下、水は10分の1以下、化石燃料は9分の1以下、肥料は12分の1以下、殺虫剤は10分の1以下であると主張しています。だからこそ、植物肉への代替が進んでいくと思っていたのですが、いったい何が起こったのでしょうか?

ちょっと調べてみると、3つの原因が考えられるようなので、一つずつその根拠を説明させて頂きます。

原因1 価格が高い

 米国での植物肉の販売価格ですが、平均価格9.87ドル/ポンドに対して、牛肉は4.82ドル/ポンド、鶏肉は2.33ドル/ポンドとなるとのデータもあり、植物肉は本物の肉と比べてとっても高いのです。植物ベースとなると動物ベースよりもコストが安いというイメージを持ちがちですが、実際は本物の肉へ味や食感を近づけるため、調味料・増粘多糖類、色素などの添加物や資材を余分に加えるため、原材料コストはかなり高くなっているのです。
 大豆たんぱくは、大豆油の搾りカスを活用してまだ安いですが、エンドウ豆たんぱくとなるとまるごと豆を利用するので、価格も安くありません。大豆やエンドウ豆たんぱく質と牛肉の価格や環境負荷差だけへ注目するのでなく、植物肉ベースとなる製品を再現するための配合全体の資材で考えると、まだまだ価格は下がる要素は無く、畜産肉がよっぽど値上がりしないと価格は同等とならないのです。

 日本よりは環境意識が高い米国でも、環境に配慮した製品を買い続けるには10~20%上乗せぐらいが限界のような気がします。
 現在、パンデミックやウクライナ侵攻の影響で食料価格はどんどん高騰しており、長期的には世界人口の増加や途上国の発展でさらに食料価格は値上がっていくトレンドです。消費者に余計な支出を強いてしまう代替肉の価格では背に腹は変えられないため、どうしても一般層へ広く普及しにくいと思います。
 マクドナルドが去年に植物肉のテスト販売を実施し、メニューとして採用されなかったことが象徴的な出来事だと思います。

原因2:健康ではない

 エシカル消費の対象となる環境配慮した製品は、その実際の効果が見えにくく、環境意識を高く持った人以外に購入するインセンティブをなかなか持てないと思えます。「植物肉は植物性なのだから、健康的で体に良い」というイメージが連想され、毎日ハンバーガーばかり食べている層には、コロナ禍で運動ができず、週1回ぐらいなら肉から代替してよい、というような嗜好が働き、米国で植物肉の需要が拡大していきました。
 ただし、実際は植物肉と本物の牛肉で、カロリー、塩分、飽和脂肪酸などの栄養成分ははほとんど変わりません。植物肉製品は豆類の好まれないフレーバーを抑制するため、濃い味付けとなり、食塩相当量は高くなる傾向にあります。食べ応えの満足感を付与するためには、植物性油をかなり使用しているのです。当然ですが、大豆などの成分には健康に良い影響を与える成分も含まれているので、一概にデメリットだけではありません。
 あるミシュランのシェフは「植物肉を料理するときは塩、糖、油をドバっと入れて、物足りなさを再現します」とコメントされていました。消費者は「おいしさ」を一番に望んでおり、どうしてもニーズに答えるように動いていしまいます。

  欧米では「超加工食品」という日本には馴染みのない考え方があり、加工度が高い食品ほど、塩分・糖分・脂肪や食品添加物が使われやすく、工業的に作られる保存性がある食品、いわゆるお菓子やピザなどのジャンクフードと呼ばれる食品は体に悪いとの認識が広がっています。実際に認知機能が低下したり、大腸がんリスクが上昇するなどの論文も見受けられるようになってきました。
 植物肉を利用した製品も本物の肉を再現するために食塩、油、結着剤、調味料、フレーバーを利用しているため、超加工食品扱いと言えます。自然からの恵みをそのまま食べることよりも、複雑で特殊な加工や調理をすればするほど、不健康で環境負荷が高い食品となりやすいというのはなんとなくわかりやすいのではと思います(超加工食品の中にも例外はいっぱいあるので注意)。


原因3:環境によくない?

 植物肉が本当に環境に良いのか、疑問が投げかけられ始めています。大豆やインゲン豆を利用するには広大な面積の土壌が必要です。また、植物肉を作るには、主原料である豆類由来の温室効果ガスだけでなく、調味料、フレーバー、結着材、色素などの加工度の高い原材料の温室効果ガスも実際は含まれますが、計算が複雑すぎて、あまり根拠へ取り入れられていないことも多いです。加工・包装して輸送する工程でも温室効果ガスは発生し、原料由来からよりも多くのCO2を発生することもあります。また、工場の建屋や機械、運送中のトラックや船などの設備や機械を作る所でのCO2発生も考慮に入れるべきです。そして日本は、大豆やエンドウ豆をアメリカ・カナダに依存しており、輸送時に発生するCO2は大きくなります。

 原料の大豆と牛肉の比較だけだと温室効果ガス1/10となるかもしれませんが、製品すべての資材、工程、設備も含めると大きな効果は望めなくなります。
 そして植物肉シェアは2030年で5%しか占めないとなると、製品レベルで温室効果ガス抑制に大きな効果があったとしても、世界への影響はほとんどないとも言えます。植物肉への代替で温室効果ガスは単純にゼロになるわけでなく、代替したことで発生する分もしっかりと考慮する必要があります。

培養肉や昆虫肉は?

植物肉以外の代替肉として期待される培養肉や昆虫食についてはどうでしょうか?
 まずは培養肉ですが、技術的にまだまだの段階で大量培養するにはコストが高すぎます。

 閉鎖型植物工場もレタスしか採算が合っていないように、自然の中で草を食べて育ってくれる牛に対して、工場の中に培養タンクで精密な発酵管理を行い、細胞を抽出する製造ラインは高いテクノロジーが必要とされ、かなり大きな投資となってしまいます。

 それでは昆虫食はどうかというと、日本での調査では食べたいと思うが9.1%、思わないが90.9%で、圧倒的に食べたいと思わない人が多いです。昆虫食を食べてみた個人的な感想ですが、そこまで美味しいものではないし、女性には気持ち悪さを感じている人が多く見受けられました。これだけ食べたくない人が多いのであれば、食糧危機となったときの最後の手段となりそうです。

 ただし、昆虫食はヒトが食べるよりも、魚餌や飼料のたんぱく源として利用が進んでおり、昆虫が食べる餌も廃棄物を利用することができるので、サーキュラー・エコノミーの実現へと向かっています。

まとめ

 米国で植物肉がいまいち食べられなくなっている原因として、価格が高い、健康にそこまでよくない、環境にもよくないかも?という3つの要因が消費者にわかってきていることが上げられます。
 ただし、新しい技術は最初に過度の期待が向けられ、実際の成果に幻滅することで期待が薄れます。その後に具体的な成功例が少しずつ生まれてくるので、まさに植物肉はハイプ・サイクルの幻滅期に突入しており、新しいテクノロジーが通る道を歩んでいると言えます。

https://www.gartner.co.jp/ja/research/methodologies/gartner-hype-cycle

 日本人の食生活は保守的で、新しい食べ物をすぐには受容しませんが、今まで喫食経験がない新食品となる植物肉も少しずつですが一般層へ広がっていくとは思います。今の日本では植物肉市場が急拡大することは難しく、よく肉を食べている欧米の状況と切り離して考えていくべきです。日本の食品企業の植物肉ブームを少し落ち着き、本当に食べたい人だけが食べていく市場になってきています。コンサルの未来予測の売上規模はあくまでも予測であるので、過度な期待は禁物かもしません。

 誰が代替肉を普及させていくのか、スタートアップであるビヨンド・ミートの個社だけでは波は大きくなっていきません。流通・小売りも代替肉を売っていくインセンティブは無く、売上を確保できる畜産肉を売っていければ短期的には問題ありません。長期的に二律相反へ取り組んでいくにはどうすればよいのか、やはり政府のようなトップダウンの規制の必要性も感じ始めています。