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大使館で働きます。

唐突ですが、先月から某国の大使館で勤務し始めました。

私は元々大学院(修士号)でメディア・コミュニケーション学を専攻してた身です。イタリアとベルギーに一年ずつと、主流な英米圏の留学と比べると、少ないケースかもしれません。

2023年9月に正式に修了し、しばらく職探しに励んでから、最終的に公館勤務に落ち着きました。その経緯を振り返ってみます。

大学院からの職探し

大学院に行くともなると、特定分野での「専門性」を高めて、修了後はその分野で働くor研究を続けるイメージです。実際そういう方が多いでしょうし、自分もその「専門性」に憧れたために、大学院進学をしました。

ところが、今回の私のポストは「経済分野」で、私の専攻(メディア・コミュニケーション科学)と直接的な関係がありません。周りからも「もっとバックグラウンドを活かしたキャリアにするのかと思ってた」と言われることが多く。自分自身、意外に思っています。

考える転換となったのは、次の二つがあります。

AIの台頭 ―「専門性」って、何だろう

修士号はMsc. Digital Media and Society (デジタルメディアと社会)。テクノロジーの発展を、社会科学的なアプローチで研究する分野です。

当時はEUの首都ブリュッセルからも近い、学生街ルーヴェンにいました。学業に励む傍ら、大きなトレンドに飲み込まれます。AIです。

ChatGPTが流行り始めた時期で、私自身も積極的に使っていました。文献が難解だった際、文章を要約させたり。修論の方向性をブレストする際にも活用したりと、その可能性に好奇心をそそられました。

同時に、キャンパス内では混乱も生じます。AIにそれなりの指示文を与えれば、一学生の課題エッセイレベルの文章は、割と簡単に作れるからです。

どうやって学生の「達成度」を測るのか? そもそも人間が一生懸命に時間をかけ、手動でデータを集め、知識生産の活動に励むことに、どれほどの価値があり続けるのか。

学術的な機関にいながらにして、「スペシャリスト(専門家)を目指す」という考え方に若干の疑問を感じ始めました。特に文系的なバックグラウンドを持つ自分にとっては、殊更そうでした。

2010年代でスマホが何十億もの人口に普及したように、AIが次世代のインフラになる社会像を思い描き、そのベースで私の生き方を決められないかと考えます。

ひとつは、AIのトレンドを生む側。もうひとつは、「インフラ化したAIを活用しながら、変わらず価値があり続けること」に打ち込むこと。

前者では、実際にAI企業のスタートアップからお声がけをいただきました。大変嬉しく、面白そうでやってみたいと思いました。ただ、私自身にCS(Computer Science)のバックグラウンドがなかったことと、後者に感じている好奇心から、違った方向性を見出します。

際限なく広がる、地理・文化へのオタク的好奇心

私がそもそも海外の大学院に出たのは、「国」への好奇心からでした。

日本とは異なる環境で、何年間か過ごしてみたい。違う言語、風習、価値観に接して生活し、自身にどんな変化が生じるのかを測ってみたい。そう思い、特に興味の強いイタリアに飛びました。

実際にいろんな都市を歩き巡ることで、更なる好奇心が増幅します。塩野七生さんの「ヴェネツィア共和国の一千年史」や、ブラタモリで有名な陣内秀信さん(イタリア建築史家)の著作を読みつつ。テキストだけで読むと固有名詞だらけでいまいち頭に入ってこないのですが、本を片手に実際に街を歩くことで、理解度(と満足度)が圧倒的に高まります。

ベルギーもたくさん周りました。南のワロン地域と北のフランダース地域(+東の小さなドイツ語圏)で分かれており。ブリュッセルだけでなく、ルーヴェン、アントワープ、ゲント、リエージュ、ハッセルト、ブリュージュなど、多々ある諸都市を巡り、その土地の歴史を調べることが趣味になりました。

大学院の研究も大いに影響を受け、欧州七カ国の都市博物館(City Museum)を対象として、ヨーロッパさまざまな都市における文化施設の聞き取り調査をしました。

そう振り返ると、私をずっと突き動かしてきたのは「都市・地理」への好奇心でした。高校(行ってませんでしたが)のときも、世界史が大好きで。センター試験ではほぼ満点を取るほど、強い執着があり。

ある街がどんな産業で栄えてきて、どう経済的に成り立っているのか? 常に考えたり、気がついたら調べている。だとしたら、自然に芽生えたこの衝動を活かしたことができないか? そう思い、冒頭の結論に辿り着きます。

オタク的衝動 > 効率性

一見非効率で、何に役立つか分からない。けれど「自分がいくらでもできること」「好奇心に突き動かされること」を軸に据えたほうが、もしかしたら面白くなるのでは?

賢さ・知識のエキスパートが、AIでそれなりにカバーされるのなら、人間は効率性を度外視した、「個人的なオタク的衝動」で動いてみていいのでは。

私は大使館という場を想像すると、自分がやってみたいことが、自然とポンポン浮かんできました。勤務先の国の地理・歴史・文化・経済/社会事情も、勝手に何でも調べたくなる。ついでに日本の事情ももっと学びたくなる。

長期的に見ると、どんな道に辿り着くのかは分かりません。ただ少なくとも今の選択肢にはとても満足しているし、日々充実した気持ちでいます。

訂正していっても良い

元々「メディア・コミュニケーション分野の専門家になりたい」という思いで院進しました。なので卒業後の予定は、メディア業界、PR/広報職やUI/UX関連のポジションを中心に想像していました。

もちろんそのバックグラウンドを活かすことも十分にできたと思います。ただ、ある段階から大きく気にしなくなり。「想定していなかった副産物」に目を向け、ワクワクさせられることが途中にあれば、その道を選び取ってもいいのではないか。

私にとっての大使館は、その一歩となった感覚があります。

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