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辺境の狼を探せ。

スタートアップスタジオquantumのクリエイティブ担当役員、川下です。
新規事業開発を成功へと導くために「未来の物語」を書く事業作家として働く中で考えていることを、このnoteに書き留めています。

前回、プロジェクトのオーナーには、「オーナーシップ」「やり抜く力」「巻き込む力」という3つの資質が必要であると書きました。しかし、言うは易し行うは難しであって、いざ実際に辺りを見渡してみても、これらすべての能力を併せ持った人材を見つけるのは、そう簡単なことではありません。

さて、困りました。あなたが組織の中で、新規事業創出の任を担っていたとします。是が非でもプロジェクトを成功させなければならないとしたとき、どのような行動をとるでしょうか。

きっと、組織内ですでに目立った功績を残しており、周囲からも優秀だと評判の良い存在を探してアサインしようとするのではないでしょうか。しかし、ここに落とし穴があるというのは、過去の記事でお伝えした通りです。既存事業で勲章を持っているからと言って、その人材がある種未開の地ともいえる新規事業でも同様のパフォーマンスを発揮できるとは限りません。

では、先ほど書いたような3つの資質を持ち合わせた存在が現れるまで、指を食わえて待つしか手立てはないのでしょうか。その答えはNOです。「三種の神器」を携えた逸材、あるいは、実践の中で3つの力を覚醒させる存在は、意外なところに隠れているものなのです。

柵の中でルールに従って褒められる羊(既存事業において評価が高い人材は、このタイプの方が多い傾向にあるかもしれません)ではなく、自らの意志で獲物を仕留めようとするハングリーな狼がいるところ。それは、「辺境の地」です。組織に置き換えるならば、このハングリーな狼は花形部門ではなく、日陰部門などと呼ばれる場所に隠れている可能性がある、ということです。

イノベーションを生み出すには、人の資質が鍵であることは言うまでもありません。しかし、そうした人材を生み出す環境も重要なファクターであると、わたしは考えます。

花形部門に所属していると、たとえ新規事業で成功すれば大きく功績が認められるとしても、わざわざ今の立場を追われるリスクを犯してまで新しいことに挑戦したいとは思いにくいのではないでしょうか。ところが、もとより日陰部門の所属ならば、そもそも挑戦すること自体が大きなリスクにはならないのです。

「イノベーションは辺境から生まれる」と、しばしば言われます。また、2005年、Steve Jobsがスタンフォード大学の卒業式で行った有名なのスピーチは、“Stay hungry. Stay foolish.”(「ハングリーであれ。愚か者であれ。」)という言葉で締めくくられました。

満たされた状況にいることが悪いとは決して思いません。しかし、そうした状況からなぜイノベーションが起きないのか。新規事業が生まれないのかと言えば、開発に携わる本人が現状に満たされており、ハングリーに立ち回れない、言い換えれば心の奥底では実は変化を求めていないからだと考えることができるのではないでしょうか。

もし、本気でイノベーション(顧客の問題解決)を起こし、新規事業を生み出すオーナーを発掘したいならば、満たされた状況とはとうてい言えない「辺境の地」に目を向けるか、これまで既存事業で名前を聞いたこともないような、飢えた狼が名乗りを挙げることのできるようななんらかの仕掛けを施してみるとよいかもしれません。

次回はプロジェクトのオーナーが決まったところで、続いてどのようにチームのメンバーを組成していくかについて書きたいと思います。

イラスト:小関友未 編集:木村俊介

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