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あぐり日記④「人見知りと背徳の山岡家」
◇
朝3時、根室の自宅を出て
帯広での農業バイトへ向かう。
帯広までは往復500km。
ガソリン代や運転する労力、
さらに飲食代に宿泊費を考えると
日当1万円では正直全然割に合わない。
それでも、ただやってみたい。
4年前、農業がやりたくて北海道に来たのだから。
◇
それにしても
未明に食べる山岡家のラーメンの背徳感は
何物にも代えがたい。
店に入った瞬間の独特なトンコツ臭、
殺伐しきった空気の店内、
それからあの上品さの欠片もない
いかにも身体に悪そうな味がたまらない。
釧路まで来ると、ようやく中間くらいだ。
明け方、
大雪山系の登山や道央方面に向かうときは
こうして山岡家に立ち寄ることが多い。
他に開いている店がほぼないからだ。
この時間帯の山岡家は格段に美味い。
塩が、脂が、糖質が、運転で疲れた身体に
ものすごい浸透圧で沁みわたっていく感じがする。
◇
今回は「長芋掘り」のバイトらしい。
仕事内容を読むと、
「長芋を掘る作業です」とまあシンプル。
シンプルだけど全然想像がつかない。
そもそも長芋って
どんな感じで植わってるの?
サツマイモみたいに蔓とかあるんだっけ?
どうやってそれを掘り出すの?スコップ?
身近な食材なのに、
よく考えたら知らないことばかりだ。
農家ってどんな雰囲気なんだろうか…
うまく馴染めるかな…迷惑かけないかな…
体力持つかな…腰痛めないかな…
不安が沸々と出てきて、お腹を下した。
◇
営業マンだったくせに、
実はなかなかの人見知り。
初対面の人はもちろん、
友人や親戚と久々に会う時も、
必ずお腹を下す。
話すのは好きだし、苦手でもないし、
初対面の人とも大体仲良くなれる。
ただしお腹は下すし、食欲もなくなるし、
吐き気がするし、冷や汗も出るし、
たまに過呼吸症候群にもなる。
僕にとって初対面の人と話す行為は、まるで
好きなのに食べると体調を崩す食べ物のよう
(味濃いめ脂多めにした山岡家のラーメンのよう)
だけどどんなに体調を崩してでも、
やめられない面白さってやっぱりある。
知らない人に出逢うことは、
知らない世界に出逢うこと。
知らない世界に出逢うことは、
知らない自分に出逢うこと。
そんな気がするのだ。
ちなみに、山岡家は特製ネギ味噌がお気に入りです
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