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#5 「怒り」をコントロールする(1) ~怒りの受け止め方~

●前回の記事: #4「怒り」について(2)

前回の要点です。

「怒り」という感情がわく背景には、「自分が何らかの形で被害に遭っている・困っている」という気持ちがあります。「被害に遭う」と困ってしまうのは、「自分の守るべき領域が侵されている」からです。この「守るべき領域」= 「境界線」が侵されるような出来事が起こると、自分を守るために、「怒り」という感情がわきます。
「怒り」という感情をコントロールするには、ただ怒りを抑えるのではなく、自分の「境界線」をしっかりとしたものにして、「役割期待のずれ」を調整することが必要です。

さて、今回から「怒り」という感情をコントロールするための方法についてお話ししますが、まずは「怒り」の感情がわいたときに、どう受け止めればよいのかについて取り上げます。

1.「怒りの感情」をそのまま受け入れる

「怒り」の感情がわいたときは、「自分が被害に遭った」という気持ちが背景にありますが、まずはその感情について、自分で自分を俯瞰で見て「あ、今自分は怒っているんだな。」そのまま受け入れるようにします。

次に「被害」と受け止めるのではなく、「今、自分は対処に困った状況にある」と認識して、「怒り」のエネルギーを手放し、適切な対処法を考えるように意識を向けます。「あ、今、自分は怒ってるな。ちょっと困った状況だからね。どう対処しようか考えなきゃ。」と自分で自分に言い聞かせるように。

そして、「怒っている自分」に対して「まあ、あんなことされたから、腹が立つのも仕方がないよね。大変だったね。」と、自分でやさしい言葉がけをして、冷静になるように努めます。

例えば、友達が陰で悪口を言っていたと聞いて、腹が立ったとします。「悪口を言われた」という事実を「被害」と受け止めず、「あ、今、自分は怒ってるな。ちょっと困った状況だからね。どう対処しようか考えなきゃ。」ととらえます。そして「まあ、陰で悪口を言われたんだから、腹が立つのも仕方がないよね。大変だったね。」と自分にやさしく声掛けをします。

要は、「怒り」の感情がわいたときに、「被害者意識」を手放し、対処しなければならない問題があるととらえなおし、その状況にある自分にやさしくするようにします。被害で心を傷つけないようなとらえ方を自分で選択できるのです。

2.相手には相手の「事情」がある

人はそれぞれ考え方や価値観など、違っているのがあたりまえですから、すべての人がそれぞれの「事情」を抱えているととらえるようにします。

先ほどの友達の陰口の例でいえば、「悪口を言うなんて、あの人にも何か事情があるのね。」ととらえ、相手にしないようにします。(この陰で悪口を言う人に対しての解釈の仕方は、次回以降でも別の視点でお話しします。)

また、別の例で言えば、何度説明しても仕事を覚えてくれない新入社員さん。先輩社員さんは、とてもイライラしています。

「きっと、覚える気がないのよ。努力しようとする気持ちがないんだわ。」

でも、「努力が足りない」わけではなくて、本人は本人なりの「事情」の中で最大限努力しているのです。もしかしたらプライベートで大きな悩みがあって仕事も手につかないくらいの状態なのかもしれません。いずれにしても、我々は他人の「事情」すべてにおいて、100%把握することはできませんから、「努力が足りない」とか「覚える気がない」とか、決めつけずに「努力が足りないと言い切るほどの証拠がそろっているだろうか」と考えるようにします。

3.相手からの「評価」は受け流す

先ほどの例で、先輩社員さんが新入社員さんにたいして「努力が足りない」と決めつけているのは、言い換えれば、先輩社員さんからの新入社員さんに対する「評価」です。新入社員さんは、これを「自分に対する攻撃」と受け止めてしまうと、「被害者意識」が生じて「怒り」がわくかもしれません。

「評価(決めつけ)」は相手が相手の「境界線内」(領域内)で下しているものです。先ほどの例で言えば「何度教えてもマスターしてくれないことに対する不安・恐れ」が、新入社員さんに対する「怒り」となって表れているわけで、いわば、先輩社員さんの「心の悲鳴」と言えます。ですから、この「評価」を「相手の心の悲鳴」として受け流すことで、自分の「境界線」(領域)を守ることができます。

別の例をあげます。友達が自分の彼氏に対して、

「あなたの彼氏、ダサいよね。もっとコーディネートとかあなたが口出しすべきよ。」

と、「余計なお世話」とも言える「アドバイス」をしてきた場合を考えてみましょう。

実は、「アドバイス」は、相手の「境界線」に踏み込んで、「相手の現状を否定」することになってしまいます。こういうときには、

「相手の気持ちに配慮することもできず、相手の現状に対してただただ静観するのを我慢できなくなったのね。」

と、とらえるようにします。その後「あなたのためを思って言ってるのよ」なんて言ってきたとしても、「アドバイス」は「現状に耐えられないという相手の心の悲鳴」ですから、「自分の境界線に不法侵入されないように」受け流して、「自分の境界線」を守ればいいわけです。

4.「正しさ」にはこだわらない

先ほどの「評価」や「アドバイス」は、ある意味自身の中で、

「~であるべき」
「~でなければならない」

という、自分なりの「正しさ・正義」という価値観です。

しかし、価値観は人それぞれですから、自分の価値観を強く主張したり、押し付けたりすると、「相手の境界線を侵す」(攻撃する)ことになってしまいます

人は「攻撃」されると、自分の「境界線」を守るべく、心の「防衛」体制をとり、場合によっては「排除」しようと「反撃」したりします。ですから、

「私はポジティブにしているおかげで、毎日すごく充実しているわ。人はポジティブなほうが好かれるのよ。あなたはもっと明るく振舞うべきよ。」

などといった、「正しさ」「価値観」の押し付けをされた場合は、先ほどの

相手には相手の事情がある
現状に耐えられなくて心の悲鳴をあげているのね

と「正しさ」にはこだわらず受け流して「自分の境界線を守る」といいでしょう。

5.状況の受け取り方は「自分で選んでいる」

ここまで、「怒りの受け止め方」についてお話してきました。

「被害者意識」を手放し、対処しなければならない問題があるととらえなおし、その状況にある自分にやさしくする。
② 相手には相手なりの「事情」を抱えているととらえるようにする。
③「評価(決めつけ)」は相手が相手の「境界線内」(領域内)で下しているものなので、「被害」と取らずに受け流して「自分の境界線」を守る
④「アドバイス」は「現状に耐えられないという相手の心の悲鳴」なので、「自分の境界線に不法侵入されないように」受け流して、「自分の境界線」を守る。
⑤「正しさ」「価値観」の押し付けをされた場合は、「正しさ」にはこだわらず受け流して「自分の境界線」を守る。

実は、「怒り」という感情がわくのは、「被害に遭った」という受け止め方を自ら「選択」しているからです。なので、その被害を受けたという「選択」を、先ほどまでお話ししてきた受け止め方に「自分の選択を変える」ことで、「怒り」の感情を手放すことができるようになります。

「自分が被害に遭った」と「受け身の選択」をしていたのを、「主体的な選択」に変えることによって、「自分のこころを自分でコントロール」することを目指しましょう。次回は受け止めた「怒り」に対してどう対処すればいいのかをお話ししたいと思います。

(つづく)

★今回最も参考にしている、水島弘子先生の本です。


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