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地方発のエンタメの可能性への挑戦 #2

私が東京の仕事から戻り、博多で仕事を始めた時、現場でご一緒したのが筑前博多独楽宗家二十代当主の筑紫珠楽さんでした。

博多には筑前博多独楽という伝統芸能がありその芸は回転する独楽を刀の刃の上を走らせていく芸であったり、紐の上を回転する独楽に渡らせたりという芸でした。


私も福岡で育ったものの、初めて見る伝統芸能でした。博多独楽に関わらず地域にはずっと守られている伝統や技があるんだと初めて知りました。



そんな筑紫珠楽さんがこの筑前博多独楽の芸のための音楽、いわゆる地方(読み:じかた)さんとしての仕事を再定義し直し、立ち上げたのが金獅子太鼓でした。

この金獅子太鼓として筑紫珠楽さんが創作し世界14カ国で公演されたLOTUSという舞台エンタテインメントを再構築し、新たなホテルエンタテインメントを創り上げるという話でした。


コロナ禍でダメージのあったエンタテインメントの分野に赤字の補填の意味も含め提供される文化庁の補助金事業としても採択を受け行うという構想の中、私も筑紫珠楽さんがイメージする世界観を音、照明、映像という分野において演出するという大役でしたが絶対に参加したいという想いが強く二つ返事でやらせてもらうことにしました。

この構想の前に、同様にホテルエンタテインメントとしてコロナ禍で失った”博多の祭りの音”をテーマとした映像作品を作っておりましたのでそれが土台ともなった作品となりました。



この作品の和太鼓、JAZZ PIANO、篠笛をベースに音楽も更にバラエティに富んだ編成で構成されそこにはタップダンサーの浦上雄次さん、パーカッションの奥田真広さん、ジャンベの池田正博さんというバラエティに富んだリズムのスペシャリストが参加されました。



そして今回のテーマは筑紫珠楽25周年の祝祭を兼ねた「LOTUS」そして新たに加えられた「淡月」

このLOTUSそして淡月をどのように紐解いていくか。


ここから始まったような気がします。LOTUSと言えば

蓮とは何か?

淡月とは何か?

以前のnoteでも紹介しましたが蓮は”清らかな心”という花言葉を持ち泥水を吸い上げながらも美しい花を咲かせることから来ているそうです。

以前に私が書いた公演の記事も併せてご覧ください ↓



筑紫珠楽という伝統芸能の伝承者がその25年に込めた想いに通ずるんだろうなと勝手に想像しながら演出のイメージを作って行きました。

そしてこのLOTUSとともにテーマに掲げた”淡月”これはなんだったのであろうかと深く考えてみたのです。



月は徒然草の中においても象徴的に描写されています。

どんなときも月を見ると心が癒されると描かれるように月というのは蓮同様に下積みの期間や報われない時期に誰もがそこに誓いや祈りを込める対象であったのでしょう。


そして刻々と満ち欠け変化する姿からはその心情を重ねることが出来ます。

筑紫珠楽という芸を磨く日々の中で光が十分に当たるわけではない地方の伝統芸能を存続させるための苦悩とともに着実に一歩一歩その歩を進めるために月を見上げて来た日々を勝手に想像してしまいます。



そんな陽が当たるとは言えない、地方の伝統芸能をいかに存続し繁栄させていくのか。

それはきっと挑戦という名の”革新”しかない。

そんな想いを勝手に想像し会場をステージをどのように演出していくのか。

それが私のテーマとなった気がします。


そしてこの筑紫珠楽という表現者の想いを背負った音楽監督の岩崎大輔はジャズからブルース、そしてクラシックまでジャンルを超えた楽曲に純邦楽楽器の和太鼓をしっかりと融合させました。

音楽監督の岩崎大輔氏自身が東京で第一線で活躍していた頃に突如九州へ帰ることを決め、九州でずっと音楽と向き合ってきたものの、やはり第一線でスポットライトを浴びていたあの頃を取り戻すように、そこには一人の音楽家としての強烈なプライドが垣間見えた気がしました。


その二つの軸が明らかに音で共振し合いながらその共振そして共鳴が音の波紋のように拡がっていくステージとなったのです。

音が共振して共鳴していく。

そんな感覚を表現する意味でもLOTUSというテーマを選んだと語った筑紫珠楽さん。


蓮も時を同じくして花を咲かせるようです。

まるで共鳴し合っているように。


そしてその共鳴が空気を振動させていき、その蓮が咲く瞬間に音が鳴るのではないか。

そんなロマンティックな話も筑紫珠楽さんから教えてもらいました。



蓮は池の上でその美しい花を咲かせます。

ステージはその池のようになっていきました。


音が優しく繊細に表現される時は水面が水平で美しい鏡面のようにその穏やかさを見せ、音に力強さ、演奏の重なりが現れるとその水面は荒々しい波紋が大きく表れその波紋同士が共鳴していくようなステージとなっていきました。


タップの音と和太鼓とパーカッションとジャンベの打楽器の音が重なっていきその音にピアノやバイオリン、フルート、ときに篠笛が重なりとても贅沢な音の旅をしているような気分となりました。



音が重なり合っていく中でその音は博多という地方の音を超え、そんなカテゴリーを凌駕していく可能性を感じさせてくれました。



冒頭のタイトル同様、地方発のエンタメは”日本”を奏でながら世界へとその音を響かせていくものとなるのだろう。

そんなことを感じるステージとなりました。



博多発の音のエンタテインメントをホテルエンタテインメントにそして日本中に、そして世界に。


そうやって筑紫珠楽という一人の和太鼓奏者が奏でた一つの祈りが蓮池の水面の波紋のように大きく広がっていくことを願ってやみません。

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