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【小説】モンストロマン【完結】

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1960年代の北加伊道(ホッカイドウ)。そこに生きる、推定1000歳、不死身の男は何を想うのか。ハードボイルド&ファンタジー開幕。
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#ハードボイルド

「モンストロマン」2-4

 ジャックは男の首を放って捨てた。血の噴水を浴びたせいで、服はまただめになってしまった。キティに何を言われるのか考えるのが憂鬱だ。
「ジーザス」牧師が神の名を呟く。
「牧師、あなたはどうしてこんなところに?」ジャックは疑問を口にする。
 そもそもどうして彼は殴られていたのか。まだ、理由を知らない。ソーヤの頼みを聞いて介入したが、今は詳しい事情を聞いてみたかった。ジャックは牧師とソーヤの居る方に歩み

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「モンストロマン」2-3

 中華料理店「満福」から歩いて十分ほどで薄野に到着した。昨日は通り過ぎるだけだったこの場所も、今日は目的地である。少し観察するといつもとは違う雰囲気を感じ取ることができる。それはクリスマスに向けて準備された、大きいモミの木やサンタクロースを模して造られた装飾だけが原因ではない。人々の活気。祭りの前の浮かれた空気が、日常、どこか殺伐とした雰囲気を持つこの街をやわらかく包んでいた。
 本当に人さらいな

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「モンストロマン」2-2

 狸小路を出た後、二人は薄野の中心に向かって歩きだした。通りの人間はさきほどより、はけていた。飲食店に人が集まる時間だ。こんな時間に腹をすかせたまま歩くのは、誰にとっても耐え難いことかもしれない。道は相変わらず雪が残っていたが、朝よりは踏み固められていて歩きやすい。人の足跡はやはり、どれも飲食街の方へと向かっているのが見て取れた。
「ちょうどいいや、調べるついでに昼飯も食っていこうぜ」キティが言う

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「モンストロマン」2-1

 薄野の北。まっすぐ伸びるアーケードは、かまぼこ型の屋根で雪から守られていた。ホッカイドウ随一の闇市であるここは、狸小路と呼ばれていた。アーケードの入り口には、大袈裟な装飾を施された、ジパング風の巨大な鳥居が君臨している。何を求めて、ここを訪れた人間にせよ。皆、金を抱えてそれを潜り、反対側の出口に流されていく。
 逆らうことの難しい人の川。周りの平均的な身長から、頭二つ分は抜けているために目立つ男

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「モンストロマン」1-6

 長机の向こう側で、老人の手に納まっている液時計。その中身は、自分を化け物に変えた薬であるかもしれない。そう言われたジャックは動きを止める。
 やっと見つけた歓喜。何を今さら、という戸惑い。千年、積もり続けた。それまでは、無視し続けてきた悲しみのようなものが、どろどろに溶け合って。感情の堰を壊そうとしているのが分かる。今は一言だけ、言葉を絞り出すのが限度だった。
「キティ。先に薄野へ行ってくれない

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「モンストロマン」1-5

 帰りはドレッドの案内で、日が沈む前に涅槃場を出ることができた。当然彼は嫌がったが、キティの交渉に感銘を受けて。最後には渋々ながら協力してくれた。
「案内はここまで。俺は、またしばらく涅槃場に潜る。手下を皆殺しにされたからな。とてもじゃないが、恐くて外は歩けねえ」
「一人まだ生きている」
「逃げたやつは手下に数えない」
「確かに、そうだね」ジャックは頷く。「さようならドレッド」
 去り際、ドレッド

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「モンストロマン」1-4

 四人死んで、一人が逃げて、最後の一人が残された。その最後の一人であるアフロの男は、キティに銃を向けられていた。
「まだ笑えるか?」キティは言う。「笑えねぇだろ」
「笑えるわけがねえ、なんなんだよ。そっちの化け物はよ」男はジャックの方を見て言う。
「特殊な体質なんだ」ジャックは言った。「そんなことよりも、ダグラス。返済金の話をしよう」
 アフロの男は、目の前にいる二人を交互に見てから口を開いた。

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「モンストロマン」1-3

 狭い路地を抜けて、また、抜けて。それを繰り返す。涅槃場《ネハンバ》の中は空が見えなかった。無茶な増築で縦横に繋がった建物が、天井のようになっているせいだ。屋外でありながら、建物の中にいるような場所が延々と続いている。このどこまでも閉ざされた世界で、窒息してしまわないように、空気を送る一メートル大のファンが設置されており。それはいたるところで見かけることができた。雪道を歩かなくて済むことだけが、こ

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「モンストロマン」1-2

 キティは、ジャックと二人でダグラスの縄張りに向かって歩き始めた。自分たちがいた通りを抜けて、大通りに出る。大通りには昨日の雪が残っていて、どう歩いても膝まで埋まってしまう。キティはお気に入りの冬用ブーツを履いていたが、それでも中身が濡れるのを防ぐことはできなかった。
「糞ったれ、靴下まで濡れちまった」キティは悪態をついた。
「次は革のブーツにしたらどうだ? これなら、どんなに歩いても濡れない」ジ

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「モンストロマン」1-1

 ジャックは、カレンダーを見ていた。一九六二年の十二月。それほど正確な記憶ではないが、自分が不死になってから。ほぼ、千年に近い時間が経ったことになる。年齢は、聖書にでてくる聖人どもに追いつきつつある、それを考えると笑えた。
「何、何? なんか良いことあったわけ?」
 声の方を向く。そこにはキティがいた。彼女は今現在、ジャックと同居している。同居と言っても、恋人や家族というわけではない。奇妙な関係。

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「モンストロマン」プロローグ

 故郷から離れた、イングランドの戦場で。男は死にかけていた。胸を貫いた矢は、鏃のところで折れて抜けなくなっている。心臓が脈を打つたびに血が流れる。血が流れるたびに、さきほどまでの激痛が、躰の感覚と一緒に消えていく。これが死ぬということか、と男は感じた。
 男の周りは静かだった。彼が倒れてすぐに、戦場の音は遠くに移ってしまった。将を打ち取った仲間たちは、皆、砦を落としにかかっているのだ。こんな、つま

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