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銃と宇宙 GUNS&UNIVERSE

2016年から活動しているセルパブSF雑誌『銃と宇宙 GUNS&UNIVERSE』のnote版です。
明るく楽しく激しい、セルフパブリッシング・エンターテインメント・SFマガジン。気鋭の作家が集まって… もっと詳しく
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2020年5月の記事一覧

【ちょっと上まで…】〈第八部〉『帰還』

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ # <<【 第七部】 へ            >【第一部】から読む< ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 〈第八部〉 『帰還』 〈シャトル〉・今  亜軌道とも准軌道とも呼ばれる、成層圏低層。地球の大気と真空の狭間。  深宇宙でも、大気圏でもない、そんな中途半端な空間でアタシはあえいでいた。  やっばい。やばいよ!  船いないじゃん!!  これじゃ船に……、〈バイトアルト〉に

目次的なリンクと編集後記的なコラム

 作品が増えてきましたので、目次っぽく第一話へのリンクを置いておきます。 (作家五十音順) 神楽坂らせん 『ちょっと上まで…』第1話 かわせひろし 『キャプテン・ラクトの宇宙船』第1話 波野發作 『ジェネレート・ジェネレーション』第1話 にぽっくめいきんぐ 『いないいないもばあのうち』(完結)第1話 『アリストテレスイッチ』第1話  お楽しみいただけていますでしょうか、編集長かわせです。4/25に、ガンズ始めますという最初の記事を書きまして一か月経ちました。ちょっと編集後記

【ちょっと上まで…】〈第七部〉『High Altitude Mission』

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ # <<【 第六部】 へ            >【第一部】から読む< ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 〈第七部〉 ─ High Altitude Mission ─  それは十五年前。まだコンピュータたちが生きていた、最後の夜のこと。  国の中央圏から北東方向に数百キロ離れた地域にその施設はあった。  人里から遠く離れた険しい山中。むき出しの岩肌の間に、周囲の自然からかけ

1-02. 押すなよ! と言われると

 声優の養成所を出た私が、西新宿でお弁当屋のバイトをしていた時。お客の中に、キヨくんこと、今田清太郎(いまだ・きよたろう)さん二十九才(当時)がいた。  印象的だったのが、雑談中に彼が職業を「ひよこ鑑定士」と名乗ったことだった。ひよこ鑑定士は、オス、メス、オス、メスとひよこを選り分ける仕事だと思うけれど、彼の左手には鍵付きのアタッシュケースが握られていた。 「珍しいお仕事されてるんですね」  と応対しつつ、私の興味は、アタッシュケースの中に向いていた。ケースの中から「ピヨ

【ちょっと上まで…】〈第六部〉『夢の船』

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ # <<【 第五部】 へ            >【第一部】から読む< ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 〈第六部〉『夢の船』 あの時「行ってあげなよ……。どんな姿だって、親が生きてるんだから。話ができるんだから。話、してあげなよ……」  言葉を選び選びし、つっかえながら僕は言った。  だいぶ時間を置いて、リリクは小さな声で答える。 「……うん。いってくる」  つづけて、「あ

1-01.仕事をせずにお金が欲しいですか?

 あなたは、働かなくても生活できるようになりたいですか?  そう聞かれたら、「専業主婦は、家事から逃げられないんだ」と私は答える。それが現実なんだから。なのに夫のキヨくんは、そんな夢みたいな目標に向かい、机上のノートパソコンをカチャカチャとやっている。 「もう月曜が襲ってくるのか。面倒だなぁ」  キヨくんは、ノートパソコンをいじる手を止め、机の前でため息をついた。 「明日は大変なの?」  と、聞いてみた。 「前に扱った、マイクロダイソン球の件でさ。反論が来ているんだよね。

【ちょっと上まで…】〈第五部〉「母娘」

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ # <<【 第四部】 へ            >【第一部】から読む< ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 〈第五部〉「母娘」 〈ラウンジ〉 アタシの名はリリク。リリク・カミヤマ。  自分で言うのもなんだけど、本当のアタシはめちゃくちゃ元気。野山を走り回ったり、家の軽飛行機、ペラ子で空を自由に飛び回ったりするのが大好きな、ごく普通の女の子……、だと思う……。  そりゃあ喧嘩もた

Chapter01 「二人の商人」 ②

 とはいえ、オベリウスのトラックには魚介類が満載だ。氷温冷凍されているが、トラックのエネルギーパックは保って三日だ。それまでにこの街で売りさばくか、地元に持ち帰って完全冷凍にするか、近郊の加工メーカーと交渉して引き取ってもらうか。なんにせよこのまでは済まない。早急に手を打ってどうにかしないとならなかった。  エネルギーパックを買ってさらに数日保存期間を延ばす方法もあるが、それは結論を先延ばしにしているだけで、パック代が余計にかかる分、収益が目減りする。得策とは言えない。加工メ

【ちょっと上まで…】〈第四部〉「セイコ」

―――― # << ー 第三部 へ ―――― 〈第四部〉「セイコ」〈ラウンジ〉 成層圏界面を滑るように飛ぶ亜軌道船(エクラノプラン)〈バイトアルト〉。  地球を覆っている厚い大気の層は〈バイトアルト〉のすぐ下にある。宇宙線の衝突で帯電したうすいガスや微粒子ははるか前方から高速でたぐり寄せられ、艦底をかすめてまた後方へ飛び去って行く。巨大な船はちょうど水面を跳ねる飛び石のように圏界面にかすかに触れ、大気層表面効果と電磁気力、重力のせめぎあいで生み出されるエネルギーによってごく

最終話 2のn乗のまんじゅうこわい

 人類は、未曾有の「まんじゅうこわい」に直面した。  落語どころの話ではない。文字通りの恐怖だった。その初期段階において、まんじゅうの形をした栗ーチャーは、戸棚の奥などから突然現れた。まるで、買っておいたのを忘れて、賞味期限が切れた事に無言の抗議をするが如く。 「冷暗所が好きなのか?」  などと、同僚は悠長な事を言っていた。  コーノード・チャカテキン博士の特効薬はすばらしい効果を発揮した。栗ーチャーからクリムシンを引き出して、薬をスプレーで振り掛ければ良い。それで動き

08 生物は進化する

 栗ーチャーは、突然、倍になる。どのようなメカニズムなのかは依然として不明のままだ。  今後の展開予測は、人により様々だった。 「栗ーチャーが、指数関数的に増えているではないか」 「倍々ゲームだな」 「栗ーチャーが10回増えると、1024倍になります。2の10乗。これがどれほど恐ろしいことなのか、みなさまお分かりになられますか?」 「バイバイゲームだな。この星から」 「うるさい、だまれ」 「ヤツらが増えるには、元となる原料が必要なはずだ。質量保存の法則もある。何を原

07 エゴ的な「いないいない」

 予想に反し、私は検体OMJ1244についての指揮を託されることになった。調査の甘さを詰問され、この任務からは外されると思っていたのに。 「うまくやってくれ」  と言う、ロックフォード上長の目は、不自然な程に優しかった。  そして誰もが、私から微妙に距離を取り始めた。業務に必要な会話はいつも通り。しかし、くだらないジョークや私語が激減した。他のメンバー同士は、相変わらず金や女の話をしていた。 (面倒事を押し付けられた、ということか……)  さすがに私は気づいた。私には

キャプテン・ラクトの宇宙船 第4話

  四 準惑星ケレス  二度目の仕事で、ラクトはケレスにやってきた。  ケレスはメインベルト最大の天体だ。直径は九百五十キロメートルほど。他の小惑星とはちがい、この大きさになると重力によりほぼ球形をしており、分類上は準惑星ということになる。最大の天体であること、近い軌道に多くの小惑星があることなどから、自然とメインベルトの一大交易地となった。  白くかがやくケレスが近づいてきた。いくつもあるコロニーの明かりも見える。ケレスにはうすい地殻の下に氷の層があり、宇宙では貴重な水を

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【ちょっと上まで…】〈第三部〉「船」

―――― # << ー 第二部 へ ―――― 〈第三部〉 〈バイトアルト〉~囚われの宇宙人 成層圏を越えて……。  地表にずっしりと積もり、重く滞っている深い大気層の圏界面を抜け、アタシ達が乗るロケット〈キウンカムイ〉は海面から飛び出すトビウオのように真空中に躍り上がった。  圏界面上を滑る亜軌道船(エクラノプラン)、〈バイトアルト〉へ飛び乗るために……。  ◇ 「……んで、飛び乗ったまでは良いんだけどさ、この状況、なんなの?」  はるばる飛んできて、巨大な〈バイトア