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1-01.仕事をせずにお金が欲しいですか?


 あなたは、働かなくても生活できるようになりたいですか?

 そう聞かれたら、「専業主婦は、家事から逃げられないんだ」と私は答える。それが現実なんだから。なのに夫のキヨくんは、そんな夢みたいな目標に向かい、机上のノートパソコンをカチャカチャとやっている。

「もう月曜が襲ってくるのか。面倒だなぁ」
 キヨくんは、ノートパソコンをいじる手を止め、机の前でため息をついた。
「明日は大変なの?」
 と、聞いてみた。
「前に扱った、マイクロダイソン球の件でさ。反論が来ているんだよね。くそ、また検討し直さなきゃいけないのか」
「それって、会社からもらってきた、卵みたいなアレのこと?」
「ん。地球のモノじゃないことが、自明だと思うんだけどね。壁をすり抜けて膨らむなんて、仮に地球の技術だとしたら、かなりのトンデモでしょ?」

「他の星の製品なんて、地球にたくさん出回っているんでしょ? 私にはそんなの、区別なんてつかないし。ともあれ、お疲れ様」
 言いながら私は立ち上がり、キヨくんの肩をぽんと叩いた。キヨくんは「ありがと」と言って、ノートパソコンに目線を戻した。彼は右手を伸ばし、机上の缶ビールを一口やってから、カタカタと、何かの作業を再開した。

 私は自分の椅子に戻る。うちは2DKで、洋室の両隅に机を二つ、キヨくんのと、私のとを入れてある。私の机の隅に置いてある、手のひらサイズの人形が、ちらっと視界に入る。その人形は、頭の上にガムテープが貼ってある、マスコットキャラのなり損ね、な感じの子だ。

 私もキヨくんに倣って、私の机に置かれた缶チューハイをくっと一口。小皿に盛った豆を何個かつまむ。そして、いろいろと話を振ってみる。でも、返ってくるのは生返事ばかりになった。

「キヨくん、程々にしておきなね?」
「ん」
「明日の仕事、大変なんでしょ?」
「ん」

 キヨくんの心は、パソコンの世界に潜っていった。もう話しかけてもダメだろう。

「先に寝るね。おやすみ、キヨくん」
 言って、小皿の豆をまとめて食べた。残ったチューハイを一気に喉に流し込み、隣の和室に移動する。お布団は既に敷いてある。

「ん。おやすみ」
 背中越しにキヨくんの声が聞こえ、キーボードの音が、いっそう激しくなった。キヨくんの「仕事をしなくても生活資金が入ってくる方法探し」が、加速していく音だった。

(鑑定士の仕事、そんなに嫌なのかなぁ?)
 私には、そこがよくわからなかった。

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