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私たちには、想いをつなぐ役割がある~「鬼滅の刃」を読んで~

 世に出ている、多くのストーリーが「行って帰る」とはうまく言ったもので。
 全部ではないけど、たとえば桃太郎に代表されるように、家来として仲間を伴い、鬼退治に行って家族の元に帰ってくる。或いは、誰かを救って戻ってくる。これがベースになっているものが多い。
 その中身は少しずつ違い、そのストーリーの流れのパターンを何度観ても心動かされてしまう。

 何がそこにあるのか。何を伝えられているのか。何故こんなに私は惹かれてしまうのか。毎回毎回。飽きもせず。
 根本的に自分の心に訴えかけるものはわからない。人はそういうストーリーの組み立てに安心するものなのかな。

 表面的なことを言えば、そこに、それぞれの訴えたいものがあって、それが伝わるように描かれてあるから、その表現力に心動かされているのだろう。


 「鬼滅の刃」アニメ26話を観終わった後、コミックスを23巻まで揃えて全部読んでしまった。今のご時世、映画館に行けていない(夫も私もリスクが大きめなのと、息子が受験生のため)。今、映画で上映されているのは、7~8巻辺りらしく、それも超えて読み続けてしまった。

 流行りモノに乗ろうとか、流行りモノだから乗るまいとか、あんまりこだわりがない。好奇心が湧くな~と思ったらそのまま素直に欲求に従う。観ない時は、単にきっかけがないから目にしないだけで。反発心とかあまのじゃくとか全然ない。
 今回は、息子が映画までの「アニメを観たけど、面白かったよ」と言うから、話題を共有したくて観ようと思えた。自分のペースなので今頃になったけど。

 そして子供と話題を共有したいからと、のめり込んでしまったMCU(マーベルシネマティックユニバース)と一緒で、「鬼滅の刃」も、けっきょく私の方がより入り込むことに。


 全体のストーリーとしてはやっぱり、仲間と共に大本を倒しに行く。ラスボスだから当然、一人や二人で戦うのは無理だ。読みながらちょっと「ジョジョの奇妙な冒険」も思い出した。

 ストーリー展開の特徴は、登場人物が鬼殺隊(あるいは柱)になった背景、その気持ちの動きが丁寧に描かれる。
 そして「鬼滅の刃」の場合は、鬼側も、そうなるに至った背景や気持ちが、詳しく繊細に描かれる。そこにはたくさんのメッセージが散りばめられていた。

 どちらの側も、悲しい過去がある。複雑で残酷な家庭だったり、本人が病弱だったり、愛されていたのに受け取り方を間違えた人も少なからずいる。その後は運だとか、当人の心の強さや欲に負ける弱さ、場合によっては家族を思う気持ちが、良くも悪くもなる。
 つまり誰もが鬼になり得るし、心には鬼が住んでいるかもしれない。それをコントロールするのは精神力と、人を信じる気持ち。何より、周りからどんなメッセージを受け取ってきたかに左右される。
 同じ苦しみを抱えて、それによって人を傷つけるか、人を守るか。

 生きていく上で「バトン」について考えたことがある人なら、そこは強く響くんじゃないだろうか。
 自分が受け取ったバトンを、次の世代にどのように渡そうか、考えたことがあれば。

 親の接し方。親戚たちの言葉。先生の対応。上級生の言葉。仕事での指示。年上ばかりではない。友達や仲間。
 皆、生まれてすぐ大人になるわけじゃないから、人生の中で様々な精神経験を経た人と接して、メッセージを受け取る。それが良いものであれ、良くないものであれ、自分の中でどのように噛み砕いて、次に伝えるか。伝えないかも。

 身体的虐待も精神的虐待も、「連鎖」と言われる。その連鎖を断ち切る覚悟や苦しみはとても重くて固くてしつこくて。一人では超えられない。

 そして温かい想いや、強い気持ちも、一人で持つものではなくて、伝えていきたい。

 自分がいなくなった場所でも、そのバトンが生き続け、伝わっていく。
 それは一人では成り立たないもの。誰かに伝えるには、信頼関係の構築も欠かせない。

 「鬼滅の刃」では、人それぞれが「役割を果たす」ことに重きを置いているように感じた。その役割は、「つないでいく」言葉や行為。メッセージをバトンにして次の誰かに託す。
 「ただ存在している」だけでも、その人は何らかの役割を担っていると伝えてくれる。温かい想い、強い気持ちを「伝え」「つないでいく」役割があるのだと。それは本当は重たくて大切な役割だ。つないでいくには一人ひとりの存在が必要だ。

 「誰一人欠けてはいけない」って、自分の周りの友人たちを思った時に、感じたことはないだろうか?
 私は信頼関係のある友人が何人かいるのだけど、それぞれに必要だなとよく考える。noteの方たちでさえそうだ。少しずつやり取りを積み重ねてくると、誰一人同じではないと感じる。以前、別のマンガにも書いてあった。「自分の中に大きな愛が1つあって、それを分け与えるんじゃあない。愛は1より増えていくんだ」というような台詞。

 一人の友人と言葉を交わし、「これだけこの子と話して満たされるから、あとの子たちは必要ない」なんて思えない。同じような雰囲気でも、誰一人として同じ子はいない。それぞれに、私にとって必要な友達。
 そういう友達が自信を失くしてふさぎ込んでいる時に「あなたが必要」と声をかける。その人の個性が私にとってどういう存在なのかを伝える。上手く伝えきれなくて、いつももどかしい! けれど、離れていても会えなくても、存在自体が必要。その個性が必要。

 私たちは支え「合って」成り立っている。そのために生きていく大切さが描かれていた。残酷で恐ろしいシーンは多いけれど、鬼を通して、むしろ人の命のはかなさとそれ故の大切さや重さを感じた。
 精神力の強さも生きることそのものも、自分のためでもあり、人のためでもある。そしてそれぞれの「想い」をつないでいくため。

 「鬼滅の刃」では、鬼殺隊も、柱も、一人ひとりが必要だと教えてくれた。
 激しい鍛錬と努力を積み重ねて精度を上げていく技も、心も、経験も、そこに至るまで似たようなところがあっても、皆それぞれに違った。受け取り方や性格も。
 その情熱もそれぞれの持つ静けさも、みんながみんな、それぞれに優美でしなやかで強くて、めっちゃカッコ良い。

 いわゆる「行って帰ってきた」ストーリーだけど、たくさんのメッセージや言葉がやっぱり良かった。人の心にある悲しみや辛さを励ましてくれるようだった。
 こんな時代だからこそ、生きていく素晴らしさと、想いを伝えてつないでいこう。 

 
 最後に。私は善逸が好きなので、彼の言葉から。

心の中の幸せを入れる箱に穴が空いているんだ
どんどん幸せが零れていく

その穴に早く気づいて塞がなきゃ
満たされることはない

(技が)「おせーんだよ」(17巻より)にもシビレました!


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