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【書評】「推しを推す人たち」を解釈する〜『推し、燃ゆ』(宇佐美りん)

これも相当な話題作です。芥川賞受賞作にして、本屋大賞ノミネート作品。21歳の新鋭・宇佐美りんさんによる『推し、燃ゆ』です。今までに読んだことのないタイプの作品でした。

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1、内容・あらすじ

16歳の山下あかりは、アイドルグループ「まざま座」のメンバーとして活躍している上野真幸を推しています。

推しが発言する言葉は全て書き取り、ファイルに綴じる。CD・DVD・写真集は保存用と観賞用と貸出用として常に3つ買う。放送された番組は録画して何度も見返す……。

これらは全て推しを「解釈」するための行為で、あかりは解釈したものをブログに書き残します。

その推しがある日突然、「ファンを殴った」ということで炎上します。推しを解釈してきたあかりにとってはあり得ない事態でした──。

2、私の感想

ここ最近、「推し」「自担」という単語を耳にする機会が多くなっていて、「何となく意味はわかるけど深くは知らない」という私にとっては勉強になった小説でした。「推しを推す」ということがよくわかりました。

「おお、これが祭壇というやつか」などと感心していました。

あかり目線の一人称小説で、推しを推す人の心理が克明に描写されています。内面の掘り下げ具合がすごい。確かにこれは芥川賞だな、と思います。

あたしには、みんなが難なくこなせる何気ない生活もままならなくて、その皺寄せにぐちゃぐちゃ苦しんでばかりいる。だけど推しを推すことがあたしの生活の中心で絶対で、それだけは何をおいても 明確だった。中心っていうか、背骨かな。

依存でも逃避でもなく、「背骨」。

私は文学部日本文学科出身ですが、今大学にいたらこの作品で論文を一つ書けそうな気がします。興味深い。

比喩表現も秀逸で、あちこちで感心しました。

きついまぶしさで見えづらくなった画面に0815、推しの誕生日を入力し、何の気なしにひらいたSNSは人の呼気にまみれている。

上手い! 確かにSNSは呼気が充満しています。

話題になるのもうなずける作品でした。

3、こんな人にオススメ

・推しを推している人たち
これはもう「代弁してくれた!」という感想になるのでは。

・上記(↑)以外の若い人たち
『オルタネート』同様、若年層が本を読むきっかけになってほしいです。

・「推しを推すという行為」がわからない人
非常に緻密に書き込まれてあるので、よくわかると思います。

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