「宮本から君へ」の感想
(注意)
ネタバレ全開なので、まだ見てない人は映画の楽しみが半減します
「宮本から君へ」めちゃくちゃ良かった。一言で言ってしまうと池松壮太と蒼井優の熱血演技の見応えがありすぎるんでぜひ見て欲しい、ということに尽きるのだけれど、感じたことをもう少し表現してみたいと思ったので、記事にまとめてみた。
魅力①:登場人物一人一人イカれてる
蒼井優演じる靖子は本当に強い。気持ちが強すぎる。職場に急にプロポーズしてきた宮本に対して「黙れ黙れ黙れ!!!」と叫ぶ。「結婚でもなんでも1人でしやがれ!」とも「私が、母親だ!!!!」とも叫び、子供を1人で育てる決心をする。こんなこと言えちゃう女性は少ないと思う。宮本も熱血だけど靖子の熱血具合は相当だ。ただ、この映画のキモとなるのは宮本の熱血具合はそれを上回る。
宮本はイカれてる。本当にイカれてる。気持ちが熱くなると手を付けられないし、羞恥心が欠如してる。駅前で逆立ちをしてみたり、喧嘩相手のタクマが部屋から出てくるまで朝までに執拗に付き纏ったり、靖子の職場でみんなが見ている前でプロポーズしたり。頭がイカれてる。あらすじでは熱血系営業マンとうたっているけど、熱血は高校野球みたいな青春系の熱血ではなく、瞬間的に頭に血が昇りやすい意味の熱血だ。でも、真っ直ぐ。全部愚行は自分のため。康子に褒めてもらいたいから。気持ちはすごくシンプルで、行動の理由もはっきりしてる。
タクマ。宮本にも増してイカれてるのがタクマ。イカれてるのに加えてラグビー上がりの腕力を兼ねている。弱い奴を封じ込める力がある。宮本がいる場で靖子を犯すという、普通は復習が怖くてできないことでも、怖いという感情がないから平気でできる。弁護士に守られているし復讐してきても腕力でつっぱねられる。たちが悪い。
個人的に静かに狂ってるのが佐藤二郎演じる大野。狂った真淵親子のそばで蛮行を冷静に語り部してくれてる。「男の怒りは3パターン。母親を侮辱されてのサノバビッチ系、プライドを著しく傷つけれた場合、女絡み。」と言っていたセリフが印象的。不器用で何考えてるかわからない人物だらけの中、真淵親子の行動を冷静に語ってくれる貴重なキャラクター。
真淵の親父は靖子は靖子で頑固だ。全く折れない。
セリフの気合いの入り方がすごい。
魅力②:セリフが熱血すぎる
(宮本)「けどな。俺だって負けるわけにいかねぇんだよ。親になるんだからよ。ものすごい、ものすごい命がけで父親にならないといけないんだよ。俺は気合い入ってるからよ。明日にでも息子の看病を命がけでさせてやるから、気合い入れて待ってろ!!!!」
(真淵父)「...。書くもん寄越せ」
息子が分からず、寝起きの息子に畳み掛け、返り討ちにされて入院した真淵父親に対して、宮本が見舞いに来るシーン。自分の彼女を犯したタクマに対して怒り心頭の宮本が、タクマの父親に息子への復讐を誓う。全員狂ってる。親父は宮本に息子の居場所を教えるために書くものを寄越せ、という。
自分の息子の寝起きをたたみかけたり、息子に復讐したいと燃えてる赤の他人に息子の居場所を伝えたりする親父の行動は狂ってるけれど、「息子がわからない」という気持ちを爆発させた結果。宮本は宮本で、「父親になりたい」という気持ちを爆発させている。誰しも抱える感情を、常軌を逸した勢いで表現しているから、理解はできる。
(宮本)「靖子、靖子!!!痛がってやんの。こいつ。靖子。こっちも体パッキパキだよ。俺と結婚しろよ。結婚してちょうだいよ靖子ちゃん。ちまちま考えてないでとっとと返事しろこのクソッタレ!!」
「あんたと結婚なんかしてたまるか!!それが返事だ。顔も見たく無い。とっとうせやがれバカったれ!」
「その声、最高。ごめんね。笑っちゃいけないね。」
「勝手に有頂天になってれば。連れてこいとも喧嘩しろとも言って無い。私のためっていうなら大迷惑だ。」
「それは全部俺のためだからよ。俺は世の中全員敵だったからよ。靖子、お前なんかむしろ敵だったぜ。」
「何しにきたの。」
「康子に褒めてもらいたい。この俺を。」
「本当呆れたわ。」
「呆れて結構だ。」
これはタクマをボコボコにして靖子の前に差し出したときの宮本のセリフ。すごく正直なところがいい。確かに、タクマがボコボコにされた姿を見て康子が喜ぶわけでは無い。宮本が安心したいから、悔しかった過去を精算したいから、というただそれだけのために、殺されていてもおかしく無い状況のなかタクマをボコボコにした。
このシーンが印象的だったのは、靖子に押し付けがましく「倒してやったんだから感謝せい」みたいなスタンスじゃなくて「全部俺のためだからよ」と正直に言っているところ。そういうやらしいところがない宮本の素直さがとてもいいと思った。
(宮本)「だから康子。この凄い俺が幸せにしてやる。お前も子供も、呆れようが嫌おうがそんな事へでもねぇ。お前がどう思おうが知ったこっちゃねぇ。でもこの先俺が、ずっと死ぬまでそばにいてやるよ。力を合わせようなんてケチケチしたことは言わねぇ。俺がいれば十分だ。子供は俺の子。俺こそがすげぇ父親だ。大盤振る舞い。お前らまとめて幸せにしてやるよ。俺の人生バラ色だからよ。俺は全部、信じてるぞ!!!!」
このセリフは、この映画のハイライトだと思う。「お前を幸せにしてみせる」みたいな相手ファーストのプロポーズじゃなくて、「お前がどう思おうが知ったこっちゃねぇ、でもこの先俺が、ずっと死ぬまでそばにいてやるよ」完全に自分ファーストのセリフ。昭和感のある人情的なセリフだけど、お前らまとめて幸せにしてやるよ。という凄い自信が印象的だった。
魅力③:前半と後半とで感情の温度感が全く違う
映画の前半と後半で、セリフの温度感が違うのが印象的だった。映画の最初は、宮本の職場とか、宮本の実家のシーンで始まる。宮本は淡々と「結婚する」と言っていて、靖子に対して愛情だとか熱い想いは微塵も感じられない。「靖子を愛してるんです」と母親に言った時、温度のない言葉が宙を舞っている感じがした。靖子の家に初めて行った時なんか、
うるせぇ。この女は特別だ。この女は俺が守る。中野泰子は俺が守る。俺が守る。
と言葉尻はとても熱血だが、そのじつは初めて家に行った時のしかも付き合ってすらない女性に対するセリフだ。感情移入はできなかった。靖子に対する宮本の温度感はゼロからスタートだ。
だけど、金魚を埋葬したりタクマにやられたりしたあたりから徐々に宮本の温度感が上がっていく。上手に制御できず、ロッキーさながら本気でタクマを倒したいと願うようになっていく。一つ一つのセリフに込められている熱量がどんどん上がっていく。最後のプロポーズのセリフなんか、全力投球だ。
ピエール瀧演じる真淵の父さんも序盤と後半で温度感が全然違う。最初は息子贔屓で、宮本のことは「ちょっと根性のある阿呆」くらいだったが、「タクマが中野靖子に何をした」と執拗に聞いてもダンマリを続ける宮本のただならぬ雰囲気に触発され、最初は息子サイドだったのに、息子が理解不能になっていき、最終的には息子に復讐をしようとしている宮本に息子の居場所を教えた。触発されていく様子はなんとも温かい感じがした。
魅力④:伏線回収の技術が本当に高い
この映画は、燃える前、燃えてる最中、燃えた後の世界が交互に表現されている。一番最初に両親に挨拶に行ったシーンは、「燃えた後」の世界。その次に中野靖子の家に行ったシーンは「燃える前」の世界。途中真淵タクマと決闘するシーンは正しく「燃えてる最中」のシーン。場面をすごく巧みに切り替えていて、熱血一辺倒のワンパターンで飽きる展開はなかった。
「どうして宮本は怪我をしているんだろう」というちょっとハラハラする伏線を最後の方までとっておく演出もよかった。登場人物、ちょっと頭がイカれている人物が多かったので、正直誰にボコボコにされてもおかしくなかったのと、前歯がたくさん折れているというかなり重めの伏線そのものに始終ハラハラした。タクマとの決闘という、十分すぎる回収シーンも印象的。いやいや、非常階段から落ちたら死ぬだろ、というやりすぎ感のある演出も、映画通してのテーマ「熱血」を表現する上ではとても役立っていたのかもしれない。
正直、伏線がたくさん張り巡らされていたので、二回見ると印象が全然違う。映画の冒頭は、「燃えた後」のシーンだったことがよくわかる。靖子が宮本の母親相手になんとなく見せていた優しい姿は、こんなとんでもない激動の事件を経てからの態度だったと考えると、見え方が変わってくる。「普通の両親への挨拶」というシーンが「自分ひとりで身篭った育てると固く誓った靖子」と「靖子をレイプした相手を死ぬ気でボコボコにして熱くプロポーズした宮本」だったと知ると、感情移入の度合いが変わってくる。
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まだまだ書きたいことはたくさんあるけれど、この辺りで終わっておきます。本当、エレファントカシマシの宮本浩次の「熱血」な曲と世界観がぴったりと重なるような炎属性の映画でよかった。この映画を見た方と、ぜひ感想を交換したい!
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