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鍛冶屋の仕事 Vol.6|包丁を研ぐ
消費が前提の世の中において、包丁は製品寿命が長い珍しい道具ではないだろうか。
「一生使えるような道具がどのぐらいあるだろう」と、ちょっと部屋の中を見渡してみる。
家電と名の付くものは、頑張っても10年が限界だ。デジタル機器となるとさらに短い。スマホは2~3年で買い替えられ、この文章を書いているPCは、5年程度は使えるだろうか。
購入してからそろそろ8年になる木製テーブルはこの先も大丈夫
鍛冶屋の仕事 Vol.5|これからの鍛冶屋が受け継ぐもの
「ここ5年ぐらいで、たくさんの中古機械が出回るだろう」
というのは、仕事を見てもらっている、ぼくの大先輩の話だ。
つい先日も、廃業する職人の工房からの、集塵機の搬出を手伝ったばかりだ。昨年は高松で廃業した鍛冶屋の材料やら設備やらまるまる一式を譲り受け、これは現在もその運び出し作業が進行中である。そしてすでに、次の設備をゆずっていただく話がワークショップに舞い込んでいた。
伝統産業を受
鍛冶屋の仕事 Vol.4|奥深き熱処理の世界
ナイフのテスト焼き入れをしたときのことだった。
以前の焼き入れ方法では、一定数の焼き割れ、要するに不良品が発生していた。その状況を改善すべく、熱処理方法の改善を模索したのだ。
焼き入れ温度よし、冷却温度よし、焼き戻し温度も時間もよし。
処理の終わったナイフは、新聞紙が音もたてずにすっぱりと切れる刃がついた。
「よし、焼き入れは成功だ」
焼き割れも起きなかった。
自身満々に検
鍛冶屋の仕事 Vol.3|親方のいない鍛冶工場
ワークショップに通いはじめて1年が経過した。
ナイフの生産はずいぶん手馴れてきたもので、毎月、滞りなく納品できるようになった。
鍛造は――こちらはまだまだだが、鉄と鋼を赤めてたたいてくっつける「鍛接」、この日本の鍛冶技術の根幹ともいえる技も――成功率は3本に1本ぐらいだが――なんとか覚えて、鍛冶屋らしいことができるようになりつつある。とりあえず、刃物は作れるようになったのだ。
包丁を打
鍛冶屋の仕事 Vol.2|鍛冶屋の打つ道具。日本を日本たらしめるもの
鉄を赤めてたたく。そうして作られた道具を当たり前のように使っていたのは、ほんの数世代前のことだった。
どこの町にも1軒や2軒は鍛冶屋があって、例えば包丁を作らせたら○○鍛冶屋、農具をあつらえるなら○○鍛造工房と、鍛冶屋がしのぎを削りながら地域の人々の産業や生活を支えていたものだ。
――と、書いてはみたものの、昭和の晩期に生まれたぼくは、鍛冶屋が奏でる鎚音を聞いて育ったわけではない。ただた
鍛冶屋の仕事 Vol.1|鍛冶屋(見習い)はじめました
ワークショップの扉を開くと、ベルトハンマーを打つ大きな音が脳天を貫いた。はさみ鍛冶の宮之原氏——今ではぼくの先輩——が、総火造りのはさみを鍛える真っ最中だったのだ。
ワークショップのスペースには、ベルトハンマー他、グラインダーや金床、炉、それにあらゆる工具や鋼材がところ狭しと並べられている。それらを駆使しつつ、赤められた鉄と鋼が、みるみるうちにはさみの姿へと成形されてゆくのだった。
「お