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複雑化社会を生き抜く上で役立つコンパス


0.はじめに


遅ればせながら明けましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いします。
今回重い筆を上げたのは、大学の友人達と今年の抱負をお互い語っていた際に話の土台として紹介してもらった面白いフレームワークを共有したいと思ったからです。
元々はその時に語った僕の今年の抱負をnoteで表明したいと思っていました。しかしこれを文章に起こす際に、紹介してもらったフレームワークを改めて調べていたらそれ自体がかなり面白かったので今回はそのフレームワークを僕なりに解釈したものを僭越ながら紹介したいと思います。

一言で要約すると以下の通りです。

"改めて社会は複雑すぎるから、物事を決断する時のコンパス欲しいよね"

上記のような悩みは学生であっても社会人の方でも一度は感じた事があるのではないでしょうか。
この流れに呼応するかのように巷ではデザイン思考アート思考というキャッチーな言葉が頻繁に使われています。しかし実際にこれらが書かれている記事を読んだり、セミナーに参加しても内容がずっと参考になるかと考えるとピンと来ないのではないでしょうか。

そうなってしまうのはそれらが表層的な内容を美辞麗句で簡単にまとめてしまっていて、本質的な部分を紹介していないからだと思います。

したがって本noteではこういった事へのアンチテーゼとして、デザイン思考やアート思考が生まれた原典となるフレームワークを忠実に解説します。

書き始めてから早1ヶ月ほど経ってしまいましたが、議論の内容を自分なりに再解釈する時間としては適切だったのかなと思っています。

今回のnoteで参考にしたものは全て最後の参考ページに載せてあるので、そちらも合わせてご一読ください。



1-1.Krebs Cycle of Creativityの概要

今回紹介するフレームワークはMITメディアラボの Neri Oxman さんが2016年に提唱した"Krebs Cycle of Creativity (以下KCC) "です。

これは生物学の基本理論であるクエン酸回路(Krebs Cycle)を社会学に応用した理論であり、最近日本の経済誌やその他ビジネス界でよく使われる”アート思考”や”デザイン思考”の原典とも言える理論です。

最も簡略的に解釈すると
社会は4つの創造的領域(アート/サイエンス/エンジニアリング/デザイン)で構成されており、社会のあらゆる創造物は創造力この4領域を循環的に進む事で生み出され続けているという事を表しています。

(お時間がある方はこちらの原典を一読されてから本noteをお読み頂くと最後までスムーズに読み進められると思います。)

この概念を一つの図にまとめているのが以下の概念図です。
(原典から引用しています。)

↓ Krebs Cycle of Creativityの概念図

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1-2.KCC概念図の見方

まずチャートを理解する上で大事な軸について解説します。
縦軸は社会に与える影響の抽象度を表しています。
したがってチャート上部に行くほど抽象的になり社会認知(哲学)に、
下部に行くほど具体的になり社会実用(経済)に影響を与えます。
一方横軸は社会を捉える領域の拡さを表しています。
チャート左部に行くほど社会領域(人間が了解している範疇)に、右部に行くほど未開拓領域(人間の領域範囲外で社会を拡張する領域)を捉えています。

このチャートをより深く理解したい人向けに説明すると、
本チャートの円内部に”A”, "N/A"が記述されているのが分かると思います。
これは社会へ応用可能かどうかを表しています。これを踏まえて再度チャートを注意深く見ると、縦軸と横軸が示す示唆を理解できると思います。

これを元にマトリクスにした4つの領域をそれぞれ以下のように定義しています。

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ここまでの解説でチャートの基本的な見方(軸と領域の分類)が分かったと思うので、次にチャートが示す循環構造について解説していきます。



2.”Krebs Cycle”について

ここで突然ですがあなたは "Krebs Cycle" という単語に聞き馴染みはあるでしょうか?
これはKCCの大元に当たる生化学の基礎概念で、
動植物が摂取した食物を利用可能なエネルギーに変換する代謝機関が
複数の化学反応の循環構造(回路)になっているという概念です。
この回路を発見してノーベル医学生理学賞を受賞した生化学者のクレブス博士から名前を取ってKrebs Cycle(日本ではクエン酸回路などとも呼ばれる)と呼ばれています。


KCCを分かりやすく解説する上で重要な理論なので本論から少し脱線しますが事前に解説していきます


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上の図はKrebs Cycleの各反応を図式化したものです。
図に記された化合物の名前はひとまず気にせず、水色の円が循環構造になっている事が理解出来れば大丈夫です。

先述した通りKrebs Cycleは生物の代謝機関を示す理論ですが、今回の解説では分かりやすく動物の代謝に絞っています。

ただ全体感を掴んでもらうためにKrebs Cycle内部を解説する前に生物が生涯活動し続けるメカニズムをざっくり3つのフェーズに分解してみます。
それは以下の通りで、この内Krebs Cycleはもちろん代謝に当たります。

①エネルギー吸収…エネルギー源となる摂取可能な栄養素を取り入れる
②エネルギー代謝…栄養素を活用可能なエネルギーに変換する
③エネルギー消費…変換したエネルギーを生命維持上必要な運動で消費する

より詳細に述べると、
まず動物が活動する上で必要な栄養素である3つ(糖質/タンパク質/脂質)を摂取します。これら栄養素はいくつかの化学反応を経てアセチルCoAという物質に変化します。これが代謝を促す前段階の吸収反応です。
(※Krebs Cycleを解説する上で本質的な箇所では無いのでここの説明は端折ります。)

ここからが代謝反応であるKrebs Cycle内部の説明です。
生物内で行われる化学反応は基本的に3つを押さえれば理解できます。それは①反応物酵素生成物です。上図に示された水色の円に示された化合物はこの内①と③に当てはまります。(酵素に関しては記述されていません)
重要なのは繰り返しになりますが、この①と③が循環構造になっている事です。

より分かりやすい概念図は以下になります。

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ここからはより詳細な解説になりますが、
Krebs Cycleは先に挙げたアセチルCoAが生成される事で始まります。この物質が様々な酵素による反応を経る中でATPという物質を生成します。

このATPがKrebs Cycleを外れてリン酸反応という反応をすると、反応する際にエネルギーが生まれます。これが生物のあらゆる活動時に利用されるエネルギーとなります。
(その働きからATPはエネルギー通貨とも呼ばれ、この回路全体もATP回路と呼ばれる事もあります)

ATP生成後、同回路内で再度様々な反応を経る事により、オキサロ酢酸(アセチルCoAとクエン酸を生成する反応物)を生成します。このようにKrebs Cycleという代謝機関はアセチルCoAが生成すればATPという活動エネルギーを効率的に生み出し続ける事ができる歯車のような役割を果たしています。

補足にはなりますが、これは反応時に消費されてしまう反応物だけが存在するよりも、反応時に媒介として役割を持ち消費されない酵素のみが用意されている事が効率的な代謝機関において重要な要素であることも認識しておいて下さい。



3-1.”Krebs Cycle”の社会学への応用


長々と蛇足のように述べてきましたが、この"Krebs Cycle"を社会学に応用したのが”Krebs Cycle of Creativity”です。

Krebs Cycleに従い社会を一つの生物と仮定すると、先述した3つのフェーズは以下のように応用出来、KCCはもちろんこの内②である社会課題解決のための創造を担います。

①エネルギー吸収→社会課題の発見
②エネルギー代謝→社会課題解決のための創造
③エネルギー消費→社会課題解決の実行

そしてKCC自体の概略として、社会は4つの創造的領域(アート/サイエンス/エンジニアリング/デザイン)を順番に循環する事で創造的エネルギーを生み出し続けます。またKrebs Cycleで紹介した酵素に当たる部分は必然的にKCCでの我々人間であると言えます。

※ 原典において、酵素である人間はこれまでそれぞれの領域に別個最適な専門家が存在していると考えられてきました。
しかし現在は4つの領域が曖昧化したことで個人が複数の領域で酵素的役割を発揮し始めており、今後はこのようなマルチワーカーである事が必須条件であると説明されています。
↑これについては4章で言及していますので一旦無視して読み進めて構いません。


さて前章でKCCのアナロジー元であるKrebs Cycleの仕組みを解説したので、KCCの全体感を掴んだこれからのこの章ではKrebs Cycleと同様のフォーマットを用いてKCCの詳細を解説していきます。

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上図はKrebs Cycleの全体像をそのまま社会に応用させたものです。これを元にKCCの概略を解説します。
まず社会の創造性を刺激する栄養源を、人々が感じる社会への不満としており、これを創造性に活用可能にするものとして不満を観察によって顕在化させる事と定義しています。

そしてこの観察可能な社会の不満がKCC内のDesign領域で生成されたサービスと反応する事でKCCは循環を始めます。その後Science領域で生成された理論が人々の常識や規範がアップデートされます。これがKrebs CycleでのATPであり、原典ではCreativityの頭文字を取ってCreATPと定義づけています。
その後KCC内では二つの作用を経てDesign領域のサービスが生成されます。

またKCC外ではCreATPアップデートされた常識や規範)によって影響を受けた人々が新たな経済的消費活動を行います。これがまた新たな社会への不満を生み出すことで社会という一つの生物は活動を続けていると言えます。


このような流れがKCCの全体像です。そして肝心のKCC内部については次節から解説していきます。すなわちひとつの領域から別の領域への移動でどのような作用が起こるかについてです。
具体的な要素はざっくり以下の通り2つで展開します。

領域が社会へ及ぼす作用(What)
その作用を及ぼす人々(Who)


これが理解出来れば、複雑化社会と呼ばれる現在の全体像が感覚的に把握出来て、自分が最大限価値を出せる場所を見つけることが出来るはずです。


3-2-1.Art 領域の作用


先述した通りArt領域の作用は観察によって顕在化した社会の不満と後述するDesign領域の作用である現行サービスが反応する事によって生まれます。

これを踏まえた上で、Art領域の作用は理想社会を妄想する事で現実社会の不足部分を顕在化させ、人々を理想社会追求に突き動かす事と定義できます。これによって人々は自分たちが共感する未来に向かって突き進む期待を持つことが出来ます。逆にこの動きがなければ社会は停滞し、人々は悲観的になり次第には殺伐としてしまいます。


このような役割を現在担っている人は、作家や映画監督、未来学者、さらには画家や彫刻家などの芸術家などといった文化人の方々です。彼らの創作の源泉は新しい表現を生み出す事です。

前者の人々は顕在化された社会の不満を物語性を加えて表現する点で大衆が受け入れやすい表現であり、後者は新しい表現方法を追求している点で表現が洗練されているため解釈が難しく、表現方法の奥にある表現したいものに共鳴する人々に届く表現であると言えます。


3-2-2.Science 領域の作用


Science領域の作用はArt領域で生成された表現と新発見された情報が反応する事によって生まれます。

この反応で生成されるものは妄想で表現されたものと現実の社会を説明可能な理論で統合する事と定義できます。すなわち社会の根元に存在すると信じられている真理を新たな理論の提唱&実証で拡張する事と同義です。

それによって我々が現在信じている基本概念(時空間の認識など)が形骸化したり、未開拓領域での新発見を説明不可能なままにするといったような事を防いでいます。
逆にScience領域の作用が滞ると未来予測への信憑性が下落し、Art領域の作用(→妄想)による社会の期待は縮小され、やがて社会は停滞します。


この領域の専門家には数学者や物理学者などの自然科学者や歴史学者や人類学者などの人文科学者といったアカデミック界で活躍する人々全般が挙げられます。

彼らは専攻に関わらず大きく2種類に分類できます。それは理論の提唱者か実証者かです。前者の場合は比較的Art領域との関わりが強く、後者の場合は後述するEngineering領域との関わりが強いと言えます。

コラム:
学者以外でも過去にこの役割を音楽家が担っていた事があります。彼らは人間が心地良いと感じる階律を追求することで、世界のリズムを判明し未来を予測する事が出来ると信じていました。それが当時の社会では価値を感じられ、数学や神学と並ぶ学問として地位を確立していました。


またScience領域の作用はArt領域から続く社会認知における創造がまとまり、社会実用への転換を可能にします。そして拡張された理論は人々の慣習や行動原則も大きく変革させ、これはKCC内の作用とは別の消費段階の作用であり、先述したCreATPの生成としても定義できます。


3-2-3.Engineering 領域の作用


次にEngineering領域の作用はScience領域で生成された理論と既存の技術が反応する事によって生成され、生成物は理論に基づいた実物を創り出すことです。
ここで言う実物は製品に限らず、無形物や手法など理論に基づいた実物を指します。ここでは期待通りの実物を再現性を持って生み出すことが大切です。

Engineering領域の作用はArt & Science 両領域の作用で創造された新しい社会認知が単なる幻想ではないと証明され、初めて社会に価値ある実物として提供されることです。逆にこの領域の作用が滞ると既存の社会実用と新しい社会認知の期待ギャップが大きくなり、既存の社会実用を維持する事が困難になったり新しい社会認知の有効性が失われる危険性があります。


Engineering領域の役割を担っている人は、医者や宇宙飛行士といった自然科学系の人々や建築家や弁護士といった社会科学系の人々です。彼らは医学、建築学といった体系化された理論に基づいてそれぞれ実物を生み出しています。

所属組織の分類
Engineering領域にいる人々は現在様々な組織に所属しています。前述した自然科学系の人々は大学や研究所といったScience領域に所属する人々と同じ組織に所属する事が多く、社会科学系の人々は後述するDesign領域の人々と同じ企業という組織に所属する事が多いです。
この事はKCCが効率よく循環するように社会が応答している結果の一つと言って良いのではないでしょうか。


3-2-4.Design 領域の作用


最後にDesign領域の作用はEngineering領域で生成された実物と現在の社会ニーズが反応する事によって生成され、創造物を汎用化して人々に価値ある物として届けることであると定義できます。これを普段私たちはサービスと呼んでいます。

KCCの循環によってEngineering領域で生成された創造物が出来てもそれが人間社会(市場)に価値ある物として認識されなければ、社会にとって無用の創造物となってしまいます。したがって、創造物に有用性を持たせ社会に浸透させることが唯一大事な作用です。

上記のようにEngineering領域で生成された実物がDesign領域の作用によって失敗する事は日常的に発生しています。
それを一般的に「市場が受け入れるにはまだ早かった」と言われたりします。ただこの言葉にはいくつかの意味が含まれており、

Design領域での作用の失敗には以下の2つ
①サービスを受け入れてくれるような社会ニーズを醸成出来なかった
②社会ニーズはあるももの、これに応答出来るようなサービス設計を完成出来なかった

一方ではEngineering領域の失敗もあります。
❶技術をサービスが求めるレベルまで向上させる事が出来なかった
❷技術を汎用化させる事が出来なかった

どのような理由であっても、ここでの立ち止まりは次のKCCサイクルを滞らせ社会実用内の新旧分裂が発生し、社会の代謝能力を著しく低下させます。


Design領域の役割を果たしている人々は、いわゆるビジネスマンと一括りにされる人々が該当します。その中でも先述したEngineering領域との親和性が高いサービス設計者(エンジニアやデザイナーなど)とArt領域と親和性の高いサービス提供者(マーケターなど)に分類出来ます。


彼らが社会に与える影響は、新たな創造物をサービスとして届ける事によって人々の行動を変容させる事です。したがって、彼らは先進的な技術をサービスに昇華させ、そのサービスを社会に先進的な思想を煽って届ける事で人々に行動変容を促し、社会を実際に変革させることを担っています。

Design領域に所属する人々がこの行動変容を全うする事でようやくKCCが一回りします。これによって新しく生まれる社会の不満を創造の源泉として吸収する事が出来ます。


3-3.ここまでの総括
(Krebs CycleのアナロジーであるKCC)

この章ではKCCを原典に沿ってかなり詳細に解説してきました。
これで本noteで最も伝えたかったKCCの網羅的な解説を伝え終わりました笑

したがってここで一旦これまでの話を整理してまとめたいと思います。

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<KCCの概略>
KCCは社会の代謝機関であり、4つの領域それぞれの専門家が媒介者となって社会の不満を効率よく創造に転換させる事を描いている
4つの領域の作用が一つでも停滞すると代謝効率が落ち創造性が低下する
Science領域での副生成物(新しい慣習や規範)が社会の新たな消費を促す

<KCCの詳細>
Art領域では、"顕在化した社会の不満"とDesign領域での生成物"現行サービス"が反応して、”未来の可能性を表現”が生成される
Science領域では、Art領域での生成物"未来の可能性を表現"と"新発見の情報"が反応して、"新しい理論"が生成される
Engineering領域では、Science領域での生成物"新しい理論"と"既存技術"が反応して、"新しい実物"が生成される
Design領域では、Engineering領域での生成物"新しい実物"と"社会のニーズ"が反応して、"新しいサービス"が生成される


いかがでしたでしょうか。社会の代謝システムについて提唱しているKCCというフレームワークへの理解と納得が出来たでしょうか。

次章からはこのKCCを人生のコンパスとして利用するための具体的な施策を話していきます。KCCというフレームワークに興味を持って頂けた人はここからも飽きずに付き合ってくれると嬉しいです。



4-0.KCC内での個人の定義と再解釈


3章までは社会を通じてKCCの解説をおこなってきました。
したがって前章でも各領域の専門家については言及してきましたが、
本章ではKCCから見る個人についてをキャリア形成に注目して解説していきたいと思います。ここでようやく冒頭でお話しした

"改めて社会は複雑すぎるから、物事を決断する時のコンパス欲しいよね"

というテーマの伏線を回収したいと思います笑


4-1.原典が定義する個人について


原典において社会はこれまで4つの領域それぞれに障壁が存在しており、KCCの代謝速度が遅かったと主張しています。

20世紀に同時代を生きていたピカソとアインシュタインはそれぞれ既存の時空間解釈を刷新するような表現と理論を提唱していましたが、彼らは直接的な交流をしていなかった、とKCC提唱者のNeriさんは例を挙げています。


しかし近年コミュニケーションコストが低下し、4つの社会領域は曖昧化してこれらの領域間の障壁は崩れKCCの代謝速度は高速化していると主張しています。またこの流れが加速し現在は領域の移動方向が双方向になり、時として領域を省略するようなアウトプットが生まれていると提唱しています。
原典ではこれをタイムトラベルやシンデレラ時間と定義しています。)

領域の双方向移動については、直感的に分かる通りDesign領域での作用がArt領域の作用に影響するだけでなくEngineering領域の作用にも影響を及ぼすといったような事を意味しています。

また領域を省略する作用としてはDesign領域での作用がArt領域を通り越してScience領域の作用に影響を及ぼしている事を意味しています。

具体例として以下を挙げています。

Design領域においてバッキーボールと呼ばれる磁力のボールが販売されたものがArt領域を飛び越えScience領域において炭素化合物の一つであるフラーレンと呼ばれる物質の形状を判明する事を助けた

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このような主張をする背景にはNeriさんが社会を非線形な系として捉えている事があります。非線形とは解(理想状態)が一意ではなく、いくつかある事を表します。したがって、社会は安定に近い状態がいくつかあり、その安定状態を常々探っている状態であると定義している訳です。そのため社会に理想状態は無いのではないと想定しています。

したがってこのような時代で個人は領域を横断する知識を持って活動する事が重要だと述べています。ただしNeriさん自身この提言には批判点があると認めています。

提言に対する批判点
領域横断する知識を持つ事は一つの領域の専門知識を持つ事を犠牲にしてしまいます。


4-2.個人についての拡大解釈


Neriさんは前節のように提案していますが、ここからは冒頭で述べた

"改めて社会は複雑すぎるから、物事を決断する時のコンパス欲しいよね"

というテーマに沿って
生意気にも僕なりの拡張解釈した提案を述べたいと思います。
それは以下の3つです。

・自分のポジションをKCCに照らして確認する
・自分はどのサイクルに貢献しているのかを意識する
・他の領域
(特にKCCで自分と隣接する)との繋がりを意識する

これは一言でまとめると
自分の専門領域を設定しそこにリソースを集中することが出来れば領域を横断する上で必要な情報は自ずと集まる
ということです。従って、Neriさんの批判点は集中すべきリソース配分の順番を間違えなければ克服することが出来るはずです。


それぞれを解説する前に共有しておきたいのは、この社会において何より情報が重要であるという事です。この事は「サピエンス全史」の著者で有名なユヴァル・ノア・ハラリさんが「ホモデウス」という著作で詳しく述べられていますのでここでは割愛します。

詳しくは以下の記事を読んで頂くと理解しやすいと思います。
『サピエンス全史』と『ホモ・デウス』のせめぎあいが生み出す21の思考

ここで重要なのはインターネットによって誰もが多くの情報にアクセス可能になったものの、実際このインターネットを最大限効果的に活用している人は思ったより少ない、という事実です。

すなわちNeriさんが描く社会は、
インターネット技術によってKCCの代謝速度が著しく向上したから自分の専門領域外の人と上手く交流してより良いアウトプットを出せるよね
というものです。

しかし実際には自分の専門領域を定義しづらくなり、自分が直接アクセスしなければならない情報と直接アクセスした方が良い情報、他者に任せた方がいい情報の判別が付きづらくなっているのではないかと思います。

従って本節冒頭で挙げた3箇条を順番に行う必要があるのではないかと考えています。その中でKCCというフレームワークは非常に効果的に作用すると思います。


4-3.3箇条実践編


・自分のポジションをKCCに照らして確認する
・自分はどのサイクルに貢献しているのかを意識する
・他の領域
(特にKCCで自分と隣接する)との繋がりを意識する

この3箇条は実践形式で紹介するのが良いと思うのでワークショップ形式で紹介します。お時間あれば是非一度やってみてください。

まず自分の立ち位置をKCCに照らして確認してみましょう。
これまでの経験を踏まえて自分はKCCのどの位置にいるのかをプロットしてみて下さい。その際に自分の周辺や対極位置にいる人々を想像で配置したり、友人と一緒に話し合いながらやると自分を正確に客観視出来ます。
(これは僕自身正月に実践してみましたがかなり参考になります笑)

一つ目が出来たら次は自分は何のサイクルに貢献している(or したい)のかを意識してみましょう。これは自分の目的設定に役立ちます。
例えば自分がDesign領域にいるなら、自分が影響を及ぼしたいArt領域の人はどんな人で、自分が影響を受けるEngineeringの人はどんな人なのかを意識してみる感じです。
これが難しくても自分がどんな人たちと仕事している(or したい)のかという他者との連関性を感じる事が出来れば自分が自身の領域で活動する目的を設定する事が出来るはずです。

2つ目まで出来たら最後に他の領域(特にKCCで自分と隣接する)との繋がり作り、交流を図ってみましょう。
2つ目のワークまで出来れば、前節で述べた自分が直接アクセスすべき情報かどうかを判断出来るようになります。その上で自分が専門とすべき領域にリソースを集中させます。

これを続けていく中で自分がアクセスする必要がない情報に関しては主要SNSなどを用いてその領域の専門家と交流して補完すれば良いはずです。
そうすれば自分の限られたリソースを効率的に配分することが出来、KCCの代謝速度を上げて社会への影響力を強めることが期待できます。



5.後書き


ここからは後書きとして自分がnoteを書いた経緯などをつらつらと書き綴っていこうと思います。完全自分用なのでスルーして下さい

本noteでKCCを解説しようと思ったきっかけは、冒頭でも述べたように
デザイン思考やアート思考という言葉が近年ビジネスシーンで頻繁に使われていることへの疑念でした。自分がこれらの言葉を知ったのは今から3年程前からでした。知ったきっかけはおそらく学生として参加した某企業のワークショップで、当時は楽しいワークショップだとしか思ってませんでした。

その後大学の授業でこれらを深く知るきっかけを得てデザイン思考やアート思考はMITというアカデミックで体系化された学問の亜種だということを学びました。その中でビジネスで使われるこれらのワークショップが本質的に利用されていないのではないかと思い始めました。

そこから数年経って当時の疑念を忘れかけていた中で今年の正月にKCCというフレームワークを知って、点と点が線になった気がしました。そこで何か形に残さねばという使命感に似た気持ちがフツフツと湧いてきて、このnoteという媒体で自分の思いを記しておこうと決めました。

デザイン思考やアート思考をKCCに絡めて捉えると、Design領域での表出の一種に過ぎないのではないでしょうか。なぜならビジネスそのものがDesign領域の作用だからです。

ならば何故デザイン思考やアート思考といった言葉が近年これだけ取り上げられているのか。それは現代社会においてDesign領域への注目が過剰に高くなっているからです。それによってKCCの代謝が低下してしまっている。
これを個人的にはデザイン思考やアート思考という形でDesign領域からArt領域への流れを促すことで解消しようとしているのだと考えています。


話は変わりますが、個人的には近い将来Science→Engineeringへの大移動が来るのだろうと予想しています。それがバイオの分野なのか宇宙の分野なのか、はたまた別物なのか。どれにせよインターネットと同等かそれ以上のパラダイムシフトが起きるのだと思います。それさえ起きれば社会の常識や行動規範が大きく刷新されるはずです。

その大転換が巡り巡って現在のDesign領域での停滞を解消していくのではないかなと考えています。そうすればデザイン思考やアート思考という言葉が消失していくと思います。


このような考えの中でKCCというフレームワークをこのタイミングで深く理解しようと努められた事は僕の中でかなり意味のあるものだったと感じています。惜しむらくは最後の4章でKCC中の個人についての解釈を綺麗にまとめられずに紹介してしまった事です。

ただ自分がKCCを知って1ヶ月程度の薄学者であることを考えると致し方ない部分ではあると自己肯定してあげたいと思います笑。
したがって4章に関しての議論がズタボロである事はご容赦頂けるとありがたいです。


ただ、今後の人生においてこのKCCというフレームワークは自分にとって非常に重要な位置を占める事は確信しているので、数年後に成長出来た時にこのnoteを加筆修正したいと思っていますので、その時に読者の中でまだ自分を知ってくれている奇特な人は楽しみに待って頂けますと幸いです笑。


最後の最後になりますが僕のようないち大学生が生意気にも社会全体についてを青臭く語ってしまいましたが、ここまで読んで下さった読者の方々に何らか得るものを提供できていたら嬉しいです。

p.s. Neriさんも言っているように、このKCCというモデルは様々な視点で捉える事で更に興味深い議論が出来ると感じています。その為ハラリさんの歴史解釈を交えた議論や同じく生物学をアナロジーとして体系化されつつある進化経済学を交えた議論、KCCの基本原則についての映像制作などを検討中です。このnoteを読んで興味を持ってくれた方がいれば、応援してくれると嬉しいです。



参考ページ

<Krebs Cycle of Creativityについて>
Age of Entanglement(JoDS)
もつれ時代における創造性 | Age of Entanglement | Krebs Cycle of Creativity
複雑系社会での「アート思考」の必要性(株式会社Salt内のブログ)

<Krebs Cycleについて>
クエン酸サイクル(一般社団法人日本クエン酸サイクル研究会)
クエン酸回路(Wikipedia)
生き物のエネルギー通貨を生み出すナノモーター—ATP合成酵素の回転運動を世界で初めて観察—(京都産業大学 吉田賢右教授)

<ユヴァル・ノア・ハラリさんの議論について>
『サピエンス全史』と『ホモ・デウス』のせめぎあいが生み出す21の思考ユヴァル・ノア・ハラリ『21 Lessons for the 21st Century』(WIRED)

<進化経済学について>
進化経済学の体系を構築する -「進化経済学 基礎」出版に寄せて-(吉田雅明)
進化経済学(Wikipedia)


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