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読書記録「一人称単数」

川口市出身の自称読書家 川口竜也です!

今回読んだのは、村上春樹さんの「一人称単数」文藝春秋 (2020)です!

村上春樹「一人称単数」文藝春秋

・あらすじ
ある男は、普段めったにスーツを着ることがない。仕事柄スーツを着る必要がないのだが、年に数回しか着ないことに対して、ある種の申し訳なさが芽生えていた。

ただ、この申し訳なさが一体どこからくるものなのかよくわからない。日々の労働で真っ当に購入したスーツに対して、なぜ後ろめたさを感じるのか。ただまぁ、そういう日もある。

妻は友だちと食事に出掛けている間、特に理由もなく(説明しろと求められても答えられないのだが)スーツに袖を通す。部屋でじっとしていもつまらないから、スーツを着たまま夜の街へ出た。

今までに行ったことがないバーに行き、ウォッカ・ギムレットを飲みながら、読みかけのミステリー小説を読む。その姿は、どこか、私自身ではないような気がした。

そして私は今ここにいる。ここにこうして、一人称単数の私として実在する。もうひとつでも違う方向を選んでいたら、この私はたぶんここにいなかったはずだ。

同著 226頁「一人称単数」より抜粋

すると、隣に座った女性から声をかけられた。「そんなことをしていて、なにか愉しい?」と…。

その他、シューマンの「謝肉祭」の話で盛り上がる”醜い”女性との物語や、ビートルズのLPを抱えた女性とある女性との交際を描いた話などの8編で構成される短編集。

先日の村上春樹作品を語る会に参加する前に、1冊でも多く読んでおこうと手に取った次第。

かれこれ1年近く読書会をやっているけれども、村上春樹さんの作品を持参する方は多くはない。いや、むしろいたかどうかも思い出せない。

それが有名すぎるからなのか、それとも「私、村上春樹読んでいるんで」と公言すること恐ろしいのか、はたまたそれ以外か。

ただ気持ちはわかる。どうも感想という感想が浮かばないことが多い。だからこそ、読み耽ってしまうのかもしれない。

例えば、同著にある「クリーム」という短編作品の中に、このような問いかけがある。

中心がいくつもあって、、、、、、、、、、しかも外周を持たない円、、、、、、、、、、、。でもそんなものを思い描くことはできなかった。

同著 41頁「クリーム」より抜粋

そんなことに考えを巡らせている間に、傷ついた経験も取るに足りないことのように思えてくる。

不思議だ。不思議としか思えない。フィクションだから当然だが、実際に起きた物語ではない。だが、リアリティーがありすぎてしまう。これは村上さんが実際に経験したことだと言われれば、正直信じてしまう。

結局、村上作品を読んで思うことは、この言葉に集約されてしまう。

説明しないと分からないと言うことは説明しても分からないということだ。

村上春樹「1Q84」新潮社より抜粋

それではまた次回!

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