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読書記録「52ヘルツのクジラたち」

川口市出身の自称読書家 川口竜也です!

今回読んだのは、町田そのこさんの「52ヘルツのクジラたち」中央公論新社 (2023) です!

町田そのこ「52ヘルツのクジラたち」中央公論新社

・あらすじ
大分県は祖母が住んでいた家に越してきたキナコ(三島貴瑚みしまきこ)。彼女は海の見えるこの家で、人知れず死んだような生き方を望んでいた。

彼女はこれまで、二度死んでいた。一度目は両親の虐待から解放されたこと。罰だと言われて食事も与えられず、泣こうものなら殴られる幼少期。挙句の果てに難病を患った義父の介護を全て担わねばならなかった。

きっかけは義父の認知症が急激に進行していると、病院で医師からの宣告された日。母はお前のせいだ、お前がちゃんと看ていないからこうなったのだ。お前が病気になればよかったんだ、とキナコを責め立てた。

二度目は大切な人を死に追いやってしまったこと。両親から引き離してくれたのは、高校時代の同級生 美晴みはると同じ会社の先輩のアンさん(岡田安吾おかだあんご)。今にも死にそうなキナコの身を案じて、新たな生活を手助けしてくれた。

だが、アンさんに対して恋愛感情を抱かなかったキナコ。勤めている会社の上司である新名主税ちからとの出会いをきっかけに、少しずつ新しい世界を知るようになる。

だが、主税には既に婚約者がいた。歪んだ感情を持つ彼はキナコを幸せにしないと言うアンさんの助言を聞き入れず、誰からも愛されなかった自分に愛情を注いでくれる主税から離れられないキナコ。

それからしばらくして、アンさんは自殺してしまったのだった。

こうした経緯から、死にたくても死にきれずにいるキナコは、祖母の暮らしていた家に移り住むことになる。だがその町で、昔のキナコと同じように、親から虐待を受けて話すことが出来なくなってしまった少年と出会う。

辛い夜に何度も聴いた「52ヘルツのクジラの声」をきっかけに、キナコは少年の声をちゃんと聞いてくれる家族を探すために、もう一度人生をやり直す。

先日まで瀬尾まいこさんの「そして、バトンを渡された」を読了したばかりだったため、あまりの境遇の違いに驚きつつ、何度も目頭が熱くなりながら読み終えた次第。

タイトルにもある「52ヘルツのクジラ」というのは、周波数が高すぎて仲間に声が届けることができない、孤独なクジラの声である。

「他の仲間と周波数が違うから、仲間と出会うこともできないんだって。例えば群れがものすごく近くにいたとして、すぐに触れあえる位置にいても、気付かれないまますれ違うってことなんだろうね」

同著 84頁より抜粋

キナコも少年も、酷い両親のもとで生活したばかりに、自分の声が誰にも届けることができない、誰も自分を助けてくれないのだと理解していた。

だけど、お互いにその声を聞いてくれる、聞こうと一生懸命になってくれる人に出会えた。魂の番と呼べるような人に、出会えた。

個人的な話だし、物語の筋からは離れるけれども、小学生の頃に保健室登校だった時期がある。友達と仲良くしなければならないというあの空気感が、嫌で嫌で仕方がなかった。

一応学校には行くけれども、早々に保健室で時間を過ごす日々が続いた。それほど深刻にはならなかったため、割りと早めに教室には戻れたけれども、その時に校長先生から言われた言葉を今でもよく覚えている。

言い訳がましく学校に来ること自体は頑張っていると言ったら、校長先生は真面目な顔で「頑張ってない」と言ってくれた。

真っ直ぐ目を見て言ってくれたこと、ちゃんと自分を叱ってくれたこと、なにより私の声を聞いてくれたことに対して、もう一回頑張ってみようと思えた。今でも、辛いことがあると思い出す。

話は戻るが、キナコのように酷い虐待を受けたわけでは当然ないし、死にたくなるほど自分を責めた経験をしたわけでもない。

それでも、キナコにとってアンさんや美晴が声を聞こうとしてくれたのと同じように、私にも確かに、自分の声を、悩みを聞いてくれる人に出会った。

過去は過去だと割り切ることは難しいし、思い出したくもないような思い出もある。けれども、そのような経験があったからこそ、今ここにいるのも事実。

正直私は、誰かを助けられるほど強くはないけれども、52ヘルツの声に気付かないかもしれないけれども、誰かの支えとなれるような人でありたい。それではまた次回!

・追記(2024年3月2日)
杉咲花さん主演の映画「52ヘルツのクジラたち」を観に行った時の感想文。

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