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読書記録「太陽のパスタ、豆のスープ」

川口市出身の自称読書家 川口竜也です!

今回読んだのは、宮下奈都さんの「太陽のパスタ、豆のスープ」集英社 (2013) です!

宮下奈都「太陽のパスタ、豆のスープ」集英社 

・あらすじ
嫌な話は食事の「後」に話してと言ったはずなのに。結婚式直前に婚約破棄を言い渡された明日羽あすわは、失意のどん底に落ちていった。

何が悪かったのかは分からない。だけどゆずるさんは、私とは結婚できないのだという。本当に悪いと思っているとも。

実家で意気消沈していた明日羽に、叔母の六花ロッカさんが提案したのは「ドリフターズやりたいこと・リスト」を書くこと。

「やりたいことや、楽しそうなこと、ほしいもの、全部書き出してごらん」

同著 27頁より抜粋

こんな状況だからこそ、明日羽にはドリフターズ漂流者のための・リストが必要なんだって。

ドリフターズ・リストを書いている内に、徐々に明日羽は、自分のやりたかったことや、心が望んでいることを見つめ直し、成長していく物語。

会社の先輩が紹介してくれた本。大型連休の旅のお供に紐解いていた次第。

ドリフターズやりたいこと・リストというと、ビジネス書で「願望リスト」や「夢リスト」なるものがあった。

まだ自分でやる気に満ちていた頃、実際に何度か真似して書いていた。何が欲しいかとか、何がしたいかとか。

だけど、書いている間も、書き終わった後も、ずっと違和を感じていた。

それは、ビジネス書で紹介されるやりたいことリストは、”お金や時間の制限がなかったら何がしたい”という前提で書き出すよう指示されていたからだ。

それって、書いた夢を実現するために、仕事や副業とか、別の努力をする必要があって、私の思う「やりたいことリスト」ではないよなって。

リストって反面教師なのよ。たとえば、今日やれることを明日に延ばすな、って書く人はいつも明日に延ばしちゃう人でしょう。自分の気になっていること、自分にはできないことを挙げるのね。つまり、不可能リストなの。

同著 211頁より抜粋

言語化したのはいいけれども、結局自分は何がすればいいんだろうって思うと、動けなくなってしまう。

だからあくまでも、この物語で語られるのはドリフターズ漂流者のための・リストである。

人生の漂流者のために、今自分は何がしたいんだっけ、何を望んでいたんだっけと、その手がかりになるリストだ。

ビジネス書や自己啓発本で紹介されるような、やりたいことリストが書ける人は、そもそも人生の漂流者ではない。

本当に失意のどん底にいたら、将来やりたいことなんて思いつかないわけで。むしろ夢や願望をすらすら思いつける時点で、そこまで漂流していないだろう。

それゆえに、TODOリストほど”やらねばならない”感じでもない。

例えば、明日羽は休日の青空マーケットにて、会社の同僚の郁ちゃんが出店していた豆を買って、自分のリストに「豆」と書く。

だけど、改めてリストを見返してみても、「豆」と書いているだけで、具体的に何をするべきかはよくわからなかった。

やりたいことをやる、とか、新しく始める、とか。そのときはいい思いつきだと思って書くのに、後で見直すと首を傾げたくなる。豆だってきっと同じ道を辿る。やりたいことも新しいこともぼんやりしている。豆なんてなおさらだ。

同著 135-136頁より抜粋

やりたいことが具体的であれば、何をやるべきか明確になる。何のためにと自分に質問すれば、解像度は上がるだろう。

おそらく自己啓発系の本だったら、明確に書くべきだと言うかもしれない。

それに、書いたのだから、行動に移すことは大事である。

明日羽もまた、リストに書いたからこそ、やってみようと行動に移している。このまま意気消沈していても何も始まらない。だったら良くも悪くも、行動してみるべきなんだって。

だけど、ドリフターズ・リストにおいては、そこまで考えて「やりたいこと」を書く必要もないのかもしれない。

今はまだはっきりとは分からない。だけど、生きていくうちに、ふと見つけることだってある。

明日羽が「豆」と書いたきっかけがあるように、明日羽にとっての「豆」の価値や意味を、自分で見つけたように。

「ええとね、リストはつまりきっかけだったんだよね。今の自分やこれからの自分を考えるきっかけ。……書いたことを信じて、これがあるからだいじょうぶ、こっちで間違ってないって」

同著 251頁より抜粋

何のためにとか、どういう状態になるためにとか、考えたらきりがない。

考えたほうが良いにしても、私の場合は考えたら考えたで余計に動けなくなる。

だったらこれくらい、無理に頑張る必要のないものが良い。毎日に自分に◯をつけられるくらいのものでいいんだって。それではまた次回!


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