ノーベル文学賞を取る? 中国の作家、残雪。 短編集《西双版納的女神》(シーサンパンナの女神)を手に取ってみた
10月10日に2024年のノーベル文学賞の受賞者が発表されます。事前予想では中国の作家、残雪氏の名前があがっているそうです。
そこで以前に買ったまま「積ん読」になっていた短編集《西双版納的女神》(シーサンパンナの女神)を慌てて本棚から取り出してみました。
短編集だから面白そうなものからつまみ読みを始めたところですが、早くも悪夢にうなされそうな気分です。もちろんこれは褒め言葉です。良い小説は、夢に出てくるぐらい読者の心に響くもんですよね。
この短編集は2022年に発刊されました。
シーサンパンナは中国南部、雲南省に位置し、ミャンマーやラオスとの国境地帯にあります。表紙の絵はJeri Griffithという米国の作家が描いたもので、ボタニカルで南国を思わせる雰囲気がいいですね。最近の中国の本は装幀が素敵なものが多いです。
冒頭に収められているのは「宝蔵地帯」という短編。舞台は「雪城」と呼ばれる北方の街です。表紙から一転して、1年の半分は氷雪に閉ざされる街に読者を引き込みます。かつては炭鉱で栄えたものの街全体が閉山で落ちぶれ、とにかく寒い。家を突然訪れてくる「黒ラシャの礼帽をかぶった」人物を巡る前半のシーンから、現実なのか悪夢なのか境目があいまいになってきます。どこかにあると噂されている暖かいサロン、死んだ父母が談笑している幻影、「五糧液」「竹葉青」といった高級酒を開ける小さな男の子、お腹を刺される友人…。うなされ度が高めの場面が続きます。
文章自体はそれほど難しくないので、中国語ネイティブではない私でもそれほど苦労せず読めます。ただし小説の内容をどう解釈するかは、人によって異なるでしょう。例えば「自由になるには毒酒を飲む必要があるそうだ。でも私は自由を求めてるわけじゃない。ただここにいたいだけ」(大意)という部分が私は印象に残りました。でもどう解釈するか、あるいはそもそもこの部分が心に引っ掛かるかどうかは、人によるでしょう。
本の帯には、米国の有名な批評家であるスーザン・ソンタグの「中国で最も素晴らしい作家は誰かと聞かれれば、私はためらわず残雪!と答えるだろう」というコメントが引用されていました。