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誠一郎はかく語りき

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note仕様の連載物。どこから読んでも一話完結。お好きなように読んで下されば嬉しいです。 【あらすじ】 髙岡誠一郎という青年がその日に起きた出来事を普通に感じて、ごくごく普通な… もっと読む
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「の」って書いてあるけど

「の」って書いてあるけど

7月○日 曇り時々雨
しばらく居間の棚の上に飾ってあった

誠一郎はかく語りき

 帳場の上に母の作ったくす玉がいくつか置いてある。趣味で時々顔を出している集まりで作って来たものらしい。
 何枚かの折り紙を組み合わせて作るそうで、色の組み合わせでいろいろな雰囲気のくす玉ができるのが気に入ったそうだ。明るい色のもの、落ち着いた色のもの、可愛らしい色のもの。
 木製のいかにも古めかしい帳場の上は華やぎ

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一番最初に言い出した人がいる

一番最初に言い出した人がいる

5月○日 晴れ時々くもり
誰が一番最初に言い出したのだろうか。何を思ってそんなことを。

誠一郎はかく語りき

 軽籠坂を上りきった先にこの辺りではひと際大きな家がある。二階建ての立派な家屋に広い庭、北原さんの家だ。
 配達の帰りに坂を上ると、北原さんの家の庭で葉を茂らせている背の高い木が目に入った。うっそうと生えている葉の隙間にくすんだ黄色の丸い実がいくつかなっている。
 びわの木だ。
 もうそ

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ごみはごみ箱へ

ごみはごみ箱へ

4月○日 晴れ

人にはいろいろな苦労があるのだなと改めて思った。よくわからなかった。

誠一郎はかく語りき

 この日、店先に置いてある傘立ての中に紙が入っているのを見つけた。小綺麗な淡い緑色の紙でくしゃりと丸められている。
 店前の通りは人がひっきりなしに往来する為、傘立てにはごく少数の心無い人がごみを入れて行くこともあった。今はもうごみを入れられる事にいちいち腹を立てることは無くなったが、や

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餅はよく噛んで食べよう

餅はよく噛んで食べよう

1月○日 晴れ
今日は楽しい一日だった。特に何事もなく良い一日だった。新年の抱負はまだ決めていない。

 誠一郎はかく語りき

 この日、寺の境内では餅つきの行事が行われていた。一年の無病息災を祈り、寒さに負けずに毎年恒例の行事を楽しむ為、地域の人々が集まっていた。

「どいてどいてっ」

 寺に集まる人々はその声に振り向き道を開け、通り道を作ってやった。

 近所の女将達が布の端を二人がかりで持

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