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読書日記: 噓つきアーニャの真っ赤な真実

日本を代表するロシア語の同時通訳者であり、作家・エッセイストとしても活躍した米原万里の代表作「噓つきアーニャの真っ赤な真実」。 彼女は子どもの頃、チェコ・プラハで5年過ごした。そこで旧ソ連を中心とした世界50か国から生徒が集まっていたソビエト学校に通い、ロシア語を習得。帰国してから30年以上経ち、当時親友だったギリシャ人のリッツア、ルーマニア人のアーニャ、そしてユーゴスラヴィア人のヤスミンカを探し出して実際に会いに行くノンフィクションだ。

彼女たち3人の人生は、この本のセリフを借りると「社会の変動に自分たちの運命が翻弄された」ものだった。それゆえ再会までに時間がかかり、米原万里さんも再会して初めて知った事実がいくつもある。「噓つきアーニャの真っ赤な真実」という本のタイトルの意味もまた秀逸だ。3人の生き方で一番衝撃だったのも、このアーニャの人生だった。噓つきで、愛されていて、話が面白くて、革命的言辞を好んで、世界50か国から構成されるソビエト学校で最も愛国心が強かった彼女。彼女の生き方に隠された意味を知った時には、涙が出た。もちろん、それとは別個に彼女という一人の人間の意志もあるのだけれど、生まれた場所、家庭で話す言葉、学校で話す言葉、彼女の父の名前の由来が、彼女の人生の選択一つ一つにどれほどの影響を与えて来たのかと。


時折出てくる、ソビエト学校のエピソードも面白い。ソビエト学校の先生は「教え子の才能を見つけると、我を忘れて大騒ぎする」傾向が強く、ヤスミンカの絵を見た先生も教室を飛び出し、職員室にいた先生を全員引き連れ、その才能に巡り合えた喜びを表現したのだそうだ。また、米原さんが通訳として働いていた時は「西欧では個人の持ち物だけど、ロシアでは皆の宝」と西欧に亡命した旧ソ連の芸術家に打ち明けられたことも少なくなかったという。なるほど、バレエやフィギアスケートといった芸術分野で偉業を成し遂げる国にはこんな考え方があるのかと納得した。


ベッドの隣には、米原万里さんの他の本も置いてある。寝る前に彼女の本が読める幸せを噛みしめながら、今日も夜更かしする。おやつはグミ。

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