社内復帰支援施設を設置することの効果
私が産業医として勤務する企業で、6年ほど前から社内復帰支援施設を開設し運用を続けている。この施設は、以前から障害者福祉サービスを使った職場復帰支援事業を展開している事業者に、従業員専用の施設の運用を委託する形で設置したものだが、今回は、この施設を設置した効果について紹介したい。
社内復帰支援施設を開設する以前から、自分が職場復帰支援に関わる従業員にリワーク等の利用を勧めたり、周辺のリワーク等の見学をさせてもらっていた。その中で、リワーク等を利用することが、復帰後の安定就労に明確に寄与していると感じていた。
しかし、当時は、私からリワークの利用を提案しても、実際につながるケースは決して多くはなかった。それは、従業員自身や、上司や人事が、リワークについて知識がなく、症状が安定して、今すぐにでも復帰できそうな状態なので、さらに休業を延長してリワークを利用するということの理解が得られなかったことが大きいと考えている。さらに設置を検討した当初は、医療リワークを設置する医療機関もまだそれほど多くなく、利用までに月単位での待機時間を要することもあったことも、利用のハードルになっていた。また、いざ本人が利用する気になっても、すでに復帰可能との診断を出している主治医からの反対で利用につながらないケースも少なくなった。さらにいえば、私と一緒に働く産業保健職において、リワークについて知らなかったり、その利用効果について懐疑的な認識をもっているもの少なくなかったことも寄与していたかもしれない。
それが、社内復帰支援施設を設置することで、待機時間は最小化できるうえ、社内に設置することで、その存在や価値について、社内で認知するきっかけになったため、それまで知らなかった人でも、「会社が設置しているからきっと意味のあるものなんだろう」と考え、前向きに検討してもらいやすくなったと考えている。また、主治医の反応も、タイミングによっては、その診断を覆すことになるが、「会社が責任をとるなら・・・」という形で、利用について理解を示してもらえることが増えたように考える。
また、社内にメンタルヘルス不調者を支援する施設を設置することについて、労働組合関係者を中心に、当初はメンタルヘルス不調者を職場から遠ざける手段だとして警戒する見る向きもあったことは否定しないが、設置趣旨を丁寧に説明し、実際に運用をつなげていくことで、理解を得られてと考えているし、現状においては、従業員に対して手厚いサポート体制が整っていると受け取ってもらっている。
産業保健職の視点から見ると、休業中で職場復帰に向けた準備の支援業務が、社内復帰支援施設で代替してもらえる形になる負荷軽減につながっている。さらに、定期的に復帰支援施設側と情報共有をすることで、会社の現状の様子や課題が共有でき、より会社の職場復帰の基準に準じた支援をしてもらうことができるため、復帰準備がかなり整った状態でもどってくることが多い印象である。
また、復帰支援施設を利用する主な職場は、新型コロナウイルスの感染拡大時に、フリーアドレス化が進み、感染が落ち着いた今も、テレワーク中心で働く従業員が多いため、復帰支援施設もその働き方に合わせて、オンライン中心で、定期的に対面でのプログラムを行う形をとってもらうことができている。実際、オンライン中心になって、その働き方に適応できなかったことが体調を崩すきっかけになった人にとっては、オンライン中心のプログラムをうけることで、体調不良のきっかけに対しても実体験を通じて対応できる形になっている。
なお、社内復帰支援施設を設置してから、この施設を利用して復帰した従業員の復帰1年後までの就業継続率は98%であり、メンタルヘルス不調者の再休業を抑制するという部分において、数字の上でも設置効果があったといえると考えている。
一方で、社内復帰支援施設を設置することは、必ずしもメリットばかりではない。委託するためのコストはかかるし、運用を継続していくために、運用ルールのメンテナンスも必要になる。また、医療リワークではないため、その効果について医学的なエビデンスは十分とは言えないこと、診断や治療的なアプローチが難しいことなども課題に一つと考える。今回、ご紹介した社内復帰支援施設では、上記の課題への対応も含め、運営規程を作りこむことで可能な限り回避しているが、十分ではない問題もあるかもしれない。ただ、社内復帰支援施設を設置する企業が多くないのも現実である。私は、社内復帰支援施設を設置することは、その施設のみならず、職域におけるリワーク等の認知度や、利用価値の認識を高めることに寄与し、よって、社内復帰支援施設にだけでなく、本人の課題やニーズに応じて、社外の医療リワーク等もより多く利用されることにもつながると考えている。リワーク等の認知度が高まることは、メンタルヘルス不調者にとっての選択肢が増えることであり、その結果としてより良い未来を手に入れるチャンスが増えることだと考える。社内復帰支援施設の設置は、どこでもできるものではないが、メンタルヘルス不調者対策として検討していただける事業場が増えることで、職場でメンタルヘルス不調に苦しむ人が、もっと活躍できる社会につながれと考える。
なお、合同会社活躍研究所では、社内復帰支援施設の設置支援も承っております。
合同会社活躍研究所では、企業向けに活躍型メンタルヘルス対策の導入支援を行っております。ご興味をお持ちの方は、お気軽にお問い合わせください。
<著者について>
野﨑卓朗(Nozaki Takuro)
日本産業衛生学会 専門医・指導医
労働衛生コンサルタント(保健衛生)
産業医科大学 産業生態科学研究所 産業精神保健学 非常勤助教
日本産業ストレス学会理事
日本産業精神保健学会編集委員
厚生労働省委託事業「働く人のメンタルヘルスポータルサイト『こころの
耳』」作業部会委員長
「メンタルヘルス不調になった従業員が当たり前に活躍する会社を作る」
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