見出し画像

【かつらのお話:揉み上げ】

全網鬘の特徴の一つに【揉み上げ】があります。

こんにちは。京都時代劇かつらです。今回は【揉み上げ】のお話です。

前回暈し貼りをした地金。
刳のチュールを貼ると地金もバレず、綺麗な
【揉み上げ】になりました。


暈し貼りのお陰で地金が透けて見えない

今回製作しているのは舞台芝居用の鬘なので、掛け外しのしやすいようにこのようなしっかりした刳の【揉み上げ】にしています。

立派な揉み上げ(画像は舞台演劇のかつら)


全盛期のテレビ時代劇の鬘はほぼ全網鬘で、とても立派な【揉み上げ】が特徴的でした。

テレビ時代劇全盛期は、1970年代~1990年代の昭和の終わりから平成にかけての時でバブル期にも重なり、各放送局で時代劇が放送されていました。
また、各放送局毎に決まった時間帯が時代劇枠となっていました。

例えばTBSなら、月曜夜8時から

『水戸黄門』『大岡越前』『江戸を斬る』

フジテレビなら、水曜夜8時から

『鬼平犯科帳』『銭形平次』『御家人斬九郎』

と言うように、常に途切れる事なく時代劇が放送されていました。
そんな量産時代、東映撮影所では

『暴れん坊将軍』『遠山の金さん』『長七郎江戸日記』『銭形平次』『三匹が斬る』『桃太郎侍』等々

沢山の作品が生まれ、各ヒーローには立派な【揉み上げ】がありました。

ご存じ、助さん格さんは勿論のこと、老人ですが水戸のご老公にも立派な【揉み上げ】がありました。

お隣、松竹撮影所の作品では、

『鬼平犯科帳』や『剣客商売』『必殺シリーズ』

映像京都の作品では、

『八丁堀捕物ばなし』や『御家人斬九郎』など

東映時代劇に比べ控えめとはいえ、各キャラクターにはやはり立派な【揉み上げ】がありました。

【揉み上げ】は初め、役者の顔を小さく見せたり、力強さを引き立てたり等、刳にメリハリをつけて時代劇らしさを演出していました。
しかし時代と共にどんどんと太く長く立派になり、ついには

『横から見たら味付海苔が付いている』

と揶揄されるくらい太くオーバーになりすぎました。
いくら様式美やテレビ時代劇らしさの表現とはいえ、あまりにも過ぎるのはどうかと言うことで、山田洋次監督の『たそがれ清兵衛』公開頃から、様式美よりもどんどんとリアル志向に変わってきました。

また、頬に乗る全網鬘の【揉み上げ】はカメラの進化により、セリフの毎にバレが強くなるので、今は大河ドラマに代表されるように地毛を生かした、よりソフトな【揉み上げ】が主流となっています。

先頃放送された『必殺仕事人』の最新作からは、東山紀之さん演じる同心・渡辺小五郎の鬘も、全網鬘の【揉み上げ】から、半網鬘の地毛を生かした雰囲気の【揉み上げ】へと変わりました。

必殺仕事人を前回と今回録画されておられる方は是非見比べてみてください。シリーズ物でも言われてみないとわからないちょっとした変化がお分かりいただけると思います。

【揉み上げ】といえば先般公開された映画、

『仕掛人・藤枝梅安』

は東映撮影所で製作の作品ですが、往年の東映時代劇の立派な【揉み上げ】ではなく現在主流のソフトな感じに仕上がっています。

また、来年公開に向けて今春から撮影の始まった十代目松本幸四郎丈による

『鬼平犯科帳』

は松竹撮影所で製作の作品になります。

二世中村吉右衛門丈の『鬼平犯科帳』からいよいよ新たな鬼平へと代替わりしますが、キャストや演出の変化だけでなく、扮装・鬘の雰囲気の変化にもちょっと注目してみると、また違う角度から時代劇を楽しめるかと思います。

新生長谷川平蔵の【揉み上げ】は、先代長谷川平蔵とは違って、半網かつらの地毛を使ったものになっています。
ぜひその違いにも注目してみて下さいね。

来春のスペシャル放送が今から楽しみです。

※当noteでご紹介する写真は、全て筆者撮影のオリジナル写真です。被写体及び他者撮影の写真を使用する場合は、全て許可を得て掲載しています。
当noteの文章・写真の転載、加工、二次使用はなんびとにも許可しておりません。ご注意願います。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?