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【かつらのお話:床山】

前回鬢簑を付け終わった鉢金。
別に作っておいた襟金を取り付けたら櫛を通し癖直しのコテを当てます。
キレイに癖をとり櫛の入った人毛をシゴキで纏めたら完成です。

こんにちは。京都時代劇かつらです。

何回かに渡りご紹介してきた女形のかつら作りも今回でいよいよ大詰めです。


組み立てコテ当て櫛入れも終わりシゴキで纏めて完成

鬘師の仕事はこの状態まで。

このあと床山さんが役に合わせて髪を結い上げます。

京都の撮影の世界では、立ち役を結い上げるのが床山(とこやま)、女形を結い上げるのが結髪(けっぱつ)と言い、分かれています。
結髪さんはほぼ女性ですが、床山さんは女性も男性もいます。そして撮影現場では総称してメイクさんとも呼ばれます。

昔は

『役者は自分で顔を作るもの』

と言われていました。
役者たるもの、自分の役を理解し自分でその役の顔を拵えるのだという考えだったそうです。

私が修行に入った頃でも、

『自分で顔を拵えられないのは役者とは言えない。』

と、古い俳優さんはおっしゃっていました。
それくらい役者にとって顔を拵えるのは大切なことなのです。

本来結髪や床山さんは髪を結うのが仕事ですから、役者さんが拵えた顔に床山が手を入れるなど、役者さんに対して失礼に当たるのでしませんでした。
しかし、時代が変わるにつれ、結髪や床山さんは補助的に顔の手直しもするようになり、いつしか、かつらの結い及びメイクと、全般的に携わるようになりました。ちなみに顔を作る、顔を拵えるとは化粧のこと。今様ならメイクですね。

メイクは美粧とも呼ばれます。かつらの結い上げからメイクまで全て含まれた昔からの呼称です。映画やテレビのエンドタイトルでは、

かつら・◯◯かつら
美粧・◯◯美粧 

結髪床山・◯◯かつら
美粧・◯◯かつら

などと流れたりしています。

ちなみに、たまに聞く話でもありますが私は小学生の頃、かつら・◯◯かつらのタイトルを見て、『へえ~名前がかつらさんで、かつらの仕事してはるんや。めっちゃピッタリの仕事やん』と思っていました。

他の部所が個人名が多いこともあり、かつらの担当も個人名だと思ってしまったんですね。

テレビを見ながら
『ははは!かつら・◯◯かつらやて!名前、かつらやて!』と言うと、すかさず父親からは
『は?会社の名前やん』と、突っ込まれてしまいた。
それはさておき、東京の映画界では結髪床山は他に技髪とも呼ばれたりします。髪の技、なんともかっこいい呼称ですね。

舞台では結髪と言う呼称は一般的ではなく、立ち役も女形も髪を結うのは床山さんと呼ばれます。歌舞伎では、立ち役専門の床山の会社、女形専門の床山の会社と髪を結う床山さんの会社が分かれていますが、床山と結髪ではなく両方とも床山と呼ばれます。そして歌舞伎の床山さんの楽屋部屋は、立ち役の床山部屋、女形の床山部屋に分かれています。

また、大相撲の力士の髪を結うのも床山と呼びます。
大相撲の床山さんは日本相撲協会の職員で各相撲部屋に所属しており、等級があります。
一番初めが五等で、一番最高位が特等となります。
特等になるには長い年月と研鑽が必要であり、力士が横綱を目指すように床山さんも上の等級を目指していくそうです。
そして等級が上がると力士と同じ番付に名前が載ります。番付に名前が載るだなんて、自分の床山の腕が認められた証。とても誇らしいでしょうね。
名前といえば大相撲の床山さんには、力士の四股名のように、床山名があります。
床◯というように、頭に床の字がつきます。そしてその下に一字付けて床山名となります。◯の一字は、だいたい本名から一字採るのが多いそうです。
また、大相撲の床山さんは日本相撲協会の職員ですので、65歳で定年があります。床山名があったり定年があるのは、映画の床山さんや演劇の床山さんとの違いかもしれません。

聞き馴染みのない、『床山』さんですが、実は日本には様々な床山さんがいます。

映画、テレビ、商業演劇、大衆演劇、歌舞伎、文楽、日本舞踊、大相撲などなど

そして皆さん各界で研鑽を積み、素晴らしい髪を結い上げています。

さてさてこの女形の鬘はどんな髪型になるのでしょうか。

次回もどうぞお楽しみに。

※当noteでご紹介する写真は、全て筆者撮影のオリジナル写真です。
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