ES作成にChatGPTを使用すること アリ?ナシ?
ChatGPTを筆頭に、生成AIがたくさんの注目を集めている今日この頃、こんな記事を見かけました。
すんごくざっくりとまとめると、こんな感じ。
・採用支援企業がES(エントリーシート)作成を支援する無料サービスを開始
・学生時代の経験について情報を入力すると、30秒ほどで完成度の高い文章の素案が表示される
要するに、情報を入力するだけで、ESのラフ案が出来ちゃいますよ、ということらしい。
このネット記事のコメント欄を見てみると、下記のような内容のコメントが寄せられていた。
・個人情報流出しない?大丈夫?
・面接したらすぐにバレそう
・AI活用するのは良い、けどコピペはダメ
・AIが作成する文章には血が通っていないから薄っぺらい
・何百何千というESを読んでいる担当者が見ればすぐに気づく
・かつては先輩のESを参考にする学生が多かった。AIを活用すれば、自分にあった精度の高い情報が気軽に入手できそう
・結局、企業は学歴フィルターで見ている。ESはそのための口実に過ぎない(AIを使っているかどうかはあまり重要ではない)
などなど。まさに賛否両論という感じ。
個人的に思う事としては、このAIの進化や活用というのは、もはや不可逆な流れにあり、受け容れる以外の選択肢はないと思います。
色々なリスクが指摘されていて、対処すべきことや検討すべき課題はありますが、利便性の高さ が大きすぎて、今さら無かったことにするのは無理かな、と。
その上で、就活という人生を賭けたセレクションの場に、AIを持ち込むことについては、どうでしょうか。
就活にAIを活用するのはアリ?ナシ?
結論から述べると、私は就活や採用にAIを活用することはアリだと思っています。というか、前述の通りそれ以外の選択肢は無いとと思っています。
今回のESにフォーカスして話をすると、
採用活動の補足資料として、企業側がESの提出を求めたのは、1993年のソニーが最初だと言われています。(たぶん諸説ありそう)そこから急速に他の企業にも広がっていきました。
内容は、個社ごとの特徴を強く打ち出しているところもあれば、一般的なもの(ガクチカ、志望動機など)にとどめている企業など様々です。
基本的に、就活生はこのESをヒィヒィ言いながら書いては消して書いては消して、合否の結果を見るたびに一喜一憂することになります。
多くの学生は、自らの過去を振り返りながら、自分で作成を進めています。
ただし、作成の過程においては、先輩、就職課の指導員、OBOGなどの外部リソースを活用して、アドバイスをもらったり、添削を受けて、内容をブラッシュアップしています。
人によっては、他の誰かに代筆(プロ、アマありますが)してもらうような場合もあります。
はてさて、この先輩や就職課といった外部リソースの活用と、AIの活用について、何か本質的な違いがあるでしょうか。
就職活動のゴールとは
就職活動の本質的なゴールとしては、自分のキャリアを中長期的に考え、そこキャリア観に合致した企業への入社切符(内定)を得ることです。面接や書類選考というのは、途中プロセスにあるマイルストーンのようなものです。
そのマイルストーンを確実にパスし、ゴールを達成するために、最善の方法を検討して実行する。
これは、就活だけではなくて実際の仕事でも求められることです。
少し前までは、ネット検索と人脈というのが学生が使える主なリソースでしたが、そこにAIという新しい技術が加わっただけという見方が出来ます。
実際に、あるアンケート調査では、就活生の中でChatGPTの活用をしている人は18.4%程度という記事もありました。
思ったより少ない、というのが率直な感想ですが、きっとこれからどんどん加速し、浸透していくことでしょう。
リソースをうまく活用できる人と、出来ない人。
周囲よりも早く動き出せる人と、動けない人。
どちらを採用する方が企業にとってメリットがあるか、議論の余地はありません。
企業側が懸念すること
一方で、企業(採用担当)側からすると、AI活用が加速することを懸念したくなる気持ちも分かります。
私自身、これまでに面接官として3,000名近い方の面接を行ってきた際に、特に意識して面接で確認していたことは「候補者はどのような人なのか」という事です。実際の採用面接では”どのような人”という程度の曖昧な捉え方ではなく、○○の能力があるか、□□のコンピテンシーがあるか、など具体的にポイントを整理していますが、結局のところ候補者の口から語られる情報にどれだけの真実、実態があるかを図ることが、面接の中で最も重視していたことの一つでした。
AIによって、ESが作成され、就活対策されたときに、どこまで相手の本音や本質を引き出して確認できるかどうか、採用側は不安でたまらないのです。
AIが今のように活用されていなかった時代の採用活動においても、面接で高い評価をして採用した人が、入社後にうまくパフォーマンスを発揮できなかったというケースや、逆にギリギリの評価で入社した人が、想像を超える成果を出すなど、採用時の評価と実際の業務成績にギャップが発生することがありました。これは、どちらの場合も採用担当としては苦い思いをすることとなります。選考基準や面接での確認方法の妥当性や信頼性が揺らいでしまうからです。
AIの活用が進むにつれて、面接時に候補者側が今までよりもうまく自分を表現できるようになったときに、妥当な評価が出来るかどうか、ますます確証が持てなくなることを採用側は危惧しているのです。
しかしながら、これまで何度も述べている通り、AIの活用を抑止することはもはや不可能です。従って、AIの活用を踏まえた上で、どのような選考プロセスや採用基準を設計するかということが、今後の課題であり注目されるポイントになってきます。
ここからは妄想
もし私が採用担当だったら、どうしようか。
あくまで人間性を重視するなら、合宿やBBQ、食事会なんかを検討しますかね。言葉を作って繕うのは比較的簡単ですが、行動や立ち居振る舞いまでをコントロールするのはとても難しいことなので、その人のキャラクターがよく見えます。
ただ、これは実施側も参加者側もコストが大きいので、実施出来るとしたら採用人数がさほど大きくない企業の選考終盤ということになりそうです。
では、現在のESの代替とするなら、どのようなものが妥当でしょうかね。
思考力などを問うならば、こんなお題を投げてみるでしょうか。
■ESの作成に当たっては生成系AIを活用してください。ただし、最終かはご自身の手で行って構いません。
「このESの作成に当たって活用したAIサービスは?またそのサービスを選んだ理由は?」
「生成系AIを活用する際に、どのようなキーワードを入力しましたか?」
「最終化する際に、自ら加筆修正したポイントはどこですか?そのポイントを選んだ理由は?」
もうAI活用を前提にして、作業をしてもらっちゃう。
でもリテラシーや個性は見えてくる。
そういう観点での課題設計が必要になりそうですね。
おわりに
ガクチカ(=学生時代に力を入れたこと)が採用選考でよく聞かれる理由は、採用側は別に学生が何をやったかを知りたいわけではなくって、思考力や行動力、PDCAサイクルを回す力の有無などを知るのにお手頃だったというだけです。(テンプレがあった方が、候補者にも企業にもメリットがある)
さぁ、新卒採用がどう変わっていくのか。
この辺りでゼロリセットではないけれど、各社ごとに採用を真摯に考えることが必要なのかもしれないですね。選考のプロセス、評価基準、求める人物像、入社後のキャリア。
どうすればいいか困った企業があれば、まずはAIに相談してみましょう。
なんてね。