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結素理論の探求:スケールとアスペクトの導入

はじめに

私は生命の起源である、有機物から細胞が生み出される仕組みについて、考えています。

この記事は、これまでこのnoteで考えてきた生態系システム(参照記事1)、知能システム(参照記事2)、社会システム(参照記事3)、結素理論(参照記事4)、のモデルを踏まえつつ、さらに新しい概念を導入する試みです。

解説

私は生命の起源を探求するために、生命と知性を含めた全体のモデルを考え、その中から知覚反応系と意識系に特有の現象を削ることで、生命の起源における現象と概念を浮かび上がらせるという試みをしてます。

一方で、生命の起源は、物理の世界の上に成り立っているという前提事実があります。このため、エントロピー法則に対する生命の起源の現象を上手く説明する必要があります。

また、物理学は個体というアスペクトかつ人間スケールではニュートン力学ですが、流体や機体のアスペクトでは流体力学、電磁気のアスペクトでは電磁気学、量子スケールでは量子力学、宇宙スケールでは相対性理論、という具合に、スケールやアスペクトというフレームがとても重要になっています。そこで、私は一般的な空間と時間というフレームでなく、スケールとアスペクトというフレームを重視しています。

そして、人間のエンジニアリングにおける設計という知的活動と、アートにおけるデザインという知的活動から、全く異なるアスペクトやスケールから価値のある構造やメカニズムを抽象化して、別のアスペクトやスケールに応用できる点に着目しました。そこで抽象化やコピーされるものを「結素(ゆうそ,simul)」と命名して、このフレームワークの中核概念としています。

結素(ゆうそ,simul)の定義

結素:価値を生み出す仕組みのこと。一つの結素で複数の価値を生む事もできる。特に複数の価値を生むものは、通常、強い存在力を持つ。

ここで「価値」及び「存在力」という用語を使いました。これらの用語の具体的な定義は、結素を扱うシステムが規定します。この記事ではあまり掘り下げませんが、例えば生命の起源の分野であれば、エネルギーや素材を集める結素は価値があります。また、その結素が時間が経過しても残り続けたり再生されたり、また、空間上に伝播し増殖することも価値があります。また、その能力自体が存在力を強めます。

結素システムのフレーム

  • トポロジ:カプセル同士の関係の集合体。

  • スケール:レイヤの連続。

  • アスペクト:トポロジのうちの一側面。

  • レイヤ:スケールのうちの一層。

上記のフレームを補足するための用語についても定義しておきます。

  • インターセクション:アスペクト間の関係を示す。

  • カプセル:スケール間の仕切り。小さいスケールのカプセルとそのトポロジを内包する。

  • フィールド:あるアスペクトのあるレイヤの組み合わせ。

フレーム観点での結素の分類

  • フィールド内結素:一般的な結素。

  • アスペクト間結素:新しいアスペクトを生み出す。典型例はエネルギーの水車。

  • レイヤ間結素:新しい外部レイヤを生み出す。代表例は、カプセル。

特別な結素1:対素

<定義>
対素:一対の物事。分解するとAとB。通常、フィールド内結素として現れる。

<性質>

  • 不可分性:AとBは不可分であり、どちらかが片方だけでは存在し得ない。

  • 強化性:AとBは、お互いを強化しあう。主に以下の3段階がある。

    • 相補性:欠落や欠損があっても、お互いに片方が他方を補完や修復する。

    • 再現性: お互いに片方が他方を再現する。

    • 増殖性:片方が他方を増殖する。単方向の増殖性と双方向の増殖性がある。

特別な結素2:交素

<定義>
交素:2つの価値を変換する。フィールド内結素やアスペクト間結素として現れる。交素が新しいアスペクトを生み出すインターセクションとなる、とも考えられる。

<性質>

  • 不変性に対する交換:エネルギーや質量など、総体としてみると不変とされるものを、アスペクト間で交換することができる。これにより総体としては不変であるが、アスペクト間では現象や増加を可能できる。

  • 一方向性に対する交換:エントロピーと時間のように、総体としては一方向性のものを、アスペクト間で交換することができる。これにより総体としては一方向であるが、あるアスペクトに限れば方向を逆転させることもできる。エネルギーの水車という私が読んでいる結素は、まさにこの性質を持つ交素であり、これが生命現象の素になっていると考えらえる。

特別な結素3:留素

<定義>
留素:スケールや時間や空間を離散化する。フィールド内結素やレイヤ間結素やアスペクト間結素として現れる。留素がレイヤを生み出すとも考えられる。

<性質>

  • 分離性:カプセルのように、内と外を分離する。内側と外側でのやり取りを限定し、互いの影響を素にする。これによりシステムは拡張性を得る場合がある。

  • 定着性:活性状態と非活性状態のように、時間における系の状態を離散させる。活性状態で生み出されたものの中から選択的に非活性状態でも存続させ、次の活性状態で再生できるようにる。これにより活性と非活性の区切りを生み出し、交素と組み合わせることでスロープ&ステップのメカニズムを実現させる。また留素と対素が上手く作用すると、記録と再生という遺伝子や脳の記憶のようなメカニズムを実現できる

新しい結素を生み出す仕組みと存続させる仕組み

①自然界

  • ランダム/ゆらぎ:自然界において新しい結素が生み出される可能性をもたらす。

  • 自然淘汰/選択:自然界において持続や生存や増殖に有利な結素を残す仕組み。

②知覚反応系

  • 試行:知覚反応系において新しい結素が生み出される可能性をもたらす。

  • 学習:知覚反応系において持続や生存や増殖に有利な結素を残す仕組み。

③意識系

  • 観察:より積極的に知覚を通して対象から結素を獲得する。

  • 思考:頭の中で結素を結合させたり、補完することで新しい結素を獲得する。

  • 抽象化:観察や思考で得られた結素を、別のフィールドに適用できるように一般化すること。思考の一種。

  • 具体化(応用、適用):抽象化した結素を特定のフィールドに適用すること。思考の一種。

  • 体験:結素を使って外界に働きかけ、そのフィードバックを受けて結素を強化したり、気づきやコツをつかむという形で新しい結素を獲得する。

  • 伝達:コミュニケーションにより結素をやり取りする。

  • 記憶:上記により獲得した結素を、長期記憶に定着させる。

    • ひらめき:思考により新しい結素を生み出したときに発生する脳の反応。強く記憶を定着させる。

    • ときめき:外界を知覚した時に既に持っている結素と共鳴する結素を認識した際に発生する脳の反応。強く記憶を定着させる。

    • 驚き:脳が既存の結素を使って構築していた仮説と、外部からの知覚や伝達された結素が矛盾していた際に起きる脳の反応。強く記憶を定着させる。

適用例1:自然系(生命の起源)

以下に、この結素のフレームワークを使って原子から細胞が誕生するまでの過程を考えて見ます。これはあくまで結素のフレームワークを使った仮説であり、個々のステップで登場する概念が実際のどの有機物や化学反応に対応するかについては実証的な研究と突き合わせて検証していくことが必要になります。

  • 原子はカプセルです。原子はトポロジを形成します。これが、分子、有機物、有機物のスープとなります。

  • 原子が構成するトポロジのほとんどのアスペクトでは、エントロピーは増加します。ただし、ランダム/ゆらぎの作用の中で、エネルギーの水車型の交素が生まれ、エントロピーが下降するアスペクトが発生することがあります。

  • また、その低下したエントロピーを定着させる留素も生まれ、交素と留素の連関により、エントロピーの低下が進んでいくことがあります。

  • さらに、カプセル状の留素が発生することで、レイヤが生まれ、新たなフレームが生じることがあります。これが細胞膜です。

  • 一方、対素が生まれることで、外部から得たエネルギーが振り子のように長く継続的に交換されたり、渦や波のようにトポロジの中をエネルギーが渡り歩いていく現象も発生します。

  • また、そうしたエネルギーをトポロジの中に定着させる留素も生まれ、対素と留素の連関により、エネルギーの蓄積と対素の再生や増殖が繰り返されるような現象も発生します。

  • さらに、定着と自己複製が可能なトポロジが生成され、外界からエネルギーと必要な物質が供給されれば安定的に完全自己増殖ができるようになります。これが遺伝子です。

  • こうして、ランダム/ゆらぎの作用によって生み出される様々な結素によって、細胞が誕生します。

<補足その1:増殖性の条件について>

自然系(生命の起源)においいては、対素の性質である強化性のうち、増殖性が最も実現が難しいです。増殖性を確保するための条件から、以下に少し仮説の構築を試みます。

  • 前提条件として、外部から増殖の素になる素材とエネルギーを得る必要があります。

  • したがって、エネルギーと素材が集まってくる環境であるか、増殖によってリ十分なエネルギーと素材にリーチできる必要があります。いずれにしても潤沢なエネルギーと素材を有する環境が必要です。

  • また増殖は、単純な振り子、渦、波のように、エネルギーのみを常時交換する動的な存在の仕組みではうまくいきません。

  • そう考えると、時間的な定着が必要と考えるの方が筋が良さそうです。

  • つまり振り子、渦、波のような動的な存在Aが、外部から与えらえた素材を使って静的な存在Bを定着させます。そして静的な存在Bは、外部から与えられたエネルギーを使って、動的な存在Aを再生します。

  • こうしたメカニズムであれば、増殖性を持つことができると考えられます。

<補足その2:スロープ&ステップのメカニズム>

留素の定着性の説明の個所で書ききれませんでしたので、改めて自然系(生命の起源)におけるスロープ&ステップのメカニズムについて補足しておきます。

  • 全体としてはエントロピーが増加するという法則を破ることなく、交素よって、あるアスペクトでのみ局所的にエントロピーを逆転させることができます。これは私がエネルギーの水車と呼んでいるような現象を発生させる交素です。

  • この逆流は、一時的かつ局所であり、それだけでエントロピーをどんどん逆流させることはできません。これは坂を上るようなもので、少し坂を上ることができても、条件が尽きれば坂を滑り落ちてしまう事に似ています。

  • 一方で、留素の鎮静性によって、坂を上ったところでいったん非活性化してその状態を定着する作用と組み合わせることができれば、坂を滑り落ちずに済みます。これは坂の先に踊り場のような平らなステップがあることをイメージすると分かりやすいと思います。

  • そして、この留素で鎮静化した後で、再びそこをスタートにして坂を上りることで、再び局所的なエントロピーの逆流を継続でききます。なお、ステップが存在することで、前後のスロープにおいて別々の交素を組み合わせることも容易になります。

適用例2:知覚反応系

以下に、知覚反応系についても、このフレームワークを使った解釈を記載します。これもあくまで結素の観点で知覚反応系を解釈した仮説であり、生物における知覚反応系の一側面を描いているに過ぎません。ただ、このように解釈することで、脳と身体の関係性についての理解が深まると思います。

  • 細胞は知覚反応系を持っています。外界からの刺激を知覚し、学習した内容に沿って、反応をします。ここで、この学習されるものが結素であると考えます。

  • 結素の学習は個体内のみで行われる場合と、遺伝子に本能として刻まれれることがあります。細胞は、外界からの刺激に対して様々な反応を試行します。1つの細胞は遺伝子に刻まれた結素を使って同じ反応しかしなかったり、一度結素を学習すると同じ反応しかしないかもしれません。

  • 上手く価値の高い結素を持っていれば、その細胞は生存しやく、遺伝子も存続しやすくなりますので、多様な試行により、有用な結素を本能として刻み、かつ、遺伝子や有用な結素を学習しやすいような種が、生き残っていきます。

  • この知覚反応系は、生物の進化で多細胞生物が登場した後には、複数の細胞間で刺激を伝達しあう形で実現されます。更に動物には神経細胞として現れます。複数の細胞や神経細胞は知覚反応系のトポロジを形成し、より多様な結素を学習できるようになります。

  • さらに生物が進化することで、神経細胞は頭部に凝集されていきます。これが知覚反応系のカプセルとしての脳になります。

  • この知覚反応系のカプセルである脳は、他の個体との間でトポロジを形成することができます。それが社会的なネットワークを形成します。人間以外の動物も、群れを成したり社会的な上下関係を生み出したりしますが、それもこの知覚反応系のトポロジと考えることができます。

  • 生物における対素は、細胞の分裂時の遺伝子のコピーと細胞の生成の関係にもみられますし、鶏と卵という発生と産卵の関係やオスとメスとの関係にもみられます。また、自己修復のメカニズムも対素の応用でしょう。

  • 光合成は外界のエネルギーを取り込んで炭水化物を生成する交素の代表格です。この他、餌を探して食べるための知覚反応パターンは、学習される交素の代表格でしょう。こうした知覚反応系におけるエントロピーの局所的な逆転を生じさせる交素は、帆船で帆を操る様子に似ています。全体としては向かい風で周りの物は流されていくけれども、その流れを知覚して的確に帆を操ることで風に逆らって進むことができます。

  • 刺激を受けて興奮状態になったり一定期間で興奮を抑えるようなメカニズムは留素の例です。動物の睡眠も留素だと考えて良いでしょう。また、知覚反応系の試行錯誤で見つけた生存に有利に働く結素が学習として定着する作用自体も重要な結素でしょう。単細胞、多細胞、神経網、脳にはそれぞれ認知反応系の学習が見られると考えられますが、それぞれ異なる方法で学習を定着させている可能性があります。そうだとすると、それぞれに異なる留素があるという事になります。

適用例3:意識系

以下に、人間の意識についても、このフレームワークを使った解釈を記載します。これまで同様、仮説の提示となります。

  • 脳の中には知識としての結素が認識、記憶されます。これは知覚反応系で外界を観察して得られた知識も含まれますし、言葉によるコミュニケーションにより他の人や資料から伝達を受けて獲得した知識も含まれます。また、景色や芸術表現から受ける感性的な情報も結素として記憶されます。

  • また、頭の中で思考する事でも、新しい結素が構築されていきますし、運動や表現を実践して結素をアウトプットする体験でも、新しい気づきやコツなどが結素として得られることもあります。

  • 全く別の分野の観察や思考によって得られた結素の中には、抽象化して別の分野に具体化することができるものもあります。また、分野を自体の境界を認識したり、その分野の結素の関係性を分析的に認識するための結素もあります。通常こうした結素はフレームワークと呼ばれます。結素理論も、1つのフレームワークであり、結素です。

  • さらに、観察・伝達・思考・体験等で認識し記憶した結素を、意識的に外界に反映することができます。これが設計(デザイン)です。エンジニアの設計も、デザイナーのデザインも、実務家の計画も、すべてこのデザインの能力を使っており、それは未来を形作ることを可能にしています。

  • 日記や写真は、その日の出来事を定着させます。そして時々見返すことで、その思い出と共に懐かしさや楽しかった気持ちが浮かんできます。そしてまた日記や写真を残そうという気持ちになるでしょう。対素の関係です。こうした実践的な対素だけでなく、こうしたことを頭の中で想像できるだけでも、私たちはこうした記録と振り返りという対素を認識、記憶できていることが分かります。

  • また、脳の中の結素の中にも、上で挙げた対素や交素や留素などの特別な結素が認識、記憶されることがあります。乳児は自分と外界の認識があいまいなのだそうです。その境界を認識した時、頭の中に留素が認識されたと解釈できます。

  • 欲しい服を買いたいとき、アルバイトをする事を思いつくでしょう。服を買うというファッションのアスペクトと、仕事をしてお金をもらうという経済や労働のアスペクトの間を橋渡しする交素を認識しているからです。

  • また、知覚反応系でも、社会が形成されることを説明しましたが、意識は、質が異なる社会を形成します。動物の群れと、人間の社会が質的に異なるのは、意識の社会が形成されるためです。その社会の上で、文化や学問や経済や家族など、様々なつながりが形成されています。

<補足:意識系における価値について>

なお、意識系における「価値」は、単に個人の生存や種の存続に寄与するモノだけではありません。遊びやお祭りのように、一見無駄に思えるようなことも人間が習慣的に行っているのは、脳がそうした行為における結素に一定の価値を認めているためと解釈されます。

「価値」は結素の記憶への定着力を上げることが基準です。従って「ひらめき」「ときめき」「驚き」のような作用で記憶に刻まれる結素は、特に価値が高い結素という事になります。どういった基準かはここではこれ以上掘り下げませんが、新しい発見的な結素に価値があるということなのでしょう。その意味で、自然はランダムと淘汰により結素を残していましたが、脳は積極的に新しい結素を発見して記憶する性質を持っているようです。つまり、人間の脳は、結素を見つけ出すことを一つの目的とした装置と考える事もできます。

人間の意識はその能力で他の生物よりも多くのエネルギーや資源を獲得することに成功していますが、そこで得られた余裕を使って、できるだけ結素を多く集めておこうとしているのかもしれません。それは、認知反応系のような過去の経験に基づく実用的な結素だけではなく、将来訪れる過去に経験のない不測の事態に備える意味があるのではないかと思えます。あえて無駄に思える結素であっても、積極的に発見し収拾することが、未経験の事態にも対応できるロバスト性を得るための巧妙な戦略なのかもしれません。

おわりに

折に触れて他の記事でも触れていますが、私がこのnoteで生命の起源の探求をし始めたきっかけは、AIです。私はチャットAIの進化に触れ、これから先の汎用人工知能(AGI)や、さらにそれが人間の知性を超える超知性(ASI)の登場について考えました。そしてまさに未経験の事態が訪れることを実感したのです。

その実感から将来の見通しを少しでも立てられるようにと考え始め、私なりに発見できたことをこうしてnote記事にしてきています。結素理論もその一つです。

この記事の終りの方で記載した、未経験の事態に備えて結素を蓄えておくという仕組みは、まさに私がチャットAIに触れてから思考をしてきたことを指しているようです。これから本当に未経験の事態が来るかもしれませんし、来ないのかもしれません。けれど、どちらにしても、できるだけ大きの備えをしておくことは大事なことだと思っています。

参照記事一覧

参照記事1

参照記事2

参照記事3

参照記事4


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