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生態系的システムの一般理論

はじめに

生物の生態系をはじめ、エコシステムと呼ばれるような生態系的システムについて、一般理論を考えています。

1.概要

生物の生態系のように、構成要素が自律的に自己組織化して、複雑で高度なダイナミズムを持つシステムを作り出すような仕組みが存在します。本論では、こうしたシステムを、生態系的システムと呼ぶことにし、一般的な理論化を試みます。
まず、第2章で生態系的システムの構成要素と基本概念を明らかにします。基本概念としては、対象システムが生態系的システムとして成立するために
持つべき性質と、システムの発達速度を非線形に加速するイノベーションと呼べるような現象について説明します。
第3章では、生態系的システムの構成要素と基本概念を用いて、システムの発展過程を概説します。一般理論として、基本的な構成要素の発現から始まってシステムが高度に発展し、やがて高次元の生態系的システムが創発されるまでの過程をたどります。これにより、個別の生態系的システムの理解と分析に役立つ思考的なフレームワークを提供します。

2.生態系的システムの構成要素と基本概念

2.1.構成要素

生態系的システムは、外部からエネルギーを受けて、エンティティとプロセスが相互作用するシステムです。
また、多数のエンティティが凝集する空間でエンティティとプロセスの相互作用が活発に行われるため、そのような空間に着目することが重要になります。このため、そのような空間を器と呼ぶことにし、構成要素としています。
また、構成要素としては明記していませんが、空間の中で、時間の流れに沿って相互作用が進行するダイナミズムを持つことも大きな特徴です。

  • エネルギー

    • プロセスを駆動する能力を持つ。

    • 器の外部から供給されたり、器の外部に散逸したりする。

    • システムによっては、エンティティに蓄積されたりエンティティから放出されたりする。

  • エンティティ

    • システムの時空間に対して、静的な存在

    • プロセスの触媒となったり、資源となったり、生産物となる。

  • プロセス

    • システムの時空間に対して、動的な活動

    • エネルギーにより駆動し、エンティティを触媒としたり、資源として消費(破壊)したり、生産物として生成(創造)したりする。

    • 多数のエンティティが凝集された空間。

2.2.生態系的システムの成立に必要/重要な性質

生態系的システムとそうでないシステムの違いを明確に定義することは、今後の課題ですが、簡単に特性を挙げておきます。

  • 自律的・自己組織化・非中央集権的システム

    • こちらはここでは詳しく述べません。全体を管理するような主体がいないということです。

  • 自己目的型のシステム、時間の経過に従って繁栄するシステム

    • 「繁栄する」の定義は難しいですが、エンティティとプロセスに多様性があり、複雑な相互作用がなされ、外部環境に対してロバストで、それでいて調和がとれた状態で、その規模や多様性や複雑さが増していく、という理解です。

全体を管理する主体なしに、システムが「繁栄する」ためには、いくつかの必要な性質、重要な性質を、システムやシステムの構成要素が持っている必要があります。それは、以下に挙げるものです。

  • 再生産性

    • 基本的なエンティティが再生産可能であること

  • 循環性

    • プロセスの連鎖がループ構造を持ち得ること

  • 変異性

    • エンティティあるいはプロセスが変異可能であること

  • 多様性

    • 多様なエンティティあるいはプロセスが存在可能であること

  • 供給性

    • エネルギーが外部から供給され続けること

  • 複数の器とコンジャンクション

    • システム内に器が複数同時並行で存在し、器同士が繰り返し混ざり合ったり、部分的な接点を持ってエンティティが器の間を移動すること

なお、基本的なエンティティの種類と、基本的なエンティティに作用するプロセスの種類については、あえて言及していません。これらの種類がそれほど多様でなくても、その組み合わせに十分な多様性があれば良いからです。

2.3.イノベーション

生態系的システムは、時間経過に伴うエンティティとプロセスの相互作用の変化の中で、システムの発展を非線形に加速するイノベーションと呼べるような現象が起きることがあります。生態系的システムの基本的な仕組みとは独立したものですが、ここで挙げるイノベーションに着目することが、繁栄した生態系的システムが信じがたい程の高次元のメカニズムを発現する理由を理解する助けになります。

  • 発明

    • 複雑化したことで、特別な機能を持つエンティティやプロセスが生み出されること。以下は代表例。

      • エネルギーのバッファリング(糖)

      • コード(RNA/DNA)

      • 自己複製(DNA)

      • プロセス駆動方法(イベント駆動、周期駆動、タイマ駆動)

      • コミュニケーション(メッセンジャーRNA、ホルモン)

  • リファクタリング

    • アーキテクチャに変化がもたらされること。以下は代表例。

      • 構造化

      • カプセル化/モジュール化/レイヤ化

      • 冗長化

  • 創発

    • 下位の生態系的システムから、抽象的な上位の生態系システムが生み出されること。以下は代表例(ただし、ここに挙げたものが生態系的システムであるかについては議論の余地がある)。

      • 有機物の生態系システムから、生物の生態系システムが生み出される

      • 生物の生態系的システムから、人間社会の生態系的システムが生み出される

      • 人間社会の生態系的システムから、サブシステム的に、経済・文化・芸術・学問などの生態系的システムが生み出される

3.生態系的システムの発展過程の概説

生態系的システムの理論的な基礎は、第2章に記載した内容が全てです。ここでは、システムの構成要素が、これらの性質を持っていることで、どのように生態系的システムが発展し、「繁栄」していくのか、その様子を簡単に解説します。
なお、個別具体的な生態系的システム毎に、発展のステップは異なりますし、一部の要素や性質や概念が、ここで定義した一般論と差異がある生態系的システムもあります。このため、あくまで一般理論上の発展過程としての概説になります。この概説は、個別具体的な生態系的システムの発展過程を理解したり分析したりする際の思考的なフレームワークを提供することを目的としています。一般理論における発展過程と共通性と差異を分析し、その要因が分析することで、個別のシステムの発展過程や特性を深く理解することができるはずです。

3.1.発展過程の全体像

大まかには、まず基本的なエンティティが生成・凝集して器が登場し、外部からのエネルギーを供給されながらプロセスが駆動します。あとは、時間とともに複雑で高度なエンティティとプロセスが生み出されていき、ループ構造を持つプロセスの登場や、数々の発明やリファクタリングにより複雑と高度化が加速し、やがて創発に至って別次元の生態系的システムの繁栄の歴史がスタートする、という流れです。以下、順を追って説明します。

  • 器の発現

    • まず、外部からエネルギーが供給されて、ある空間に、複数の種類の基本的なエンティティが生産されて、器が発現する。

  • プロセスの駆動とエンティティの変異

    • 器にエネルギーが供給され、エンティティ同士の間でプロセスが駆動される。これにより資源となったエンティティが消費されて、新しい別の種類のエンティティが生産される。

    • 新しいエンティティが生産されたことで、別のプロセスが駆動され、また新しいエンティティが生産される、ということが繰り返される。 

    • これにより、器の中に基本的なエンティティ以外のエンティティが形成されていき、初期状態よりも多様なプロセスも起動可能になってくる。

  • プロセスのループ

    • エンティティとプロセスの多様化が進むと、長く連鎖するプロセスが生じやすくなり、やがて、ループ構造を持つプロセスが発生する。 

    • ループ構造をもつプロセスは、より複雑なエンティティを生成することができるようになる。そして複雑なエンティティによって、より複雑なプロセスを駆動できるようになる。

  • 発明とリファクタリング

    • エンティティとプロセスの多様化が高度に進むと、発明により新しい機能が現れ、これによりさらに高度で複雑なエンティティとプロセスを生み出せるようになる。

    • 同様に、リファクタリングにより、より高度な構造が器の中に形成されることで、エンティティ群やプロセス群の安定性や生産性や拡張性が向上し、さらに高度で複雑なエンティティとプロセスを生み出せる基盤を作り出すことができるようになる。

  • 創発

    • やがて高度に複雑化と多様化をした生態系から、上位の生態系が生み出されることになる。

3.2.発展過程で発生する現象の補足

発展過程の概要では踏み込みませんでしたが、多様性が生み出され、複雑で高度な発展に寄与する2つの重要な観点を、ここでは補足します。

  • 自然淘汰と進化

    • 変異によって多種多様なエンティティとプロセスが生じるが、環境に適していない場合、すぐに消えてしまう。

    • また、他のプロセスに触媒となるエンティティを消費されてしまったり、資源となるエンティティを奪われたりすることでプロセスが駆動できなくなり、そのプロセスに依存していたエンティティも生産されなくなる。

    • 一方で、自分の存在に関わるような資源やプロセスをすべて破壊してしまうようなプロセスも、存在を継続することはできない。(この場合、器自体が崩壊することもあるので、器自体も自然淘汰と進化をするという解釈もできる)

    • こうして、より環境に適し、俊敏に反応ができ、他と調和するエンティティやプロセスが残っていくことで、単純な複雑化ではなく進化が起きる。

  • コンジャンクション

    • 器と器が深く入り交じったり、器の間でエンティティの移動が起きることで、これまで器の中に存在しなかったエンティティやプロセスと遭遇し、そこでまた新しい変異や発明やリファクタリングが発生する。

4.まとめ

時間と空間の中で、エネルギーを外部から受けながら発展する生態系的システムという考え方とその一般理論は、この地球の生物と人間社会、さらには経済、文化、芸術、学問の発展の歴史をひとつなぎのものとして解釈するための思考的なフレームワークになります。
ここでは、かなり挑戦的ではあるものの、現時点の知見を用いて、生態系的システムが、その構成要素同士の調和を図りつつ、進化やイノベーションを繰り返して「繁栄」し、やがては次の次元の生態系システムを創発するところまでを、描き切ることを試みました。
おそらく理論として成立させるには不十分であったり、実際の生態系の発展に対する重要な概念の見落としも多々あると思われますが、著者自身としては十分に分析や理解に役立つフレームワークを提示できたのではないかと感じています。
今後、このフレームワークに沿って、生物の生態系や、社会システムについて分析を試み、それぞれのシステムの発展過程の理解を深めると共に、そこで得られた知見を、本論の一般理論にフィードバックしていきたいと考えています。また、このフレームワークに基づいて分析することで、個々の生態系的システムについても新たな視点や知見を発見できる可能性も予感しています。
最後になりますが、著者自身の個人的研究の範囲だけでなく、各分野に新たな視点から発見や議論が起きるきっかけになり得るのではないかと考えていますので、様々な分野の専門家の方にもこの思考フレームワークに興味を持っていただければ、と願っています。

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