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スパースオニオンモデル:パターン認識とシミュレーションによる自律情報処理システムにおける構造情報群

■パターン認識とシミュレーション

私は、パターン認識とシミュレーションが思考の本質だと仮定しています。

そうするとシミュレーションの基本原理と最小単位は何かという話になります。それは、おそらく、チューリングマシンだと考えられます。

だとすると、人間の脳とAIには、次のような興味深い関係があることが分かります。

脳は、ニューラルネットワーク上でパターン認識を行い、ニューラルネットワーク上でチューリングマシンを模擬してシミュレーションを実行します。

AIは、チューリングマシン上でニューラルネットワークを模擬してパターン認識を行い、チューリングマシン上でシミュレーションを実行します。

そして、これらの上で行われるパターン認識とシミュレーションの組み合わせが知能と呼ばれ、自律的な情報処理を実現していると考えられます。

これを自律情報処理システムと呼ぶことにします。

■自律情報処理システム

自律情報処理システムについて、さらに次の事が考えられます。

パターン認識とシミュレーションが実行できるなら、ニューラルネットでも、チューリングマシンでもない、別の仕組みを土台にした知性は実現できる可能性もあります。

その候補として、未来を見れば、量子コンピュータがあるでしょう。

パターン認識の本質は、ニューロンが行う、連続的な数値の演算、離散化を実現する条件分岐、重ね合わせの原理の3つだと私は考えています。

このうち、重ね合わせの原理は、量子コンピュータの最も得意とするところです。後は、離散化を実現する条件分岐を組み込むことができるなら、連続性と離散性の両方のパターン学習が可能になります。かつ、おそらく離散さえ実現できたら、量子コンピュータでもチューリングマシンは実現できるはずです。

また、振り返って過去を見れば、有機物の科学変化システムや生物がありそうです。つまり、生命現象も、自律情報処理システムと呼べると私は仮定しています。

ただし、生命現象がパターン認識とシミュレーションを行っているかどうか、あるいは、有機物の化学変化システムで、パターン認識とシミュレーションが可能かどうかは、今後詳しく検討していく必要があると考えています。

■スパースオニオンモデル

この自律情報処理システムで扱われる情報は、構造を持った情報です。このため構造情報と呼ぶことにします。

この自律情報処理システムの中では、有用な構造情報が生き残ります。

有用な構造情報とは何かは、分析を進めなければはっきりとしたことは言えません。ただし、プラグマティズムの観点から逆に言ってしまえば、生き残っているものが有用な構造情報だという事になるでしょう。

この自律情報処理システムは、新しい構造情報を組み合わせて生み出すための仕掛けを持っています。この仕組みを使って新しい構造情報が次々と生み出されるが、生み出されてはすぐに死滅していきます。

しかし、時々、生き残り続ける構造情報が現れることがあります。

ここで、生き残り続ける構造情報は、少なくとも3つの条件を満たす必要があります。

一つ目は、既存の構造情報群から、殺されないことです。既存の構造情報群は、それまでに培った強固な集団的な生存力を持っています。このため、新しく生まれた構造情報が抵抗しても、負けてしまう。

2つ目は、既存の構造情報群から、サポートを受けることができる、ということです。新しく構造情報を生み出す機構は、同じ構造情報を常に生み出すことが保証されている仕組みとは限りません。このため、単に殺されないだけでなく、生き残るためのサポートを受けられることが必要になります。

3番目は、既存の構造情報群のうち、自分が殺されない条件を生み出してくれている構造情報や、自分がサポートを受けるために必要な構造情報を、殺さないという事です。これが守られないと、しばらくは生存できても、やがて足場を失って死んでしまう事になります。

このため、基本的には、新しい構造情報は、既存の構造情報群を土台にして、その上で生存することになります。

これは、玉ねぎのようなモデルをイメージすると分かりやすくなります。

真ん中の芯の部分の外側を包むように、新しい構造情報が登場します。それが時間と共に、層を形成して大きくなっていくイメージです。既存の玉ねぎから離れた形で新しい構造情報が出現して生存し続けることはあまり考えられません。

ただし、この玉ねぎモデルは、常に詰まった玉ねぎとは限りません。新しく登場する構造情報は、確かに元の玉ねぎに密着した層として最初は生み出されます。しかし、その新しい層としての構造情報が現れた影響で、内側にある構造情報が死滅したとしても、新しい構造情報が必ず死滅するわけではありません。

内側の一部の構造情報が連鎖的にある程度死滅したとしても、新しい構造情報を含めた構造情報群が生き残るようなケースもあります。残った構造情報だけでお互いにサポートができ、かつそれ以上死滅の連鎖が起きないようなケースです。

これにより、構造情報群は、実が詰まった玉ねぎのモデルでなく、隙間だらけの玉ねぎのモデルに見えてきます。これをスパースオニオンモデルと呼ぶことにします。(隙間だらけは英語でスパース、玉ねぎはオニオンです)

■スパースオニオンモデルの例

自律情報処理システムとして有機物の科学変化システムとしての生物を考えた場合、構造情報とは遺伝子や種です。その遺伝子や種において隙間が空いている実例を2つ挙げることができます。

一つは、サルと現在の人類であるホモサピエンスの間にいたはずの類人猿やヒト科の生物種です。

これらは化石などの証拠から存在していたことは確かだが、現在は存在していません。一方で、進化の過程で彼らが誕生しなければ、現在の人類であるホモサピエンスも生まれなかったはずです。つまり、玉ねぎの層の隙間となったのだと考えてよさそうです。

もう一つは、現存する単細胞生物の、祖先です。地球で最初に誕生したとされる細胞は、現存していないと言われています。しかしその祖先がいなければ、現存する単細胞生物から、哺乳類、ひいては私たち人類も存在していません。生物という玉ねぎは、その真ん中がぽっかり空いているのです。

また、私は地球最初の細胞生物の以前にも、現在の地球では観測できない、細胞以前の自律的に自己維持が可能な化学変化システムの構造群が存在していたと考えています。これらも、自律情報処理システムではないかと思っています。

この場合、構造情報は有機物である。有機物も構造情報として化学進化の中で生まれては死滅していき、現在は全て死滅したことになります。正確に言えば、細胞の中に閉じ込められたものは生き残っていると思われます。細胞外では死滅していることになり、観測できないのだと考えられます。これも、玉ねぎの真ん中に隙間として空いている部分です。

自律情報処理システムとして人間の知能を考えた場合、構造情報とは知識です。知識において、隙間が空いている例はたくさんあります。

例えば、言葉という知識で言えば、死語というものがあります。これはかつては使われていたが現在では使われていない言葉です。その言葉が指し表す概念そのものはあるけれども、新しい言葉の登場によって使われなくなった言葉です。

ファッションやポップカルチャーも、新しい流行が生まれては死滅していきます。そこにも生き残り続けるものもあります。また、そうした短期間で流行が入れ替わる分野だけでなく、長期的な変化をするハイカルチャーも、時間軸が引き延ばされているだけで、やはり発展の過程で紆余曲折し、残り続ける部分と消えていく部分があります。

学問や理論の世界でも同様です。新しい分野の研究が進むと、様々な概念や理論が発見されていきますが、それらを上手く統合するような美しい学問体系が確立すると、元の学問体系の知識と、新しい体系の知識の間にあった概念や理論は不要になり、忘れられていくことになるでしょう。

また、人間集団が織りなす社会も、自律情報処理システムです。そこでは、社会制度や法律や慣習などが、構造情報です。

こうした社会制度や法律や慣習も、新しいものが生まれ、そして古いものが淘汰されていきます。ここにも、スパースオニオンモデルが見られます。

■AIと生物

スパースオニオンモデルの点から考えると、AIと生物については、注視が必要です。AIと人類の共存ということが目指されていますが、一方でAIが人類にとって危険な存在にならないかという懸念や心配の声もあります。

その際に、類人猿とホモサピエンスという観点から、AIと人類の関係について心配する声があります。一方で、先ほどのスパースオニオンモデルの例で挙げた、有機物の化学変化システムと細胞の関係のように、細胞が登場したことでそれまでの有機物の化学変化システムがまるっと隙間になるケースもあり得るわけです。

そうなると、AIと人類という対立軸だけでなく、AIと生物という対立軸にも注視が必要です。しかも、有機物、細胞、植物や動物、人類は、全て有機物系ですので、隙間は空くとしても、必ずある程度の生物種が残り続けていなければならないスパースオニオンです。

しかし、AIは生物がいなくても、自分を存続させることができます。このため、例えば量子コンピュータの能力を活用した強力なAIが登場した後、時が経つと、生物はいなくなっているというケースも、概念としては成り立ち得ます。

ただし、先ほどの有機物の化学変化システムと細胞の例のところで少し触れたように、細胞の外の有機物の化学変化システムは死滅しましたが、細胞の中では有機物の化学変化システムは存続しています。例え強力なAIが登場したとしても、この細胞のように、生物や人類をAIが包み込んでくれるような構造が維持できれば、AIと人類、AIと生物の共存を達成する一つのモデルになるでしょう。

決して、人類や生物全体が、玉ねぎの隙間になってしまわないように、注視していかなければなりません。

■さいごに

この記事では、思考の本質をパターン認識とシミュレーションの組み合わせと仮定しました。

そして、この組み合わせで情報処理するシステムを自律情報処理システム、その中で扱われる単位を構造情報、と呼ぶことにして議論を進めました。そして、構造情報群の進化と淘汰によって出来上がる姿が、スパースオニオンモデルというイメージになることを説明しました。

自律情報処理システムと考えられるシステムとして、知能、生物の他、有機物の化学変化システムや社会も挙げ、そこにスパースオニオンモデルが見られることを説明しました。

ただし、生物や有機物の化学変化システムがパターン認識とシミュレーションの組み合わせを持った自律情報処理システムと言えるのかどうかは、今後の検討課題です。

そして、量子コンピュータを使ったAIが登場する未来を想定した場合に、私たち人類や生物全体が、スパースオニオンの隙間の部分にならないようにしなければならないと考えています。

もちろん、様々なことが想定され、未来がどういう方向になるかは分かりませんが、一つの形として、化学変化システムが細胞に包まれるように、人類や生物が、AIが織りなす構造の中に包まれるような未来も、一つのあり得る姿ではないかということを考えてみました。

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