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note小説 三十路のオレ、がん患者

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毎週月曜更新の小説。30代の会社解雇された「オレ」がガンになり、患者視点から描いていく
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#三十路

note小説 三十路のオレ、がん患者   第12回 雨の退院

note小説 三十路のオレ、がん患者   第12回 雨の退院

今、退院の日を思い出しているが、今朝と同じ雨の日だった。

こんな偶然があるものだ。

退院

これで社会復帰できる。

そう思っていた。

いや、もう二度もクビになっている。

しかも正社員で。

派遣切りがどういう言って契約社員の保護がどうこう言われているが、正社員だから安全みたいな論調には片腹が痛くなる。

術後1週間だからという事もあるが。

これからは会社に頼らず、資格を取り、バイトでも

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note小説 三十路のオレ、がん患者   第11回 食事とガスと退院

note小説 三十路のオレ、がん患者   第11回 食事とガスと退院

歩けば歩くほど歩けるようになる。

食事も出るようになった。

と言っても食事とは言えない全粥。
ただの汁だ。

そう言いたくなる。

あれだけ手術と術後を頑張ったのに、ご褒美がこれかと思うと虚しくなる。

消化器の病は仕方ないのだが、早く日常に戻りたい一心でそう感じてしまう。

ちなみに腹腔鏡手術で切った腸を糸でつないでいると思いきや、ホチキスで止めてるそうだ。

もちろん文具店で市販されている

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note小説 三十路のオレ、がん患者   第10回 夢の中の虫

note小説 三十路のオレ、がん患者   第10回 夢の中の虫

芸能人が手術を終えて次の日に歩けるまで回復したというニュースをよく聞く。

あれは、少し間違えている。

手術を終えると強制的に歩くようにさせられる。

何故か。

手術を終えて寝ていると、臓器が癒着してしまうからだ。
予期しないところに予期しない臓器がくっついて面倒なのだ。

その一番の予防法が、歩く事。

だから歩かされる。

歩けるまでに回復したのは、事実であるかもしれない。

しかし、回復

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note小説 三十路のオレ、がん患者   第7回 手術前夜まで

note小説 三十路のオレ、がん患者   第7回 手術前夜まで

入院は生活に制限が加えられるのに暇で困る。

窓の桜も散り始め、根元に咲く菜の花が優しく見える。

世間では新年度で新学期だ。

オレは世間から隔絶されてメスを入れられると言うのに、世間では新入生や新入社員が入学して出会いを求める先輩や同期が物色している時期だろう。

実際にオレもしていた。
どうなったという事ではないが、物色自体を楽しんでいたのかもしれない。

その天罰なのかわからないが、入院病

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note小説 三十路のオレ、がん患者   第6回 入院

note小説 三十路のオレ、がん患者   第6回 入院

4月になった。

その頃になると、近所には桜並木の桜が咲き乱れ、菜の花が歩道に彩りを添えてくれる。
梅だってまだ咲いている。

住所的には関東首都圏でベッドタウンなのだが、そうは思えないほどの田舎道だ。

入院の支度ができ、病院まで歩いていく事にした。

その田舎道を10分ほど歩けば病院に着く。

散り始めた優しい色をした桜の花びらを見ながらオレはこんな奇麗な景色を見ながら腹を切られに行くのかと現

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note小説 三十路のオレ、がん患者   第5回 手術までの間

note小説 三十路のオレ、がん患者   第5回 手術までの間

意外な事にガンの宣告をされて手術まで一ヶ月ほど期間があいている。

進行性のガンだと言われ、すぐに手術しないのか。

その間に進行してしまうではないか。

大腸ガンが他のガンに比べ進行が遅いとしても進まないわけではないだろう。

それまでオレは毎日、造血剤を飲んでいる。
血を作る薬を飲んでいると言う事は、体内で出血しているという事だ。

入院したが、検査しただけで処置はしてない。

それまでに方々

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note小説 三十路のオレ、がん患者   第2回 大腸がん患者になる

note小説 三十路のオレ、がん患者   第2回 大腸がん患者になる

母があまりにも言うので夜中に車を出して最寄りの急患に行った。

点滴でもして帰れるだろうと思っていたら緊急入院となった。

輸血が必要だと言われた。

意外な展開に驚いた。

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