![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/47595759/rectangle_large_type_2_f5ab77fd0e424ebddfacab08e4141bb3.jpg?width=800)
京都の青年 ユーコン川で人生のベンチマークを見つける
カナダのユーコン準州からアラスカに流れるユーコン川の名を日本で有名にしたのは、野田知佑氏に違いない。
僕自身もユーコン川をカヌーで旅すると決めてからは、彼のエッセイをずいぶん読んだ。
そして、ユーコン川を下るときに毎日握っていたのも野田氏のパドルだ。
ユーコンの短い夏には、世界中からカヌーイストが集まってくる。
そのため、ユーコン川下りのスタート地点となるカナダのホワイトホースにあるカヌーショップには、あらゆる国の旅人がやってくる。
僕はその川べりでカヌーの側面にぽっかり空いた大きな穴を埋めていた。
ここでいう大きな穴は、よくある比喩のたぐいではない。
ドーナツの穴同様、物質の真ん中に穿(うが)たれた空間のことであり、グリズリー(アラスカヒグマ)のげんこつで正拳突きをすれば、ちょうどこんな感じの気持ちのいい穴が空くんだろうな。というような現実的な穴だ。
ホワイトホースのカヌーショップでは、カヌーのレンタルがあり、1~2週間のカヌー旅を終えたのち、下流にある目的地の村に到着すれば、ショップがカヌーを回収してくれるという便利なサービスを提供している。
だが、そのさらに先まで下りたければ、レンタルは利用できず、自分のカヌーを持っていくか、現地で購入するしかない。
どちらにしてもお金がかかるので、僕は、カヌーショップの片隅に転がっていた、穴の空いたカナディアンカヌーを2万円程度で譲り受け、修理をしていたのだ。
そこに、野田知佑氏がふらりとやってきた。
野田知佑氏といえば、ユーコン川だが、だからといって、逆は常に真とは限らない。
つまり、ユーコン川に行けば、いつも野田知佑氏がいるというわけではない。
不思議な偶然に、狐につままれたような面持ちで、「なぜここにおられるのですか?」と話を伺うと、その日は番組の収録と川の図鑑の取材のために訪れたとのことだった。
そして、彼は、僕の穴が空いたカヌーの前に並べているシングルパドルを見て、さすがユーコン川下りのプロフェッショナルならではのアドバイスをくれた。
「ユーコンを下るなら、シングルパドルよりダブルパドルのほうがいいよ。」
カヌーに詳しいかたなら(ほとんどのかたがそうではないと思うが)わかるとおもうが、カナディアンカヌーには、普通シングルパドルだ。
ところが彼が言うには、ユーコン川の流れは非常に速い。しかも途中にときおり強風が吹く湖や急流の難所が現れる。そのとき、シングルパドルだとカヌーを進行方向にまっすぐに保つことができず、最悪の場合、転覆の危険がある。
夏とはいえ、北緯60度付近(北緯66度から北は北極圏)を流れるユーコン川の水は冷たい。流れの速いユーコン川で転覆し、落水するとカヌーを起こして乗り込む前に低体温症に陥り、命を落としかねない。だから、風や流れの変化に対応しやすいダブルパドルで下ったほうがよい、とのアドバイスだった。
カヌーに詳しくないかた(ほとんどのかたがそうだと思うが)に説明すると、シングルパドルはしゃもじを大きくしたような形で、ダブルパドルは、そのしゃもじのすくうほうを外にして両手にひとつずつ持ち、目の前でしゃもじの柄を90度ずらしてくっつけたものだと考えていただければイメージできると思う。
ちなみに、ダブルパドルの価格は高額である。
それでなくても、貧乏旅行のため、新品のカヌーを買う予算がなく、穴の空いたカヌーを買っていたくらいだ。ダブルパドルの価格は最安のものでも、この穴あきカヌーの価格とほぼ同額だ。
そこで、貧乏学生がとった方法というのは、シングルパドル(安いほうのパドル)をもう一つ買ってきて、ドリルで穴をあけて、ボルトでつなぐという、にわかDIYによる解決策だ。
このDIYダブルパドルの姿は、カヌーに詳しいかたでなくても、容易に想像できると思う。
そう。ダサい。
それだけではない。とんでもなく重い。
ま、このように、旅にありがちな些細なハプニングはあったものの、憧れのカヌーの大先輩、野田知佑氏のアドバイスをいただき、準備も万端に整った。
さあ、いよいよ出発のときだ。
ホテルをチェックアウトし、修理を終えたカヌーとDIYダブルパドルの前に立った僕の目に入った映像が、この記事のタイトル画像だ。
野田知佑氏のサイン入りダブルパドル。
僕の痛々しいDIYダブルパドルを不憫に思った野田氏がプレゼントしてくれたのだ。
このときの話は、野田知佑氏の著書、『北の川から』小学館、に記載されている。そのときの僕の呼び名が、タイトルの「京都の青年」だ。
ところで、このお話はタイトルの通り、僕がユーコン川で人生のベンチマークを見つける話のつもりだったのだが、すでに2000字を超える長文になってしまったので、今回は割愛する。
ユーコン川のベンチマークについては、このnoteの公開から1年近くたってようやく書き上げました。もし興味のある方はご覧いただければ幸いです。
ま、そんなかたはほとんどいないと思うけど。。
![ユーコン3](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/82541058/picture_pc_e287d91a3c8eb2e591af97d43a26d330.jpg?width=800)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?