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「困難を抱える子どもの“背中を押す存在”でありたい」学生スタッフの私が出会った、ある女子生徒

私が学生スタッフとして活動する「子どもの居場所」では、自分自身ではどうすることもできない、家庭環境などの課題を抱える子どもたちが安心して過ごし、一人ひとりが自己実現への一歩を踏み出せるよう、“きっかけづくり”や“対話をベースにした生徒への伴走”を行っています。

ここでは、「子どもの居場所」で出会ったある女子生徒とのエピソードと、居場所の存在意義について私が感じたことをお話できればと思います。

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かえでさん(仮名)と最初に出会ったのは、彼女が中3の時。

かえでさんは明るい性格で同級生の輪の中心にいるような生徒でしたが、自分の思いや悩みを誰かに相談することは苦手な一面もありました。

印象的だったのは、12月の進路面談。彼女は2つの高校で迷っており、偏差値が低い方を第1志望に、偏差値が高い方を第2志望にしていました。話を詳しく聞いてみると「本当は第2志望の高校に行きたい。でも学力的に無理かなと思って」と。

この時、私は「子どもの居場所」の中3クラス担当者としての役目を理解したような気がしました。受験という壁を越えようとする過程で見えてくる、その子の本音。実はずっとあったのに、埋もれていたり、自分で見えないようにしていたもの。

家庭環境に課題を抱える子どもたちのなかには、自分の思いを大人に聞いてもらう機会が不足しているケースも少なくありません。そんな生徒の本音を拾い上げて、背中を押してあげる存在になりたいと思うようになりました。

かえでさんはその後、懸命に勉強して本当に行きたかった高校に合格することができました。しかし、高校合格は一つの通過点でしかなく、彼女の人生はこれから先も続いていきます。

かえでさんには、「パティシエになりたい」という夢があります。日頃から「お菓子作りが好き」と口にしていましたが、彼女の家庭はきょうだいが多く親御さんも精一杯の状況で、彼女の夢にじっくりと寄り添うことは難しそうでもありました。

そこで、「子どもの居場所」で新たにスタートした「地域の活動に参加したい中高生と、活動に参加してもらいたい地域団体をつなぐ取り組み」に、彼女を誘いました。具体的には、地域の飲食店に協力いただきながら、かえでさんがデザートを企画・販売するというものです。

かえでさんは、同級生と2人で参加。結果、彼女たちは3ヶ月間、週に1回飲食店に通ってデザートのメニュー開発について相談し、お客さんに提供するところまでやり遂げました。こちらが、彼女たちの作ったいちごパフェです。

かえでさんたちが提供した「いちごのフレジェパフェ」

かえでさんたちに「これは自分たちのプロジェクトだ」と捉えてもらうため、活動期間中の飲食店との打ち合わせには生徒だけで参加してもらいました。しかし彼女たちに数年間関わってきたなかで、スケジュール管理やデザート企画というゼロからイチを生み出す過程で壁にぶつかることが想定されたため、「打ち合わせが終わったら居場所に顔を出してね」と伝え、会話の時間を持つようにしていました。

先日、かえでさんはこの活動を振り返って「自分の好きなことに対して、挑戦してみる事へのハードルが下がった」と話してくれました。私から見ても、自分の気持ちや考えを以前よりも積極的に話すようになったように思います。

彼女の抱える困難さに寄り添い、本音を拾い上げつつ挑戦をサポートできたのは、「子どもの居場所」で数年来積み上げてきた関係性があってこそです。私はそこに、「子どもの居場所」や私たちスタッフの存在意義があるのではないかと感じています。

デザートづくりの挑戦を通して感じたことは将来どんな形であれ、自分の道を選択する手がかりになると思います。誰も正解はわからない、正解なんてない、彼女自身が選択する未来につながっていればうれしいです。

今回のコラム担当:大杉燎(おおすぎ・りょう)/「子どもの居場所」学生スタッフ
自身も「子どもの居場所」が拠点を構える地域の出身で、中高生が非行に走りやすいことを肌で感じて育つ。「中高生にとってのロールモデルの少なさなど、地域に起因する課題があるのではないのか?」という疑問を抱いていた時に「子どもの居場所」に出会い、大学1年生の4月から学生スタッフとして活動を開始。現在大学3年生。「子どもの居場所」では、中3のクラス担当や高校生のキャリア支援を担当している。

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