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【かすみを食べて生きる 23 一般病棟⑲】ワレンベルグ症候群による嚥下障害のリハビリなどの記録

脳梗塞 発症21日目:一般病棟19日目
・食事:飲み込みができないため絶飲食。食事は鼻からの経管栄養。
・状態:歩行訓練中。日中、車いす自立。夜間、車いす看護師付き添いでトイレ可。嚥下訓練では首を左に向ければごく少量の水を飲み込める(失敗もあるが、成功確率は上がってきた)。

リハビリ病院への転院前日。3週間お世話になった急性期病院とも明日でお別れ。
荷物をまとめてみたら意外と多かった。

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洗濯へいこう

まさかの転院前日に、新型コロナ感染対策で使用禁止となっていた病棟内の給茶機とコインランドリーが解禁。
狭い場所で乾燥機も高い位置にあるから、くれぐれも転ばないようにと看護師さんに念を押されていざ洗濯へ。
大きな袋に洗濯物と洗剤、小銭入れを入れて、車いすで向かう。
その階の一番端にある洗濯室に行くにはいくつかの病室の前を通る。
同じ建物の同じ階にいながら、出会うことはなかった人たち。
寝たきりの患者さんや食事介助が必要な患者さんがいることを初めて知る。
そして洗濯室、車いすからよろよろと立ち上がり、私は久しぶりに洗濯機を回した。
洗濯機が回る水音。洗剤のにおい。
医療機器ではない生活音。
これも私がなくしていたもののひとつだった。

胃ろうという選択肢

言語聴覚士の谷元さん(仮)とのリハビリは今日が最後。
先日の経鼻チューブがない状態で飲み込みの訓練をした動画を、言語聴覚士の谷元さん(仮)に見せた。
すると谷元さん(仮)は私に、経鼻のチューブがのどにない状態で嚥下の訓練をするために、胃ろうにするという選択肢があることを話してくれた。
おなかに穴をあけ、そこから胃に直接栄養を栄養を入れる医療措置。
リハビリ病院に転院をして、経鼻のチューブがあることが訓練の邪魔をするようであれば、そのような提案があるかもしれない。
今は少しでも早く口から食べれるようになることが大事で、もし胃ろうにした場合も食べれるようになれば閉じることもできる。
この話を聞きながら私は、入院2日目に谷元さん(仮)が経鼻のチューブを入れることになるけど、それでリハビリをがんばれるよという話をしてくれたのを思い出していた。
あの時と同じく、谷元さん(仮)は今後起こりうる私が動揺しかねない提案について、事前に予防線を張ってくれているのだと思った。
最後の最後までありがとう谷元さん(仮)。
胃ろうの可能性がある事を、心にとめておく。
ありがとうございました!

浴槽に入る時のために

作業療法士の国島さん(仮)とのリハビリも今日が最後。
最終回は、ここでは試せなかったけど覚えておいてほしいという浴槽の出入りだった。
現状で私は頭を大きく動かす動作はめまいが出てしまう。
浴槽に座る時はゆっくりと腰を落としながら膝を曲げて、太ももとふくらはぎをつけ足の裏に重心を乗せる。そこからお尻を下げていく。
立つときもいきなりお尻を上げるのではなく、一度ふくらはぎを太ももに引き寄せて足の裏に重心を乗せてからゆっくり立ち上げる。
そうすると頭が大きく動かさず浴槽で立ったり座ったりができる。
ベッド上で動いて試してみる。最後まで実践的。
嚥下に関する事以外の困りごとのほとんどは国島さん(仮)に相談をして、具体的な対処法を教えてもらった。
そのよどみないおしゃべりにより国島さん(仮)の声は頭に残り、脳内国島さん(仮)として困った時に私を支えてくれた。
ありがとうございました!

歩く拡声器

少し前に向かいのベッドに入られたご婦人は、話をするのがお好きなようだった。
ベッドに来る看護師さんや先生に、自分の家族の話をする。
来る人たびに、同じ話を。
不思議なことに自分の話は一切しない。
一通り話し尽くしたのか、今度はベッドに来る先生や看護師さんにその人のことを聞き始めた。
出身地、出身校、現住所、家族構成…。なかなかの個人情報。
そして聞いた話を今度は次に来る人にすべて話す。
これまた来る人たびに、繰り返し話す。
そしてまた新しく情報収取をする人を捕まえる。
狭い病室内、この方のしゃべり声が響く。
内容は筒抜け。
こわい。この方には捕まらないようにしなければ。

そう思っていたのに、洗面所で子どもとビデオ通話をしていたところを見られ、話しかけられてしまった。
「お子さんがいるの?」
やむなく、しばし雑談にお付き合いする。
なるべく自分のことは話さないように気を付けているのに、はぐらかすと突っ込んでくる。手ごわい。
早々に切り上げて病室にもどり自分のベッドのカーテンに逃げ込む。
そして夕方の検温に来た看護師さんに、そのご婦人は私の話をし始めた。
さっき話した内容をほぼ全て。
そして最後に彼女はこう言った。
「まだ小さいお子さんがいるのに病気になってしまって、かわいそうに。代わってあげたいわ」
うわぁ…全身の身の毛がよだつ嫌悪感。
彼女にとって私の情報は、暇な入院生活を埋めるエンタメの一つでしかないのだろう。
私は目の前で自分の境遇がテレビで流れる情報かのように消費されるのを、ただ眺めることしかできなかった。
せめて私は人のことを「かわいそうに」という人間にはならないと、心に誓った。


ーー振り返って

歩く拡声器さん。明日転院だったので、完全に油断しました。
ほんとに怖かった。
でもあの方ご自身の話がほとんど語られないあたりに、あの方の中にある何か空洞のようなものを他人の情報で必死に埋めているようにも見えました。
おかげで転院後も、他の患者さんと関わることには注意深くなりました。
あの方の情報収集能力とアウトプット能力だけは見習いたいものです。

そして3週間近くお世話になった4人のリハビリセラピストさんたちともお別れです。
なかなか厳しい状況の私が腐らず急性期病院を過ごせたのは、リハビリチームの皆さんの支えが大きかったと思います。
ありがとうございました。

リハビリで取り戻したもの、新しく知った事、そしてウクレレを持って、明日はリハビリ病院へ転院です。











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