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カフカ没後100年、何から読む?

今年は、カフカの没後100年です。6月3日が命日です。
さまざまなイベントが開催されて、本もたくさん刊行されています!
「この機会にちょっと読んでみようかな」という方も、きっとおられると思います。
そこで、たくさんあるカフカの本の中から、まずどれを読むのがオススメか、シチュエーション別にまとめてみました。
(私の本が多いですが、そもそも"ぜひこれを読んでほしい"という本を出しているわけで、そこはご勘弁ください)




まず手軽に読みやすい本からという人へ

いちばんとっつきやすいのは、名言集だと思います。
なんといっても、ひとつずつが短いですから読みやすいですし、カフカがどういうことをいう人なのかもわかります。

カフカの名言と、その解説が、見開きになっています。
たとえば、こんな名言です。

 将来にむかって歩くことは、ぼくにはできません。
 将来にむかってつまずくこと、これはできます。
 いちばんうまくできるのは、倒れたままでいることです。

恋人への手紙

サッカーとラクビーを比べると、それぞれの特徴がよくわかるように、
カフカを知るには、よく似た境遇の人生でありながら、対極的なキャラクターだったゲーテと比べると、よくわかります。
たとえば、こんなふうに。

ゲーテ 希望は、わたしたちが生きるのを助けてくれます。

カフカ  朝の希望は、午後には埋葬されています。

これは名言集ではなく、断片集ですが、やはりひとつひとつがとても短いので、とりあえず読んでみるには、適していると思います。
たとえば、こんな断片が収録されています。

家庭生活、友人関係、結婚、仕事、文学など、
あらゆることに、わたしは失敗する。
いや、失敗することすらできない。

八つ折り判ノートH


まず代表作を読みたい人へ

とくかく、まず代表作を読んでみたい、という方もおられるでしょう。
カフカのどの作品が代表作かは、もちろん意見の分かれるところではありますが、やっぱりこれでしょう!
「ある朝、目がさめたら、ベッドのなかで虫になっていた」で始まる、あの物語です。
薄い文庫なので、その点でも読みやすいです。

日本で最初の『変身』の翻訳です。
古い訳ということになりますが、今でもいいです!
やっぱり、最初に紹介する人は情熱がちがいますから、その熱が伝わってきます。
私もこの文庫でカフカと出会いました。
(夏休みの読書感想文を書くのが面倒で、書店に行って、全文庫の中でいちばん薄いものをさがしたら、それが新潮文庫の『変身』でした)

こちらは最新の翻訳です。
訳者は、京都大学の川島隆先生。現代のカフカ研究の第一人者です。
解説も充実しています。

私も、WEBみすずで、『変身』を新訳しながら、超スローリーディングしていく(ものすごくゆっくり読む)という連載をやっています。
よかったら、ご覧ください。

カフカの人となりを知りたい人へ

「カフカってどんな人だったの?」「どんな人生を送ったの?」ということが知りたい人もおられると思います。

カフカがどんな人だったのか、どんな人生を送ったのかを知るには、まずこれがいちばんわかりやすいです。
カフカの日記や手紙の言葉がたくさん出てきます。
たとえば、人生についての、こんな言葉も。

 生きることは、たえずわき道にそれていくことだ。
 本当はどこに向かうはずだったのか、
 振り返ってみることさえ許されない。

これは、カフカの伝記本です。
カフカ自身の日記や手紙の言葉を引用しながら、その人生を追っています。

カフカの出世作を読みたい人へ

生前はほとんど無名だったカフカが、
没後に有名になったのは、
『審判』という長編小説が、まるでナチスや全体主義を予言したかのようだったことが大きいでしょう。
世界的に最も読まれている作品かもしれません。

この文庫に、『審判』の全訳が入っていることに、気づいていない人が多いのは、とってももったいないことです。
『訴訟』というタイトルになっています。
批判版全集という、カフカの新しい全集からの翻訳で、最新の研究による注もついています。
「注なんか、うるさいから、いらないよ」という人もいるでしょうが、これがなかなか面白いのです。
主人公はKで、この小説は「Kは……」というふうに書いてあるのですが、最後のほう、盛りあがったカフカは「ぼくは……」と書いたりしていたことが、注でわかったりします。
翻訳は、先にもご紹介した、川島隆先生です。

短編から読みたいという人へ

カフカの長編小説はすべて未完で、完成している作品は、中編の『変身』と短編小説しかありません。

カフカは自作への評価が厳しく、すべて焼くように遺言したほどなのですが、それでも大切に思っていた作品はあります。
この短編集は、そういう、カフカ自身が評価していた作品が集めてあります。どういうふうに評価していたかも、解説に書いてあります。
たとえば、こんなカフカの言葉が紹介してあります。

この物語は
まるで本物の誕生のように
あぶらや粘液でおおわれて
ぼくのなかから生れてきた

1913年2月11日の日記

 

長いものがっつり読んでみたい人へ

長編小説『城』は、文庫本で630ページもある、大長編です。
カフカの最後の長編小説で、到達点とも言えます。

この翻訳がオススメです。

こちらは二段組みで570ページ。
カフカは日記や手紙が、ものすごく面白いんです。
それは、人となりがわかるからとか、そういうことだけでなく、日記や手紙もまた作品のように面白いんです。
さわるものがみな黄金に変わるミダス王のように、カフカは書くものすべてが作品になってしまう人でした。
日記の復刊は、32年ぶりです!
この復刊は、今年のひとつの事件と言えるでしょう。
私は解説を書かせてもらいました。
たちまち売り切れて品切れになってしまいましたが、秋頃に3刷が出るそうです。


個人的なオススメは

カフカが書いたものはすべて面白いのですが、
個人的にとくにオススメなのは、日記手紙断片です。
ただ、これらはいずれも、全集でなければ読めず、その全集も入手困難です。
そこで、こういう文庫を出しました。

カフカの日記や手紙を文庫で読めるのは、この本だけです。

断片だけを集めてあるのは、全集は別にして、この本だけです。
今年は、没後100年ということで、念願だったこの本を出すことができました!


その他のオススメ

カフカは絵も描いていました。
絵の先生のところに習いに行ったせいで、描けなくなったそうですが。
カフカの絵は、当時は評価されませんでしたが、今見ると、人気イラストレーターになれそうです。
カフカの死後、ずっと金庫にしまわれたままになっていた絵が、裁判に決着がついて、ようやく公開され、それが書籍化されたものの、邦訳です。

カフカは役所に勤めていたのですが、そのときに書いた公文書の翻訳が、この本には入っています。カフカの書いた公文書が読めるのは、この本だけです。
「仕事で書いた文書を読んで、面白いの?」と思うかもしれませんが、これがなかなか面白いです。カフカらしいからです。

新しく出た、カフカの特集号です。
私も参加させていただいています。


イベントに参加してみたい人へ

早稲田大学 国際文学館(村上春樹ライブラリー)では、こんなイベントが!

そして、チェコセンター東京、ゲーテ・インスティトゥート東京、オーストリア文化フォーラム、ポーランド広報文化センターによる共同プロジェクト。

また、いろんな書店さんで、カフカ没後100年のフェアが開催されています!
ぜひお近くの書店をのぞいてみてください。
たとえば、表参道の青山ブックセンター本店さん。


最後に

カフカはこんな言葉を残しています。

 ある人物に対する、後世の人たちの判断が、同時代の人たちの判断よりも正しいのは、その人物がもう死んでいるからである。
 人は、死んだあとにはじめて、ひとりきりになったときにはじめて、その人らしく開花する。

『カフカ断片集』新潮文庫

とすると、没後100年の今こそ、カフカは「その人らしく開花する」するのかもしれません。
ぜひこの機会に、カフカの本を何か読んでみていただけましたら幸いです。


追記01・カフカのラジオ番組のお知らせ

6月23日(日)の深夜28時(月曜の午前4時)放送の
NHK「ラジオ深夜便」の『絶望名言』のコーナーで、
カフカの名言をご紹介します。
約40分の番組です。

カフカをご紹介するのは2回目で、
1回目は、こちらの本に収録されています。


追記02・カフカの読書会のお知らせ

6月20日(木)に「まっくら図書館の読書会」で、

の読書会をやります。
没後100年の節目に、カフカの究極の作品である"断片"について、語り合いたいと思います!
新規参加大歓迎です。




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