Kasane Sodenashi

袖無かさねです。 心に浮かんだ景色からお話を書いています。気に入っていただけたお話があったら、いいね、していただけたら嬉しいです。

Kasane Sodenashi

袖無かさねです。 心に浮かんだ景色からお話を書いています。気に入っていただけたお話があったら、いいね、していただけたら嬉しいです。

    最近の記事

    風の通り道

    袖無かさね 私たちはいつも、あたたかくてやわらかな空気の中にいました。風に揺れる木の枝で、太陽の光に包まれて。 その日、ちょうちょが遊びに来ました。私たちは、遠くの町の話を聞かせて、とせがみました。 「石畳の道に、レンガの家が並んでいるのよ。」 石とレンガ? 冷たくて固いかたまり? かたまりの中に、風の通り道はあるのかしら。石とレンガしかなかったら、木はどこに根をはれば良いのかしら。 ああ、町って、なんて冷たい世界なのだろう。 私たちは、あたたかい空気の中で顔を見

      • ヤマネコの歌

        袖無かさね ねえ、ママはそういうこと、ない? 誰かが話してたり歌ってたりする声を聞いて、これ、私の声だ、って思うの。誰かの話し声とか、テレビの歌とか。 そんなこと、ない? 私はね、時々あるの。あ、そういえば、前に石黒先生に言われたことあったな。 「目が大きいなぁ。猫みたいだ。」 って。私は猫より犬派だから、嫌でもないけどべつに嬉しくもなくて、すっかり忘れてた。 あのね、今日、学校の帰り道、公園の入り口で猫に会ったの。その猫が私の目を見て、 「にゃぁ。」 って鳴いて、

        • とける勇気

          袖無かさね 寒いさむい、雪の国がありました。雪の国のお城には、お姫様が住んでいました。 お姫様には、大好きな人がいたんです。それは、子供の頃、いつも一緒に遊んでいた隣の国の王子様。でも、ある時から、なにかが忙しくなって、なぜだか会うことがなくなってしまったんです。 お姫様はしょんぼり。あの方と一緒の時間、私はいつも幸せだった。でも、ずっと会えないでいるから、あの幸せな気持ちは、もう、雪で凍ってしまったの。 そうしたら、ある日、大好きな王子様が、突然お姫様のお城にやって

          • 飴玉

            袖無かさね 雨上がりの道に、飴玉が落ちていました。 かわいいピンクの、飴玉。 小さな手でお口に入れようとして、うっかり落としてしまったのかしら。 こんなに可愛いピンクだから、大事に取っておいた最後のひとつだったかもしれないのに。 一緒に歩いていたお母さんは、気がついてくれたかしら。 ピンクってこんなに悲しい色だったかしら。 ミーツケタ! 小さな声。 キョウノ ゴハン オオキイゾ! ピカピカ ピンク アーマイゾ! 張り切る、はりきる、アリの行列。 飴玉が落

            どっくん、とっくん。

            袖無かさね みんな、ボクより大きい。みんなの顔はずっと上にあるし、歩くのも早い。ごはんのお皿はボクのだけ小さいし、みんなの話は分からないことがまだ多い。 その日、ボクの家にいろんな人が来た。そしたら誰かが言ったんだ。 「ピザ、食べたいね。」 「ピザとろうか。」 ピザ、って言うたびにみんながワクワクした顔をした。きっと、ピザって楽しいに違いない。 ママが、丸い模様がたくさんついた紙を取り出した。みんな、その紙をのぞき込んで、丸を押しながら楽しそうに話してる。それがピザ?ボ

            袖無かさね 月は、恋をしていました。 月が初めてその青年に会ったのは、雪が溶け始めた頃でした。真っ白に固く凍っていた景色が柔らかくなって、その丘を登る道が見えてきて、丘のてっぺんの一本杉が冬の間かぶっていた白い帽子をどさりと地面に落として、その音に驚いたウサギが穴から飛び出して、そうしたら、笑い声がしたのです。 「だれかいるの?」 月が一本杉の丘をのぞきこんだら、その青年がいたのでした。 その日から毎日、青年は、月が空に浮かぶ時間になると、丘を登り、丘のてっぺんの一

            うれしいは、友達

            袖無かさね その子は太陽です。太陽には友達がいました。月です。 太陽は月のことを誰よりも特別な友達だと思っていました。だって、太陽はいつも、月と一緒に空を回っていましたから。太陽は月のことが大好きだったんです。 地面が言いました。 「太陽くん、いつも明るくしてくれてありがとう。」 風も言いました。 「太陽くんの光があるから、迷子にならないでいられるわ。」 太陽は、そのたびにみんなに言いました。 「いえいえ、月くんも一緒だからできることなんです。」 「さすが太陽くん

            旅の心得

            袖無かさね その小さなボートは、生まれたばかりでした。だから、まだ、海を旅したことがないんです。港のはじっこにつながれて、海に出る順番が来るのを待っていました。ワクワクしながら、待っていました。 波が、小さなボートに声をかけました。 「やぁ、チャプン、やぁ。」 ボートは喜んで答えました。 「やぁ!キィ、やぁ!」 「なにを、チャプン、してるんだい。」 「海にでる順番を、キィ、待ってるの。」 「そうか、チャプン、海はいい、旅はいい。」 「海の話を、キィ、聞かせておくれよ。

            どんどん

              このお話、完結していますが   前編『ちゃんとひまわり』の続編でも   あります。   前編へはページ最後のリンクからどうぞ! 袖無かさね ボクは小さな虫です。飛び回るのがとっても得意です。でも、今日はちょっと疲れたので、このお庭の木でひと休みすることにします。 ボクは、このお家に住んでいる女の子を知っています。まきちゃん、です。ほら、今ちょうどお庭に出てきました。 まきちゃん、短い棒を持っています。あと、小さなコップ。短い棒を小さなコップにトントンと入れると、棒

            好きじゃなきゃいけないと思ってた

            袖無かさね 大人は、子供に作文を書かせるのが好きだ。遠足に行きました、はい作文。母の日です、はい作文、ってね。今日も、先生があの紙の束を配り始めた。 「一人2枚でーす。」 前に座ってるみんなが順番に振り向いて、原稿用紙をバサバサと後ろの席に流す。 「土曜日の授業参観で、全員に作文を発表してもらいます。テーマは『家族』。家族全員のことでも、兄弟のことでも。」 「先生、飼ってる犬でもいいですか?」 「金魚でもいいですかー?」 教室のみんながどっと笑う。また作文か。ま

            スパイス!

            袖無かさね もう、うんざり。いい大人が毎日大きな声で喧嘩して、目の前の仕事は全然進まない。入社一年目の新人の分際でこう言っちゃ申し訳ないが、一体あの人たちは何をしたいのか。 「ただいま。」 我ながら不機嫌全開な声やな。 「おかえりーん。」 そしてかーさん、今日も平和やな。 「お疲れのご様子ですな、姫。」 めんどくさ。でもいい香り。かーさんがスパイスの小瓶をズラリと並べて、なにやらジュージューと炒めている。 「これはですね。」 聞いてないけど。 「ルーを使わ

            手のひらに、一粒。

            袖無かさね 小さな町に赤ちゃんが産まれました。一粒の真珠を手のひらに握りしめて。 お医者さんは首をかしげました。なぜ、赤ちゃんの手のひらに真珠があったのか、誰にも分かりませんでした。 赤ちゃんの周りには、赤ちゃんを愛する人がたくさんいました。お父さんと、お母さんと、赤ちゃんのお姉ちゃんになった女の子。そして町のみんな。 その中の誰かが、世界中に写真を配りました。この素敵な赤ちゃんはとても特別で、真珠を握りしめて産まれてきたのよ、と。つい、うっかり。 赤ちゃんの周りは

            片想い

            袖無かさね 大切に想っていただけたら、嬉しいです。ワタクシのことを。 例えば無理やり詰め込まないでいただきたいと、思うのです。ワタクシにはワタクシの好きな角度があって、その角度を無視して押し込まれるのは好みません。 真っ直ぐであることに価値があるとのこと、きっとその結論に至るご事情あってのお考えかと思います。ゆらっと曲がっているのも風情があって良いと、ワタクシは思うのですけれど。 おっと、投げないでください。落ちた時に傷つき、痛むのです。その…少し先に何が起きるかを想

            一等賞

            袖無かさね 「どーざいもどーぜんだ!」 家に帰ったとたんに戦いを挑まれた。 「分かった、ちょっと待て、手を洗うから。」 「どーざいもどーぜんだ!」 息子が後ろでなにやらポーズを決めたまま動かない。オレは怖い顔で振り向いてみせた。ガォー! 「ちがう。」 5歳の戦士は首を振ると、またポーズを決めた。 「どーざいもどーぜんだ!」 なんだって? 「今日、保育園から帰ってずっとこれ言ってるの。」 奥さんが可愛く首をかしげる。 「寝る時間よ。パパにおやすみなさい、

            ぎゅっと

            袖無かさね お日様が山の向こうに落ちた頃、カラスがやってきた。カラスはコソコソと、かあさんに耳打ちをした。そしてすぐに飛んでいった。へんなやつ。 かあさんがボクの目をじっと見つめるから、ボクはふざけて目をキョロキョロしてみせた。いつもだったらかあさんはそれを見て笑うはずだった。でも、今夜のかあさんは笑わなかった。 「じいじに渡してほしいものがあるの。1人で行ける?」 じいじの竹やぶはすぐそこだ。平気さ、行けるよ。 「本当だったらかあさんが行くんだけれど。今、足が痛く

            瑠璃色

            袖無かさね その頃、私の瞳は瑠璃色だった。でも、私はそれに気付いていなかった。 「ねえ、知ってる?あなたの瞳の色はみんなと違うのよ。」 そんなこと、誰も私に言わなかったから。 私には、周りの子供たちが冷たく笑って振り向く理由が分からなかった。実際、気にもしていなかった。彼女たちはああいう笑い方をするのが素敵だと思っているのかもしれない。そんなことよりも、私は、忘れ去られた花壇のかわいた土や、アスファルトに散らばった茶色い枯葉が気になった。 だから、私の瞳は瑠璃色のま