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違うんです

袖無かさね


私はどうしてもマスクをすることができない。理由は言えない。簡単に人に話せる理由ではないのだ。

どこからともなく正体不明の感染症が流行って、マスクをしなければ外出できない世の中になった。マスクは飛沫防止が目的。誰とも話さなければマスクをしていてもしていなくても変わらないはずだけれど、街の人の視線は冷たい。

いつも通う地元の商店街。私は顔なじみだから、その日の美味しいお魚を教えてもらったり、きゅうり一本サービスしてもらったり、前は楽しくお買い物していた。でも今は、魚屋さんとも八百屋さんとも一言も言葉を交わさない。黙って欲しいものを指差して、黙って袋に入れてくれるから、黙ってお金を払う。お店の人はみんな、マスクをしていない私の顔をジロジロと見て、目をそらす。悲しい。

気分が凹むと、子供達のはしゃいだ声が聞きたくなって、小学生の通学路とか、保育園のお散歩コースを歩く。でも、付き添いの大人達はマスクをしていない私の顔をジロジロと見て、子供達を遠ざけようとする。寂しい。


違うんです。これ、社会のルールに従いたくないとか、感染症なんてウソだと思ってるとか、そういう反抗的な主張じゃないんです。

地球の空気がだいぶ汚れてきたから、浄化しないとねってことになって、宇宙から送り込まれてるんです。私みたいなアンドロイドが。私は口から汚れた空気を取り込んで、鼻から清浄した空気を吐き出す空気清浄担当なんで、だから、マスクしてしまったら存在価値がなくなるんです。

って、そんなこと言っても、頭がおかしいと思われて逃げられるか、異星人だと攻撃されるか……。


だから、私は今日も地球人にらまれる。地球の空気を守るため。



おしまい

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