片想い
袖無かさね
大切に想っていただけたら、嬉しいです。ワタクシのことを。
例えば無理やり詰め込まないでいただきたいと、思うのです。ワタクシにはワタクシの好きな角度があって、その角度を無視して押し込まれるのは好みません。
真っ直ぐであることに価値があるとのこと、きっとその結論に至るご事情あってのお考えかと思います。ゆらっと曲がっているのも風情があって良いと、ワタクシは思うのですけれど。
おっと、投げないでください。落ちた時に傷つき、痛むのです。その…少し先に何が起きるかを想像していただけたら。
ワタクシのことを判断する人間がいるのは、知っています。好きとか。嫌いとか。美味しいとか。マズイとか。
さまざまな条件で人間が受ける印象が変わることも知っています。塩もみとか。ぬか床とか。フレッシュにカットしたり。カットしたはいいけれど、気づいたらフレッシュではなくなっていたり。ね。
そのような皆さんのご事情は、もう、手放しで受け入れるしかないわけなのですが。
ワタクシは、胸いっぱい美味しい水を吸い込んで、両葉を大きく広げて美しい光を浴びて、風に舞って背伸びをして、愛おしく手間をかけていただき、本日ここに参上いたしました。
ピン、と背筋を伸ばして、いまここに。
気に入っていただければ嬉しいけれど、気に入っていただけなくてもそれはそれ。キュウリなりに、食べてくださるあなたを、または食べないことを選択されたあなたを、大切に想っているのです。
片想いなことは分かっております。それでも、この想いだけは、感じていただけたら。
ワタクシはささやかなキュウリですが、全ての生きとし生けるものの代表として、いまここに宣言いたします。
本日ここに参上いたしましたその理由は、愛、あるが故。
おしまい
photo by ayo_salad_a
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