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何が悪い

袖無 かさね


「よ、久しぶり。アイツ、引っ越し落ち着いたらしいから押しかけようぜ。今度の土曜日とかどう?」

「アイツ」とは、背が高くて笑顔が爽やかな同期のアイツのことだ。コミュ力も高くて出世が早かった。背が低いのがコンプレックスで初対面が苦手なオレとは正反対のタイプ。その彼が最近家を買ったらしい。

どうせ暇だしな。

メールに書いてあった住所に辿り着いたら、そこは見上げるとエビぞるようなタワマンだった。出世するとこんな家が買えるのか。オレは自分の狭い賃貸アパートを思い出した。同期だってのに、住んでいる世界まで正反対だ。

マンション入り口のインターフォンで『2205』を押す。遅れちまった。
「来たぞーい」
こっちを見ている小さなカメラに向かって、オレは酒やらつまみやらが入ったスーパーの袋を顔まで持ち上げておどけてみせた。

インターフォンからは何も返事がない。スーーっと開いたマンションの玄関から出てきた住人が、けげんな顔でチラリとオレを見る。気まずい。なんでいつもこうなるんだろうな。うつむいたまま住人とすれ違い、マンションのロビーに入ると、アートな模様の壁に囲まれた。

ちょうど扉が開いていたエレベータに乗って『22』のボタンを探す……が、見つからない。なんだこれ、ボタンの並びがめちゃくちゃだ。

スーーっとエレベータの扉が閉まる。

ゴガン。

へんな振動が響いて、ふわっと一瞬身体が浮いた。ウィィィィン。え、まだボタン押してないけど?ってか、このエレベータ、下に降りてね?

あり得ない。オレは持っていたスーパーの袋を放り投げて、かたっぱしからボタンを叩いた。

「止まれとまれ!!」

ガゴン。

ぐぅん、と今度は身体が下に押される感覚があって、またウィィィィン、と機械の音が響いた。

ポーーン。はい、ご所望の階に着きました、って音がすると扉が開いて、さっき見た、ロビーのアートな模様の壁が見えた。慌ててエレベータを下りる。振り向いたオレの目の前で、スーーっと扉が閉まって、酒やらつまみやらがちらばったエレベータの床がゆっくり見えなくなった。

マンションを出て、エビぞる。
タワマンが黙って見下ろしてくる。

なんだ、拒否りやがって。
正反対からの客人で、悪かったな。


おしまい

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