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映画のような逆転劇の連続で、回答不在の「家族とは何か」に少しだけ近づく姿勢が好き(「コンフィデンスマンJP」第7話レビュー)

まるで上質な映画を一本見終えた後のような充実感、満足感、そして結末の爽快感。これ本当にドラマ尺でやったの?と二度目を見終えた今も信じられない。「ALWAYS 三丁目の夕日」の脚本家として、どんな「家族編」を描くのかと期待も高まってはいたが、ここまで纏めてくるとは思わなかった。45分のコメディドラマ、しかもほとんど蓄積なしの一話完結なのに泣きそうになってる自分が若干悔しい。

別の回や他のドラマとの比較はしていないが、おそらくプロット数がめちゃくちゃ多い。展開数の多さによって45分とは思えない話の濃密さを作りつつ、過剰な細切れ感を感じさせないのが凄い。ドラマの作り手は今後一切「尺不足ですみません」とか言うべからず。新規の登場人物がほとんどな中、一通りターゲット像が定まったところで開始される逆転劇の連続。主に引っ繰り返る瞬間を並べてみるとこんな感じ。

❶兄妹もニセモノ、偽物vs偽物対決始まる❷結婚式にて偽物の暴露と思いきや、要造の怒り「家族なら最後まで家族らしく」❸本物の家族のような平和タイム❹兄妹ご本人登場、遺産の嘘❻耄碌老人によるボクちゃんへの遺産虚言❼金庫に証券発見、虚言ではないと一転❽兄妹ご本人も偽物❾最後の女、聡子

単純計算によれば5分に1回、ストーリーを引っ繰り返す要素が含まれていることになる。こんなに引っ繰り返してたらお好み焼きもどっちが表か裏か分かんない。でも分からなくなってきたことで、生まれる意味もあるのかも。ニセモノのニセモノはホンモノ、ではないかもしれないが、花火を偽物家族で見上げる頃にはちょっと本物に近づいてきたような、そんな気がしてくるから不思議だ。本当に不思議で、本当にぐっときてしまう。答えのない「家族とは何か」に答えを出さずに少しだけ近づく姿勢が好き。

そして一話完結として抜かりない独立作品となっている一方で、レギュラー陣のキャラクター軸が補強されていくのも見どころ。前回の「遺跡編」に引き続き、「入り込みがち」なダー子(長澤まさみ)がウエディングドレスを着た途端に完全に花嫁気分を味わい出しているのも、ここまで継続で見ている人にはよく伝わってくる。「誓います」で涙ぐむダー子、ドン引きするボクちゃん(東出昌大)のシーンは勿論だが、それに続く理花としての独白「昔から私はよその子扱い」「過去を捨てて、前へ進むためよ」はもはや長澤まさみによるダー子による理花の演技、という本来の三層構造から、長澤まさみによる理花の演技、の通常二層構造に見えてくるくらいに、ダー子と理花とが一体化しているように感じる。これも「入り込みすぎた結果」としてあまりにも真に迫る演技になってしまったダー子状態と知っていれば納得がいくが、初見の人からすると「ただの長澤まさみガチ演技」に見えなくもない。第一話では設定上できなくても、蓄積のあるこのタイミングなら本気に限りなく近い表現ができるというのも、かなり面白い要素と感じた瞬間だった。

「ボクちゃんのボクちゃんたるボクちゃんじゃない」もすっかりここに来て納得できるようになる。序盤のリチャード(小日向文世)「(ダー子を)見捨てればいいさ」の一言がどう作用するか私たちは大変よく知っているし、別に驚きもしないから一秒後に種明かし。この辺り、見ている人が持っている前提条件がきちんと把握された上での展開で気持ちがいい。不要に種明かしを引き伸ばした結果、「別に全然意外じゃないんだけどw」なんて気持ちにさせてこないテンポに落とし込まれているのが秀逸。

最後に、今回のゲストに触れておきたい。佐津川愛美、脇役としての味の出し方が絶妙。「最後から二番目の恋」ではおじさんに恋しちゃう若い女の子でアニメ声がコンプレックス、というまあまあ癖のある役だったが、軽いトーンの中で見せる心の動きがきちんと共感を生むのがテクニカルと思っていた。今回はあばずれ女ぽい役柄であったが、野蛮で粗野な喋り方と雰囲気の中に、たっぷりの茶目っ気が含まれているのがまさに「要造の娘」的で非常に良かった。無茶苦茶な生き様でありながらも、何となく憎めない愛らしさを残す、という明確な血縁を感じさせる二人でありながらも結果的には会うこともなく別れていく、こちらの帰結も考えさせられるものがある。ともかく脇役ながらも確かな爪痕を残す女優として引き続き注目したい。

そして前田敦子。ダー子の「子猫ちゃん」として召喚され弥栄役を務めるという二重役柄だが、地味に良かった。「民衆の敵」でも思ったが、軽薄な役をやらせると前田敦子めっちゃ良い。今回も最後の種明かしで「あっ、まだ二回目です」が超普通で良かった。特に何も考えずに子猫ちゃんとしてやってきた、いわゆるエキストラ感が完璧。良さの言語化が大変難しいのだが、脇役需要はなかなかありそうだと今回改めて思った。

あとボクちゃん、君の目の前にいる女性はガッキーなんかよりもはるかに魅力的だと!私は思うぞ!


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