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『サンショウウオの四十九日』を読む

 話題になってたので読む。最初は幻想小説なのかと思ったが、いや、広義ではそうなるのかもしれないが、シビアな話だった。出生の際の、とばっちりを食ったような早逝の伯父と、底抜けにのんきな父の対比とか、命の残酷さをたんたんと描きつつ、希望の落としどころを求めて逍遥するという物語だった。ちょっと前、話題になった砂川文次の「ブラックボックス」にも通じるニヒリズムというか、硬骨な文学だなと思った。「ハッチバック」はどうだろう。お葬式のシーンは、昔読んだ玄侑宗久の「中陰の花」を思い出した。現世の生きづらさと戦う流れ、系譜の最翼端か。

 思惟の、海中を縫う海流のような変移を丹念に描写していく方法は技巧的で、その分物語としての起伏は抑えられ、全体的に静的な印象が残った。意識の生起とか、表に出て来づらい事象を異色の双子、その次に生まれてきた双子、という遭遇率の低い、しかし奇跡とまでは呼べないのではないかというラインから書き起こしていくという「想像力の仕事」がすごかった。

 命の定義みたいなことを考えると、いつもわけがわからなくなる。それを、双子(結合双生児)の心理描写の二重構造で解き明かそうとした。この小説はそんな挑戦だったと、読後おもった。

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