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半世紀前の元女子大生に村上春樹作品を、まとめて贈る冒険

私は20歳になるまで、村上春樹を食わず嫌いしていました。『ノルウェイの森』をチャラいベストセラーと誤解していたからです。ある日、年下の家族が高校の図書室で借りて面白かったと、宮部みゆきとセットで勧めてくれたことをきっかけに、読むようになりました。最初の宮部みゆき作品は『魔術はささやく』です。Boost Your Time(挨拶)

だから、読まない方の気持ちは察するし、読まねばならないとも思いません。けど、文壇や評論と距離を取り、それまでの作家のイメージとは逆で、走って体を鍛え、夜は眠り、朝型で執筆するスタイルを続けて結果を出したこと。また、高校時代から洋書のペーパーバックで読み込んだ、海外作品と、日本の小説を受け継いで、ボーダレスな作品群を新しい文体で描いたことは、グローバリズムの現代の流れから見ると、先見の明がありました。

1949年1月12日生まれ、74歳の価値観では無いと思います。彼が考え抜いて、適切な推論を重ねて鍛えた価値観は、世代が下の私より、現代と適切に接続してるでしょう。

2009年のエルサレム賞受賞スピーチを引用します。

I have only one thing I hope to convey to you today. We are all human beings, individuals transcending nationality and race and religion, fragile eggs faced with a solid wall called The System. To all appearances, we have no hope of winning. The wall is too high, too strong - and too cold. If we have any hope of victory at all, it will have to come from our believing in the utter uniqueness and irreplaceability of our own and others' souls and from the warmth we gain by joining souls together.

私には今日、あなたに伝えたいことが1つだけあります。私たちは皆、国籍、人種、宗教を超えた個人であり、システムと呼ばれる堅固な壁に直面した脆弱な卵です。一見すると、私たちは勝つ希望がありません。壁は高すぎて、強すぎて、そして冷たすぎます。私たちが何らかの勝利の希望を持っているとすれば、それは私たち自身の魂と他人の魂の絶対的な独自性と置き換えの不可能性を信じること、そして魂を結びつけることによって得られる暖かさから来なければなりません。(翻訳 : Bard)

Always on the Side of the Egg - Israeli Culture - Haaretz.com

個人とシステムは、村上春樹が描いてきた題材ですよね。

私にとって村上春樹作品群は、巨大で複雑なメタファーです。メタファー自体が比喩表現を多く用いて語られている点がポイントですね。また、世界観が不思議で、日常と非日常の混ざり具合に、私はファンタジーを感じます。そして、喪失と再生、困難と成長が描かれるので、希望を受け取ることも出来ます。
例えば、大江健三郎なら、独特の濃密な文体は、難解にすることを意図したのではなく、正確に表現するとあの文体なのだと思います。また、副次的に、読者の読書スピードを落とさせ、考えさせる効果もあると観察しています。
村上春樹がメタファーにせざるを得ないのは、日本語の表現の最前線で、思索の深さや彼に見えていることを、理解可能な物語に落とし込むために、必要なのでしょう。
そして、村上春樹作品には、音楽が欠かせませんね。

そんな理由で、本は腐るものでも無いから、うちの鈴木薫さんに、私的村上春樹詰め合わせギフトを、電子書籍で送りつけました。この記事は、その際のメモを再構成しています。

  1. 小説は好きだけど、村上春樹はどこから読んだらいいの?

  2. 村上春樹は挫折したけど、何が読みやすい?

というニーズに、お応え出来たら、この記事の目標を達成出来ます。


⓪小説は最近読まない

☝️読み専アカウントです。エッセイなどを好むし、図書館で様々なジャンルから興味の持てる本を探す生態です。コロナ禍は図書館に行きにくいのが、辛かったようです。また、この数ヶ月は、どこかの鬼軍曹がChatGPT・BingAI・Bardの使い方を教えるものですから、情報リテラシーの文明開花で、てんやわんやです。
最近は、困るとBingAIに質問して自己解決しています。言語生成AIは日本語などの自然言語を、自然言語処理で理解出来るから、デジタルデバイドがある方こそ、BingAIを勧めます。

とはいえ、エリフ・シャファクは、頑張って読んでますね。「犬養さん(犬養道子)に通じる、感性の方だし、現代の世界的な作家で、知性とハートのバランスが素晴らしくて尊敬できる」と説明しておきました。

エリフ・シャファク : Twitter / Instagram

犬養道子作品はたくさんありますが、例えば上記を念頭に置きました。『お嬢さん放浪記』は、敗戦後すぐに留学したことは歴史的価値が出てきたでしょうし、エッセイも上手いので、Kindleのサンプルを試されることを勧めます。現状、Kindle化された犬養道子作品は、残念ながらこれだけです。

鈴木薫さんの話に戻ると、noteの使い方を練習中で、上手い書き手がいくらでもいることに驚き、楽しんで読んでいます。「スキ」を押し忘れる可能性があることは、代わってお詫びします。

Micsさんの上記や、

山羊的木村さんの上記を、「一気に読んだ。お台所せねば」と、名残惜しそうにiPad閉じていました。70代であっても、感性の柔軟さは保っていると観察しています。例えばInstagramなら、岡田環さんのお写真は本当に凄いのだけど、とくに解説しなくても、理解して喜んで鑑賞しています。

でも、村上春樹は、文体がそもそも合わないようです。私も大江健三郎は尊敬するけど、私小説的な題材と濃厚な文体が受け付けないです。逆に三島由紀夫は価値観はとても異なるけど、日本語は美しいと思います。(三島由紀夫の文体なら読めました)

無理に勧めはしないけど、私的村上春樹詰め合わせギフトはおいくら万円するので、無理のない範囲で挑戦をして欲しい気持ちは有ります。村上春樹作品を理解すると、前提知識が一気に更新されるので、アクセス出来る作家や事柄が増えるので。

以下、鈴木薫さんに「最小限」かつ、電子書籍縛りで勧めました。村上春樹は、短編や中編も書きますが、主戦場は長編ですよね。初期は飛ばして、『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』以降を辿れるよう、工夫しています。

①風の歌を聴け

デビュー作。極論だから支持はしませんが「村上春樹はこれだけ読めばいい」と高く評価する方の言いたいことも、察します。初期に繰り返されるモチーフだし、『ノルウェイの森』にも繋がりますよね。まずは、入り口。

②アフターダーク

2冊目にこれを選んだのは、『風の歌を聴け』から25年経ち、『海辺のカフカ』を書いた後の時期だから、四半世紀かけて、彼の「カメラ」がどう洗練されたのか、把握しやすいから。

③-1 世界の終わりとハードボイルドワンダーランド

私は28歳で、過労でICUに入院した時に、個室に移ってから読み直しました。循環器内科の病棟は静かで、思い出深い再読になりました。
この作品で、村上春樹文学の長編の構造の基礎は出来ましたよね。メタファーやファンタジーの要素で、分からないことは飛ばして読んで大丈夫です。それは詩のようなものだから。

③-2 アンダーグラウンド

ここまで読んで、疲れたらこの作品をどうぞ。内容は重いです。村上春樹がインタビューしたから、地下鉄サリン事件の被害者が、取材に応じたのでしょう。暴力や痛みに関して、このような形で関わり仕事を残した点は、村上春樹が単なる人気作家ではなく、時代の責任や暴力に敏感な方だと思わされました。本は鈍器のように厚いので、京極夏彦のレンガ本・サイコロ本にページ数は近いです。インタビュー単位で読むことができる点は、違いですね。

③-3 象の消滅 / 東京奇譚集

もし、短編集から入るなら。良い短編は幾つもあるけど、この2冊を勧めます。

1993年Knopf 社で編集・出版された短篇選集『The Elephant Vanishes』の逆輸入版です。英語圏への村上春樹の自己紹介みたいな短編集だから、安心してお勧めできます。「緑色の獣」は、非日常を日常に融合させる仕方が、村上春樹らしいことと、扱ったテーマも。また、「沈黙」は村上春樹のスタンスを理解する際に、読んでおくと参考になるかと。

サーファーの息子を亡くした、シングルマザーの視点で語られる「ハナレイ・ベイ」を、とくに勧めます。人生の扱いや物語の映画的な展開が、読み終えて時間が経っても色褪せません。

④-1 ねじまき鳥クロニクル

日常が壊れて、日常を取り戻す「予兆」を描いたことが、村上春樹文学として、前進しています。それまでは喪失が多かったので。また、重厚で複雑になっています。かつ、初期作品を読んでいると、気がつくことも増えます。

④-2 村上春樹、河合隼雄に会いに行く

『ねじまき鳥クロニクル』を刊行したばかりの頃の対談。予備知識が無くても楽しめます。『ねじまき鳥クロニクル』を挫折したら、これを先に読んでも大丈夫。また、河合隼雄に関心がある方も、本文の補足も含めて、興味深い話があるので、一読の価値はあります。

⑤ 海辺のカフカ

ストイックな家出少年と、不思議なお爺さんの冒険に巻き込まれた好青年のお話です。私は、青年時代にリアルタイムで読みました。もしかすると、『ねじまき鳥クロニクル』より読みやすいかもしれない。

⑥ 1Q84

フーガのようなもので、変奏されているけど、新しい素材もあれば、『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』の頃から続く構造も確認出来ます。
私が読んだのはここまで。当時、本が読めなくなりました。難解な本ではないですが、カルトの話題は多いから、読めない方もいると思う。

⑦  積読

『騎士団殺し』は単行本を少し読んで積んで、電子書籍を買い直しました。『街とその不確かな壁』は予約で、電子書籍を買いました。冒頭を少し読んで止まっています。上記、アカデミック・ライティング入門で、

  • 飛ばし読み(Skimming Reading)

  • 拾い読み(Scanning reading)

  • 精読(Careful Reading)

上記が解説されています。小説の鑑賞は、ワーキングメモリへの負荷が高く(飛ばし読みや拾い読みは、小説では行いにくいので)、精読を行いにくいので、なかなか読めずにいます。

とはいえ、上記は読めましたし、毎日大量に言語生成AIとも話しているので、しんどい期間と比較すれば、かなりマシになりました。

このような流れで、積読も含めて、村上春樹文学の長編に絞って、私的村上春樹詰め合わせギフトを届けたのでした。このまま、Kindle端末の中で眠るのか、本達に未来はあるのでしょうか……。

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