松雪泰子さんについて考える(08)映画『容疑者Xの献身』

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松雪さん出演シーンの充実度:6点(/10点)
作品の面白さ:8点(/10点)
公開年:2008年
視聴方法:FOD、U-NEXT
 
※以下、多少のネタバレを含みますが、決定的なオチや展開には触れないようしております。
 
主演映画『フラガール』から2年経った、2008年。この年に出演した『容疑者Xの献身』と『デトロイト・メタル・シティ』が両方ヒット。

この2本は、松雪さんの役柄が対照的すぎて、同じ役者とは思えないのが面白い。
 
本作は、フジテレビの人気ドラマ『ガリレオ』シリーズの映画版。主演は福山雅治さん、準主演が柴咲コウさん。

有名な作品なので詳細は割愛するが、天才物理学者・湯川(福山)が、警察官(柴咲)の相談に応じて事件解決のためのヒントを提供するという筋書き。
 
福山さんが主演であり、そうであるからこそヒットしたシリーズともいえるのだが、この映画版では、堤真一さんと松雪さんの役柄がストーリーの中心を占める。
 
堤さんが演じた数学者は、高校教師を務める寡黙で地味な男。松雪さんは、その数学者(堤)の住むアパートで隣の部屋に暮らすシングルマザー・花岡靖子役。元夫から逃げ、自分で開店した弁当屋を切り盛りしている。2人は隣人であるとともに、弁当屋の常連客と店主でもある。
 
ある日、このシングルマザー・花岡靖子(松雪)が、アパートに現れた暴虐な元夫から脅迫を受けた際、咄嗟に娘と共同で元夫を殺めてしまう。そのただならぬ物音を壁越しに聞いていた隣人の数学教師(堤)が、花岡靖子(松雪)の部屋を訪れ、事件を知る。数学教師(堤)は、密かに抱いていた恋心から、殺人の隠蔽に手を貸すことになり…。
 
堤さんの演じた数学教師は、陰気で気味の悪いキャラクターだ。そんな男が店にやってきても、分け隔てなく親切に接するシングルマザーの弁当屋(松雪)。女手ひとりで娘を育てている苦労人の設定だ。しかし、それを感じさせない美貌の女性。そうであるからこそ、数学教師(堤)だけでなく多くの男性客が常連となり、店が繁盛している。(実際にそう説明しているセリフがある)
 
美人ではあるが、突如として殺人を犯してしまった薄幸な女。松雪さんの演じる役柄として、薄幸な女はよくあるパターンのひとつ。弁当屋として愛想よく振る舞うシーンも、感情が高ぶるシーンも、どれも難なく自然に演じているように見える。
 
そんな中でも、クライマックスのシーン(後述)以外で、よかった場面をひとつ挙げたい。
 
映画中盤、弁当屋に湯川(福山)と数学教師(堤)が来店するシーン(二人は旧友)。店頭に立つ花岡靖子(松雪)は、数学教師(堤)の友人だという湯川(福山)が何か別の意図をもって来店しているのではないかと感じ、数学教師(堤)に視線を向ける。このときの松雪さんは、目(視線)の動きも、ひきつった表情も、画面に緊張感を与えていてよい。そして、そんな狼狽を湯川(福山)に悟られないよう、うわべの会話だけ平常心を取り繕っている様子もさすが。カット割りの妙も手伝って不穏な空気が漂う、中盤の見所のひとつ。
 
作品全体の感想としては、ミステリー好きにとっては十分楽しめるものになっていると思う。視聴者をミスリードするトリックと演出に、意外性がある。ただし、ネットでの評判を調べる限り、東野圭吾さんの原作ファンにとっては少し物足りないらしい。原作は読まずにこの映画だけ見るつもりなら悪くない、といったところか。
 
それにしても、堤さんが素晴らしい。前田有一氏の「超映画批評」というサイトで、ハンサムな堤さんでは、美人弁当屋(松雪)に寄せる献身的な片思いという関係性が成立していないといった趣旨のことが書かれているが、自分はそうは思わない。陰気で気味が悪い雰囲気は十分出せているし、物語中盤、見ている側の背筋が寒くなるシーンすらあった。話し方、表情、猫背、歩き方、挙動…どれをとっても、不気味な男になりきっている。
 
そして、特筆すべきは終盤のクライマックスシーン。松雪さんも本気の演技なら、堤さんも渾身の芝居だ。必見。
 
ところで、堤さんと松雪さんの共演機会について。個人的に堤さんも好きなので、『吉原御免状』の記事でも紹介したが、改めて書こう。
 
おそらく、2000年の映画『MONDAY』が最初ではないか。この映画では、二人のムーディなダンスシーンが見どころだ。映画のキービジュアルとしてDVDのジャケットにもなっている。ちなみに、作品全体を通して、松雪さんはセリフがゼロ。それにもかかわらず強烈な印象を残す役柄だ。
 
その次が、2003年のドラマ『ビギナー』。この作品では、2人のコメディタッチのやりとりが面白い。見所シーンも満載で、個人的にはこの作品が一番気に入っている。
 
それから2005年の舞台『吉原御免状』(劇団☆新感線)を挟んで、2008年の今作。その後しばらく空いて、2016年に舞台『るつぼ』に至る。
 
これ以外にもあるかもしれず、遺漏があったら申し訳ないが、映像作品の3つについては、どれも見た方がいいと思えるものばかりで、おすすめ。

配信サイト「FOD」では、『ビギナー』『容疑者Xの献身』が定額料金内で、『MONDAY』はレンタル(別途料金)で視聴可能だ。
 

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