松雪泰子さんについて考える(28)映画『MONDAY』

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*松雪泰子さんについて考える(51)「歌は語れ、セリフは歌え」*

松雪さん出演シーンの充実度:10点(/10点)
作品の面白さ:7点(/10点)
公開年:2000年
視聴方法:FOD

※以下、多少のネタバレを含みますが、決定的なオチや結末には触れないようしております。

SABU監督による、「シリアスコメディ」とでもいうような、笑えるけど笑えないテイストの作品。独特で面白い。

SABU監督はとにかく堤真一さんが好きなようで度々起用している。本作も例に漏れず堤さんが主演で、酔っ払ったままとんでもないことをしでかしてしまうサラリーマンを演じる。

朝目覚めるとホテルの一室。なぜここにいるのか、前夜の記憶が無い。部屋にある物を手掛かりに思い出していくと、どうやら葬儀に行って、そのあと恋人と会い、さらにバーへ行ったようだ。

このバーで妖しいオーラを放つ美人客が現れる。松雪さん演じる白いノースリーブドレスの女だ。ただの美人だったらよかったものの、この女はヤクザの組長のツレだった。あろうことかその組長に酒を勧められ、ヤケクソで飲んだらその飲みっぷりが気に入られてしまう。

このバーのシーンでの松雪さんの色気がすごい。転がってきたビー玉を指で止め、微笑む表情。かと思ったら、今度は冷たい表情でサラリーマン(堤)のウイスキーグラスにタバコを投げ捨てる。それを男(堤)が飲み干すさまを見るときは薄ら笑い。どのシーンも不気味で妖艶だ。

やがて、組の事務所兼ダンスホールに連行され、いい加減な即興の踊りを披露するサラリーマン(堤)。それを白けた表情で睥睨する女(松雪)と組長、そして組員たち。しかし酔っ払っているサラリーマンは意に介さず踊りまくる。堤さんのダンスシーンはなかなか見れなくて珍しい。

ノリノリのファンクからメロウでスローテンポの曲に変わると、サラリーマン(堤)は突如、組長の女(松雪)に歩み寄る。女の手を取り、ダンスホール中央にいざなう。最初は無表情だった女も、意外とこなれた手つきのサラリーマンを面白く感じたのか、表情を緩めながらスラリと美脚を露わにする。蠱惑な動きで組長・組員たちの目線を釘付けにした後、最後はドレスの裾を捲りあげていき…。

この一連のシーンでは、松雪さんが演じる女の不気味で陰気な美しさが横溢している。出演時は28歳くらいのはずだが、その年齢が信じられないほど、「ヤクザの女」感がしっくりきている。本人は全然そんなタイプではないはずだが、どこにそんな引き出しがあるのだろう。この女の雰囲気を作り上げるメイクを手掛けたスタッフも素晴らしい。

付け加えると、メランコリックなBGMと小気味よいカット割りの妙も合わさって、目が離せない4分間に仕上がっている。

ちなみに、この2人のダンスシーンは制作側としても作品の山場という認識なのだろう。DVDのパッケージでメインビジュアルに据えられている。それだけ強烈なシーンだ。

松雪さん演じる女は、このシーンの後、サラリーマン(堤)がこの場を去る前にもう一度だけ登場するが、それで出演シーンはおしまい。このあとは最後まで出てこない。おまけに、以上で説明した全てのシーンを通じてセリフはゼロ。

そんな限定的な出演ではあるが、唯一無二の見所が凝縮されているため、松雪さん目当てで観ても充実度は十分高い。

その後のストーリーの流れは、サラリーマン(堤)の起こした行動の顛末が明らかになり、とんでもない展開が待ち受けるのだが、ネタバレ回避のためにも詳細は割愛する。社会派な主張も込められていたりしてなかなか面白い。

繰り返しになるが、堤さんと松雪さんのダンスシーン。この映画の見所はここに尽きると言っても過言ではなく、このシーンのためにだけでも観て損はないだろう。きっと、何度かリピートで再生したくなるはず。

ちなみに、この映画が2人の初共演のはずだが、このあと2003年ドラマ『ビギナー』、2005年舞台『吉原御免状』、2008年映画『容疑者Xの献身』、2016 年舞台『るつぼ』と多くの作品で共演を果たしている。これ以降は今に至るまで共演作品が無いのが残念だが。

この映画が公開された2000年には、『アナザヘヴン』も公開されており、その作品でも危険な香りを漂わせる女医を好演していた。この2作品のときのようなキャラクターはこれより後では見当たらないので、そういう意味でも貴重な作品と言えるだろう。

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