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【小説】 紅(アカ) 別の世界とその続き 第20話

第20話

僕はハッとして、部屋の中を見渡した。
こちらの世界に来てかき集めた沢山のものを見て、血の気が引いたのを感じた。

リリーだけじゃない。
僕こそ最近はだらけるだけで何もしていない。
「精算って誰がするの?」
「分からない。誰にも分からないよ」
リリーは、ボロボロと涙を流した。

なんて事だ。
全然夢の世界じゃない。
結局働かないといけないじゃないか。

——いや、待てよ。
「でも、働いてない人や、子供はどうするの?仕事が無かったらみんな人面魚じゃないか」
「そんなの、人に親切にすれば良いだけよ。私みたいに何も物で価値を生み出せない人は、人に親切にするの。親にでも良いし、子供にでも、友達にでも良い。そうやって自分の価値を生み出すの。私もそれで色々な人に手伝って欲しい事はないか聞いてまわったけれど……」

——だからこの街の人はやけに親切なのか。

でも、赤ちゃんは?

沢山の疑問が頭をよぎった。
そんな僕にリリーは、
「……私はダメなの。お仕事で価値を生み出したいけれど、特技なんて無いから」と、目に涙をまたいっぱいに溜めながら言った。

——別に仕事で評価されなくても生活できるなら、それはそれで幸せだと思うけど。
「そもそも、ピッタリ均等に与えて、受け取るなんて無理じゃない?」
「……うん。人面魚になっちゃうのは、たぶんあまりにも貰いすぎている人だけ」
「たぶん? そんなざっくりとした計算、誰が決めているの? 大体、そんな事分かっていたら親切も受け取りにくいよ。みんなギスギスするだろうし。……赤ちゃんだってどうするの?」
「赤ちゃんだって人に与えるものはあるわ」
「その測り方が曖昧だよ」
  
リリーはボロボロと涙を流しながら泣いていたが、僕こそ人面魚になってしまうかもしれない。そう考えると僕も泣いてしまいそうだった。

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