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【小説】 猫と飴  第7話

第7話

僕はリビングでぼんやりと考え事をしていた。
自分の部屋から出てきた彼女は、項垂れている僕を見て、「おかえり。どうしたの? 悩み事?」と気になった様子で聞いてきた。

彼女に、何て話したら良いのか分からない。気づいたらまた小さく溜め息をついていた。
「……ちょっとね」
彼女はキッチンへ行き、またグラスを出し、苺オレを注ぎながら聞いてきた。
「仕事の事?」
「いや、仕事は順調すぎるくらい順調だよ。また新しく大きな仕事も決まったし」
「……そっか。じゃあ、何の悩み?」
不満をぶつけても良いのだろうか。だいたい、言った所で僕の期待する様な答えをくれるのだろうか。たぶん、きっと……。
「……君には分からないよ」
苺オレをゴクゴクと飲み、彼女は笑顔で聞いてきた。
「そんな事ないかもよ? 話してみたら?」
「……いいよ。きっと言っても何のことか分からないから」
飲み終えたグラスをキッチンに、カタンッと置き、彼女は返した。
「じゃあ、いいよ」
「……」
彼女は僕の持って帰った紙袋を見て言った。
「これ、またプレゼントもらったの?」
僕は、彼女が興味を示した紙袋をチラリと見て答えた。
「うん。まあね」
「いいなぁ。人気者で。モテすぎて困っちゃうね」「……」
「こんなにプレゼント送ってきてくれる人とかがいるんだよ? 何かに秀でているって、良いね。何でも持っていて……羨ましいな」

彼女は笑っていた。何も分かっていないその笑顔にイライラした。

「確かに、人には恵まれているのかもね」
「その容姿だって、羨ましい。私もそんな風に生まれたかったな」
僕は苛立ちながら、面倒くさくなって少し投げやりに返した。
「どうでもいいよ。そんな事」

——そんな話をしたいんじゃない。
すると彼女は少しの沈黙の後、
「……どうでも良くなんかない」静かに、けれども少し怒った様子で、彼女は珍しく声を荒げて言った。

何が彼女の怒りに触れたのか、僕には分からない。

「何を君がそんなに怒ることがあるの?」

「別に。怒ってない」

彼女はさらに苛立った様子だった。

「そんなにイライラされても、僕には分からない」

「……モデルの仕事をして、結果も出して。何でも器用で。あなたはずっと恵まれてる。……もちろん、努力しているのだって知ってる。……だけど」
「別に、恵まれている訳じゃないよ。モデルの仕事だって、自分に出来る事をやっているだけ」
「ほら、どうせあなたにとっては、特別な事じゃ無い」「何でそんなに急に喧嘩口調なの? 君だって、仕事頑張ってるし。そんなに怒り出されても、こっちは訳がわからないよ」
「じゃあ、放っておいて」
「何でそんなに投げやりなの? 僕、何か悪いことした?」
「……」

何でこんな些細なことで喧嘩になるんだ。

最近はずっとこんな感じで、些細な事でこんな空気になる。

何が彼女を怒らせているのか僕には分からない。

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