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【小説】 蒼(あお)〜彼女と描いた世界〜  第15話 

第15話

それから四、五時間ほど歩き続けると、ウィリアムが言った。
「なんか、この地面グニャグニャしてないか?」
話しかけられたので、オリバーは答えた。
「地面? 何もさっきと変わらないけれど」
「ふふふ……」
ウィリアムが笑い出した。
「何だ、ここ。ぶふっっっ。くっくっくっっ」
笑っているのを見て、オリバーはすぐに幻覚を見ているのだと気がついた。
「おいおい、勘弁してくれ。二人も見きれない。僕も目の前がクラクラし始めたのに、おいっ。しっかりしろ。ウィリアム!」
ウィリアムは上機嫌で笑いが止まらなかった。
「くっくくっ。すごい、グニャグニャだ」
そう言って地面に笑い転げた。
オリバーは森の先を見てみたが、まだ延々と巨大な花に囲まれた森が続いていた。
「序盤でこんな調子じゃあ、最後までたどり着けないぞ! おいっ! 起きろ!」
オリバーは、ぐいっとウィリアムの腕を引っ張ったが、少しも持ち上がらなかった。
オリバーは背負っていた鞄の中からレジャーシートを出し、ウィリアムを転がす様にして乗せた。
「これで、引っ張っていくしかない。ジャンは君がしっかり見ていてくれ。様子が更におかしくなったら教えてくれ」
「わかった。……ほら、ジャン行くわよ」
リリーは、ふらつくジャンの手を持って引っ張って進んだ。 
ジャンは、「お酒はまだなの?」とブツブツと言っていた。
 
数時間歩き続けた所でやっと花が減って来た。
ジャンとウィリアムは、もう幻想の中をうろうろしている様でこちらの声が聞こえなくなっていた。
ひたすら歩き続けたオリバーとリリーは、少し座って水分補給をした。
「このまま、おかしくなったままなんてこと無いよね?」
リリーが不安そうにオリバーに聞いた。
「幻覚は見ているけれど、顔色も正常だし、僕の資料では、この森さえ抜ければ幻想の世界から抜け出せるってなっているけれど、ここまで幻覚作用が強いなんて思ってなかったから正直分からない」
「……大丈夫かなぁ。二人とも」
「幸い、花が減ってきた。この森を抜けるのも近いよ。ただ、抜けるって事は次の森に繋がっているって事だ。どちらかと言うとそっちを気にした方が良いのかもしれないね」
「次の森は、どんな所?」
「次は、地図通りだと【強欲の森】と呼ばれる所さ。身体感覚優位な人、つまり、気をつけないといけないのはウィリアムと君だね」
「もうこんな状態なのに、またウィリアムもなの? ……そもそもウィリアムは、この森でもおかしくなっちゃうなんて、あのテスト合っているの?」
「優位な感覚があるって言うだけで、みんなそれぞれどの感覚も使っているものだからね。テストに当てはまらなかったからって安全な森になるわけでは無いよ。彼は視覚刺激にもある程度敏感なのかもね」
「これ以上ひどい所じゃないと良いけれど」
「むしろ、楽園に見えるかもね」
「何それ?」
「まあ、行ってみれば分かるよ。」
 二人は休憩を終えて歩き出した。

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