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【はがきサイズに収まらなかった短編】キコエルドロップ テーマ:口ごもる

こんにちは!高木梢です。

今回のテーマは、「口ごもる」です!

コトバンクでは「くぐもる」だったんですよね。
口の中に言葉があってはっきりしない、言うのをためらう、といった意味だそうです。

そして、また(また!)はがきサイズに収まらなかったことをここに告白します。まだまだ修行が足りぬな・・・梢よ。し、師匠!悔い改めよ!今から滝行にゆくぞ!ええーーっ

・・・は!失礼しました。

次からは(いろいろと)気を付けます。長くなりますが、この物語がだれかの幸せにつながりますように。

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  スーパーの片隅に売っていた「キコエルドロップ ソーダ味」をなめてから、ぼくはは学校に向かった。うしし、これでだれとでもスムーズに話せるぞ!

 吃音ってわけじゃないけど、ぼくは会話の中で考える時間が長い。ここはごめんと言った方がいいのか、とかわかっただけじゃ冷たいかな、とか。

 その間、口の中でええっと、うんとって小さく言っているから、「マサト、ちゃんと喋れ。」なんていろんな人に言われる。

 幼なじみのアツシくらいになると大丈夫なんだけど、いつも悩んでいたんだ。中学に上がっても直らなかったから。

 それで、昨日見つけたのが「キコエルドロップ」。青い缶に入っている、丸くて小さなあめ。
 なめると、口ごもっている声が相手にとって一番好きな音に変わって聞こえるらしい。
 これで、もう話している相手をイライラさせることない!

 ルンルンと歩いていたら、今日の一時間目が社会だったことに気づいた。
 ぼくは社会科係だから、先生が事前に配るプリントを職員室まで取りに行かなくてはいけない。

 社会のシマダ先生は、般若みたいな顔がおっかないと評判の野球部顧問だ。最近女の子が生まれたらしく、本人いわく丸くなったと言っているが、それでも僕は怖い。おそるおそる職員室のドアを開ける。

 「よお。今日は図書室使うから、プリントそこまでよろしくな。」

 緊張で、とっさに「わかりました」が出てこなかった。一瞬の静寂が流れる。すると、先生はいきなり立ち上がって辺りを見回した。ぼくは、その隙にプリントを持って「わかりました!」と叫び職員室を出た。

 ドアの向こうで、先生が「たしかにエマの声が聞こえたんだけどな・・・」と言っていた。

 廊下を歩いていると、清楚でかわいいカズネちゃんが話しかけてきた。

 「ね、一時間目の社会って持ち物あったっけ?」

 ぼくはカズネちゃんの目が大きすぎてどきどきした。「ないよ」だけじゃきっとそっけないぞ、とあわててしまい、あう、えと、とか口ごもっていると、カズネちゃんがばっと真上のスピーカーを向いた。何か小声でぶつぶつ呟いている。

 「アキラ様のキャラソンだわ・・・放送部にミニ☆メモリーズを知っている同志がいるなんて。オタクバレしたくないけど、共に闘う(推す)しかないようだわ・・・。あ、ごめんねマサトくん!用事を思い出した!」

 そう言って放送室に駆けていった。顔が赤かったから、きっと僕のことが好きなんだろう。

 すごいぞ、キコエルドロップ!

 ぼくは調子に乗って、こっそりポケットに入れてきたドロップ缶を振り、2、3粒一気に口に入れた。すると、

 キャッキャッアハハ、ザッパーンザブーン、チャラリ~ララチャラリララリ~、君の笑顔が~アキラのしあわせ~、サワサワサワ、チュンチュン、ニャーオ、ピコーンピコーン!

 なんだこれ!頭の中に音が流れ込んでくる!

 ドロップ缶の注意書きを見た。

『一度に多量のドロップを摂取すると、自分の声が聞こえなる可能性があります。代わりに、他の人が好きな音が聞こえるようになるでしょう。』

 ということは、これって他の人が聞こえるはずの音が全部ぼくに流れているってこと?(カンカンカン!)え、このモノローグもだめなの!?なんで!?(エイサーエイサー)

 頭の中の音が(クンクン)うるさくなってぼくは、(ザーザーパラパラ)誰もいないだろう屋上へ逃げ出した。(おれのこと、気になるだろ?ふふっアァッキラァ~)

 ドアを開けると、青空が一気に広がった。静かな場所に、ぼくはほっとした。

 「あれ、マサトじゃん。」

 後ろから声をかけられて振り返ると、幼なじみのアツシだった。

 「授業サボり?おれも。」

 と言ってへらへら笑っている。あ、社会。もう戻らなきゃと思うと、ふと気が付いた。アツシから何も音がしないのだ。

 「あのさ・・・。」

 なんて聞けばいいか、とまた悩む。アツシは、首をかしげてぼくの言葉を待っている。

「なんか、今聞こえてる?」

「は?お前の声しか聞こえねえけど。」

 ぼくは、うるっときてしまった。

「アツシ、お前、本当いいやつだな・・・。」

「何言ってんだよ、今更知ったか。幼なじみだろー。」

 アツシはぼくと肩を組み、わははと笑った。

 ドロップの効果が切れた頃、アツシに今日会ったことを話すと、

 「俺にも一粒くれよ。」

 と言ってきたから、

 「絶対、ダメ!」

 と即答した。


Fin


ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
素敵な画像をお借りしました。





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